ウラジーミル・マラーホフ=インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一、翻訳=針山愛美

2014年にベルリン国立バレエ団の芸術監督を退任した後、ヨーロッパだけでなくロシア、キエフ、キューバ、モナコ、スロヴァキア、クロアチアなどでバレエに関わる多様な活動を展開しているウラジーミル・マラーホフ。今年の年末から来年にかけて日本の3つの舞台に登場する。新型コロナの新しい株の出現で、厳しい入国制限が実施される中、スロヴァキアで『ヌレエフ』のタイトルロールを踊り、クロアチアの『くるみ割り人形』の振付を手直し、そしてこれが最後のフライトというギリギリのタイミングで入国が叶った。多忙を極めるマラーホフに最近の活動について話を伺った。

ーーベルリン国立バレエ団の芸術監督を退任された時は、別のカンパニーの芸術監督に就任することは考えられていなかったのですか。

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マラーホフ 2014年にベルリン国立バレエ団の芸術監督を退任した時には、一時は「もうこれで十分だ」、と思いました。しかし、東京バレエ団にアーティスティック・アドヴァイザーとして呼んでいただけたり、いろいろと活動を行いましたが、全てやり切るというところまではできませんでした。
退任後7年間経過した今、また、芸術監督としての活動したいと思っています。もちろん、いくつかのオファーもありましたが、私の力を十分に発揮できるようなところではなかったので・・・。かつての同僚たちがそれなりの地位についていて、声がかかることもあるのですが、友人としてそうしたポジションに就くとうまくいかないのではないかとも思います。そうした関わりのない「0」の地点で活動を行いたいと考えています。

ーー退任後には、ご自身としてはどのようにバレエと関わっていこうと考えられていましたか。

マラーホフ 芸術監督時代は多忙でしたが、私にはマネージャーがいました。しかし退任後は自分で全てを整えなければならなくなってしまって、とても煩わしくて落ち込んでいた時期がありました。パフォーマンスも多かったのですが、何かどうしても物足りないような気持ちがして、2、3ヶ月間も落ち込んだ状態が続きました。周りの人が心配してくれて、「まず、テレフォン・ブックを開いて、電話をするところから始めてみたらどう?」とアドヴァイスしてくれて、やっとそこからスタートすることができました。
今では、小さいパフォーマスから、ディアナ・ヴィシニョーワとガラ公演に出演したりしています。年齢相応にできることを継続しています。コンクールの審査員とか教えることなど、今はたくさんのオファーがあります。カンパニーのディレクターに就任するということももちろん、視野に入れているのですが、今はフリーで自由に活動できるということにも大きな魅力を感じています。カンパニーのディレクターに就任してしまうと、世界中のあちこちで自由に活動する、ということもできなくなってしまいます。もっとも今は、新型コロナ禍ですけれども・・・。

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ーーマラーホフ・ファンデーションは、どのような活動をされてきましたか。また、今後の予定はありますか。

マラーホフ 芸術監督退任後に、マラーホフ・ファンデーションを立ち上げて、タリオーニ・プライズとかマラーホフ・フレンズというガラ公演などを続けてきましたが、種々の理由からファンデーションは閉じることになりました。
また、キューバの「マラーホフ・グランプリ」はホルギンという街で、バレエ・コンクールを行なっているものです。毎年開催し、5年間継続してきましたが、1年おきの開催にしようとした矢先に新型コロナ禍に見舞われてしまいました。今後はファンデーションではなくて、自身でニュー・アイディアを加え、継続していきたいと思っております。

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「ヌレエフ」© Joseph Marčinský

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「ヌレエフ」© Joseph Marčinský

ーークロアチアで『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』の新演出をなさっていますが、マラーホフ・ヴァージョンの特徴はどんなところですか。

マラーホフ クロアチアでは、2014年にレオ・ヤコビナという元ベルリン国立バレエ団に在籍していたダンサーが芸術監督になりました。そこで、マラーホフ版の作品を上演しております。『ジゼル』あるいは『くるみ割り人形』や『眠れる森の美女』などのチャイコフスキーのバレエは永遠に残すべきもの、ということには十分に配慮しています。『白鳥の湖』のマラーホフ・ヴァージョンは、男性がたくさん踊るようになっているところが特徴だと思います。ロットバルトはたくさん踊りますし、ジークフリート王子も多くの出番でたくさん踊ります。そして悲劇性に重きを置いています。チャイコフスキーの音楽は悲劇を表していますので、そこにフォーカスしています。『くるみ割り人形』はマジカルな要素を強調しています。ガラ・パフォーマンス、ヴァリエーション、ディヴェルテスマン、と流れが続く展開ではなく、音楽の連続性に十分に配慮して振付けました。ジョークといいますか、おもしろいユニークな場面を入れて、総体的に楽しめる作品に仕上げています。

ーー祖国ウクライナのキエフ・バレエでも協力されて、指導なさっています。キエフには今でも若い有望なダンサーが多いのですか。

マラーホフ これまでキエフのバレエ学校では、『仮面舞踏会』『パキータ』『ラ・ペリ』(マラーホフによる復元)『コッペリア』などを上演してきました。それは寺田さんが校長だった時です。現在はエカテリーナ・クーハル校長になっています。キエフ・バレエ学校にはたくさんの才能がある生徒がいます。今は新型コロナ禍で難しいですが、また交流を再開していきたいです。

ーースロヴァキアのコシシェ・バレエで『ヌレエフ』に主演されたそうですが、これはどのようなバレエですか。聴衆の反響はいかがでしたか。

マラーホフ 『ヌレエフ』のパフォーマンスは3回踊りましたが、演劇的要素が多くマイムがたくさんあります。ヌレエフが回想するシーンが多いのです。ヌレエフという天才ダンサーの魂の深部を描きこんでいく作品です。第1幕は長く、マーゴ・フォンテーンの若い頃やエリック・ブルーンが登場したり。パリの空港でロシアから亡命するドラマティックなシーンでは、クララが活躍するなどのシーンがヌレエフの回想として描かれています。第2幕は踊りの要素がたくさんあります。パ・ド・カトルやバーを使った踊り、ヌレエフのお母さんも登場します。最後は涙を浮かべずにはいられない感動的なシーンです。コロナの影響で観客数は75パーセントに制限されていましたが、観客はとても喜んでくれました。

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「ヌレエフ」© Joseph Marčinský

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「ヌレエフ」© Joseph Marčinský

ーーマリインスキー・バレエのガラ公演でヴィシニョーワと踊られた、とお聞きしました。また、最近の「ロシア・バレエ」は変わりつつあるのでしょうか。ボリショイもマリインスキーもロシア人以外のダンサーが増えましたが、どのような印象をお持ちですか。

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マラーホフ マリインスキー劇場ではたくさんのフェステバルで踊ったことがあります。『ジゼル』『薔薇の精』『マノン』、スヴェトラーナ・ザハロワと『ジュエルズ』の「ダイヤモンド」踊ったり、『ペトルーシュカ』も。最近ではリュドミラ・コムリョーワ先生の80歳の誕生日記念公演では、ディアナ・ヴィシニョーワとハンス・ファン・マーネンの『老人と私』を踊りました。
現在のロシアのバレエは、ボリショイ・バレエのマハール・ワジーエフとかマリインスキー・バレエのユーリー・ファテーエフといったディレクターのテイストにもよるのかもしれません。最近は外国人のダンサーが在籍するようになりました。しかし、ABTにもロシア人のダンサーはたくさんいましたし、ヨーロッパではダンサーはいろいろな国でどんどん行き来するようななっています。私はそれはいいことだと思っています。

ーーベルリン国立バレエ団を退任されてから今日まで、いろいろな活動をなさってきました。今はどのようなことを思われていますか。

マラーホフ 本当にいろいろなことを行なってきました。ステージで踊るだけではなく、教えること、Instagramで情報や日常生活まで発信しています。多くの人にフォローされ、いろいろなことを新型コロナ禍の期間中に行なってきました。今は一刻も早く、元に戻ることを切実に願っています。

ーー12月16日に大阪の豊中市で、26日には静岡県伊東市で行われる「One heart」公演では、ひかる源氏の役を踊られるそうですが、この作品にはどのような期待をお持ちですか。

マラーホフ 「One heart」で踊る『源氏物語』のひかる源氏役は、自分にとっては全く新しい経験です。とても楽しみにしています。私をダンサーとして使っていただける、ということもとても嬉しいことです。私にとっては新しいチャレンジになると期待しております。

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「アルテア〜源氏物語」リハーサル

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「アルテア〜源氏物語」リハーサル

ーー「One heart」公演と来年の1月19日に豊中市で開催される「With Love From Malakhov」が、クラシック・バレエを踊る最後の公演になるかもしれない、とおっしゃられているそうですね。マラーホフさんはクラシック・バレエについてどのような想いを持っておられますか。

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「アルテア〜源氏物語」リハーサル

マラーホフ 確かに、"クラシック・バレエを踊る最後の公演になるかもしれない" と言いましたが、もしかするともう少し踊るかもしれません。ジャンプなどは以前のようにはできないのですが、パートナーとして踊ることはできます。『ジゼル』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』などのパートナーとして、クラシック・バレエを踊る可能性はあるかもしれません。
今回は針山愛美と「黒鳥」などを踊ることになってます。観客の皆様に私の今、感じているフィーリングやエモーショナルなものを伝えることができたらいいなと思っております。そして、私は新作も振付けますので楽しみにしてください。
私はステージに立つことは、大好きですし、すごく喜びを感じます。

ーーご自身が踊られたバレエの舞台で最も思い出深いものは、どの舞台でしょうか。

マラーホフ これはたくさんありすぎて、とても難しいです。思いつくだけでもアリシア・アロンソ、カルラ・フラッチ、マリシア・ハイデ、スヴェトラーナ・ザハロワ、ヴィシニョーワ、ナジャ・サイダコーワ、ジュリー・ケントなどなどと踊った一つひとつの全てのパフォーマンスが、自分にとっては印象深いものです。

ーーマラーホフさんは、今後どのようにバレエと関わっていかれるつもりですか。

マラーホフ 私が思い描いているプランはたくさんあるのですが、まだ、コロナ禍でもあり実現することが不確定なところもあります。Instagramをフォローしていただけばいろいろと発信していきますので。

ーー最後に、日本にたくさんいるマラーホフ・ファンに一言メッセージをいだだけますか。

マラーホフ 日本は私の一番好きな国です。たくさんの友達がいてたくさんのリレーションがあります。その中で12月16日12月26日、そして2022年1月19日の"With Love From Malakhov" の公演でお目にかかれることを楽しみにしております。実は、その公演の際に企画していることがあります。例えば、私の本とかサイン入りのシューズとか写真とかあるいはコスチュームとかを抽選でプレゼントすることを考えております。皆様にお目にかかれることを、とても楽しみにしております。そして皆様の健康を心から願っております。

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