パリ・オペラ座バレエ団からオニール八菜とジェルマン・ルーヴェを迎えて、東京シティ・バレエ団が『白鳥の湖』を上演した

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

東京シティ・バレエ団

『白鳥の湖〜大いなる愛の讃歌〜』石田種生:演出・振付(プティパ、イワノフ版による)

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オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ © 鹿摩隆司

東京シティバレエ団が『白鳥の湖〜大いなる愛の讃歌〜』を、パリ・オペラ座バレエ団からオニール八菜(プルミエールダンスーズ)とジェルマン・ルーヴェ(エトワール)を、スウェーデン王立バレエ団から佐々晴香(プリンシパル)をゲストに招き再演した。ヴァージョンは東京シティ・バレエ団の看板演目ともいえる石田種生版である。
石田種生は熱心にロシア・バレエの研究を重ね、この『白鳥の湖』を振付けた。音楽性を重んじ丁寧に納得のゆくまで考察し、しばしば改訂している。日本人の振付家のものとしては、あまり例がないくらい再演を重ねている優れたヴァージョンである。美術は2018年に上演した、藤田嗣治が考案した舞台美術の案を模写したものに基づいて堀尾幸男が製作したもの。詳細は https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail003315.html に書いた。

開幕冒頭は屋外の庭園を舞台に、道化(岡田晃明)が闊達な踊りを見せ、やがジークフリード王子(ジェルマン・ルーヴェ)が登場しコール・ドと踊る。やはり、さすがにフランス・スタイルが際立った。
展開としては、他のヴァージョンに見られるように、結婚を命じられたジークフリード王子の孤独を強調して、ヴェリエーションを踊る振付などはなかった。しかし、ジークフリード王子の心の動きは理解できる。第2幕で王子は、ロートバルト(濱本泰然)により白鳥に変えられていた美しい王女、オデット(オニール八菜)と出会い、深いシンパシーを感じて愛を確認し合う。しかし、ロートバルトの強力な魔力によって二人は引き裂かれてしまう。そのストレスというか、暴力的別離の衝撃から回復できないまま王子は、第3幕の花嫁を選ぶ舞踏会に登場する。だから花嫁を選ぶことなど、到底できない。このドラマ展開は、とても理解しやすく優れていると思った。

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ジェルマン・ルーヴェ © 鹿摩隆司

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オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ、濱本泰然
© 鹿摩隆司

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オニール八菜 © 鹿摩隆司

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オニール八菜 © 鹿摩隆司

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オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ © 鹿摩隆司

第3幕は、オニール八菜のオディールが圧巻だった。ミステリアスな雰囲気を醸す表情の作り方も巧みで、王子ばかりでなく観客をも完全に魅了してしまう。王子を翻弄し、天に愛を誓わせオデットとの清純な恋をぶち壊し、ロートバルトとともに勝ち誇って去っていった。オニール八菜は、テクニックも表現力も優れているが、何よりもまるでアスリートが踊っているようにも見える強靭な脚が凄い。周りのダンサーを跳ね飛ばしそうな強烈なフェッテには目を見張った。この身体の強靭さがオディールのデモーニッシュな魅力をいっそう強化しているのだろう。

第4幕は、許しを乞う王子と愛の真実を確かめるオデットの感情の深部に働きかけるパ・ド・ドゥが見応えがあった。群舞もグループごとにラインを描き、オデットと王子の感情の激しい動きを舞台に描き出した。そしてロートバルトの魔力に決死で立ち向かう二人のエネルギーか勝り、ついには悪魔の力を打ち破り、純白のドレスのオデット姫をジークフリード王子は抱き止めることができた。
ハッピーエンドであるが、二人が深い愛よって力を合わせれば悪魔にも勝てる、ということもまた真実であろう。
(2022年8月14日 新国立劇場 オペラパレス)

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オニール八菜 © 鹿摩隆司

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オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ © 鹿摩隆司

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© 鹿摩隆司

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