BALLET FUTURE 2021、ROCK BALLET with QUEENなど積極的に舞台活動を展開する米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)に聞く

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一

----2020〜21年は特別な年でした。予定されていたプログラムが次々と中止となり、再開されたと思ったらまた中止。無観客公演、全幕オンライン配信公演となりました。リハーサルも大きな影響を受けました。まだ、完全復活には程遠いですが、再開されて最初に上演された『りゅうぐう』もまもなく再演されます。
こうした誰も体験したことのない状況をその真ん中で過ごされて、今はどんなお気持ちでしょうか。

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Ballet for the Future より ©Hidemi Seto

米沢 吉田都新国立劇場バレエ団芸術監督の熱い情熱に導かれた一年でした。オンライン配信という、新しいことに挑戦し、困難の中でもひたむきに前進しようとする監督の姿が、私にとって何よりのモチベーションでした。また、大変な時期でも劇場にいらしてくださるお客さまに、良い舞台をお見せしたい、と強く思います。そのためにどんなことがあっても、出来る限りの力を尽くしたいです。

----逆にオンライン配信などにより、バレエとはあまり縁のなかった方からの反響などはありましたか。

米沢 新国立劇場バレエ団は「ニューイヤー・バレエ」、そして『コッペリア』を無観客の舞台で動画を無料配信しました。誰もいない客席に向かって踊るのは寂しかったのですが、「バレエを見たことがない夫と見ました。夫が楽しんでいて嬉しかったです」「子どもが小さくて劇場に行けなかったけれど、家で子ども達と一緒に観ました」「海外から早起きして観ました」といったメッセージをお客さまからいただき、とても励まされました。
久しぶりにお客さまの前で踊ることができた『ライモンダ』の本番は、舞台に一歩踏み出した時、身体で感じるエネルギーの厚みに驚きました。客席から伝わってくるパワーに圧倒されそうになりながらも、そのことが心の底から嬉しい、そんな体験をしました。それは無観客の舞台を経たからこそ、感じることができたのだと思います。

----オンライン配信の『ドン・キホーテ』では、速水渉悟さんとパートナーを組んで踊られましたね。速水さんとパートナーを組まれていかがでしたか。

米沢 速水さんはとても華のあるダンサーです。彼が踊っているとつい魅入ってしまう。一緒に踊ると、彼の明るくて熱いエネルギーが伝わってきてとても楽しい。彼の躍動に連れられて、私の知らないところまで行けるような気がして、毎回、もっと一緒に踊りたい!と思います。

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BALLET FUTURE リハーサルより

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BALLET FUTURE (撮影時のみマスクを外しています)

----7月17日の「BALLET FUTURE 2021」公演では、その速水さんと『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を踊られます。このバランシンの演目は堀内元さんの協力のもとで、米沢さんが踊り続けられてきています。もとは『白鳥の湖』の曲だったとはいえ、全幕ものからの抜粋とはまた異なった、独立したパ・ド・ドゥですが、舞台をつくる上で何か特別に気をつけられていることはありますか。

米沢 『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を初めて踊ったとき、堀内元さんと吉田都さんにリハーサルを見ていただきました。元さんには振付を、都さんには音の取り方やタイミングを丁寧に指導していただきました。都さんにリハーサルを見ていただいたのはその時が初めてです。その当時から、都さんの繊細なリハーサルには、ほんの少しのことで踊りが変化する驚きがありました。
お二人に教えていただいたこと、また、間近で見ることができたお二人の踊りを胸に、チャイコフスキーの喜びに溢れた美しい音楽を体現したいと思っています。

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Ballet for the Future より ©Hidemi Seto

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Ballet for the Future より ©Hidemi Seto

----今回の「BALLET FUTURE 2021」は、ジャズピアニストの桑原あいさんを迎えて行われます。米沢さんは音楽がお好きだとお聞きしていますが、ジャズはいかがですか。

米沢 ジャズと言えば、デヴィッド・ビントレー作品の "Take five" が思い出深いです。五拍子や七拍子など、独特のリズムを掴むと、心も身体も弾みだし、とても楽しかったです。

----また、7月8日の「ROCK BALLET with QUEEN」公演では、クイーンの曲とともに多くのバレエ団のトップダンサーたちと踊られます。クイーンの曲で踊ることについてはいかがですか。

米沢 フレディの歌声とギターのパワフルな音色に乗せられて踊るリハーサルは楽しいですが、大きな舞台に立った時、この音楽に負けてしまわないように踊りの強度を高めていかなくてはいけないな、と感じています。また、ピアニストの壺阪健登さんが、どうアレンジして弾いてくださるのか、彼のピアノで踊るのが待ち遠しいです。

----米沢さんのお父様はご高名な舞台演出家でしたので、バレエよりも演劇の舞台の方がたくさんご覧になっている、とお聞きしました。新国立劇場の演劇『キネマの天地』出演の趣里さんとも対談されています。セリフのある演劇の演技と言葉を使わないバレエの演技では違うと思いますが、バレエの演技で特に気をつけられていることはどんなことでしょうか。

米沢 演劇の舞台に立ったことがないので、違いについてはよく分かりませんが、演劇とバレエで違うと思うことのひとつは、劇場の大きさです。大劇場の一番遠くにいらっしゃるお客さまにまで届く演技をしたいと思いながら、日々試行錯誤しています。

----米沢さんはビントレーの『パゴダの王子』で主役デビューされました。この作品は新作でしたから振付家と共に舞台を作り上げていく作業だったと思います。また、中村恩恵さんの『火の鳥』でも主役を踊られています。この作品も過去に振付けられていますが、中村さんは全くの新作として作られたと思います。コンテンポラリー・ダンスの新作の主演、という意味ではどのような体験でしたか。

米沢 『火の鳥』の娘役は、男性と偽って生きている反政府軍の兵士が、王子から火の鳥の羽を奪うために女装して騙しにいくけれど、王子を好きになってしまって、、、というストーリーで、ジェンダーが何度か変わるうえに、最後には皆から乱暴されるという難役でした。立ち方、歩き方が何より難しかった。自分の内側を探って自分の表現を生み出していくことと、作品を客観的に見て必要なものと不要なものを見極めていくこと。恩恵さんとのクリエイションを通して、内からも外からも鍛えられたように思います。

----米沢さんは新国立劇場バレエ団のレパートリーは、主役としてほとんど踊られたと思います。また、コンテンポラリーや創作ダンスも踊られました。今後ダンサーとして、どのような目標をお持ちでしょうか。

米沢 「良い舞台を創りたい」、それはずっと変わらないです。その気持ちはどんどん強くなります。舞台上の幸福は、何ものにも代えられません。今、目の前にある舞台に、全身全霊を注ぎたいです。

----たいへんお忙しいところ丁寧なお答えをいただきましてありがとうございました。これからの舞台を大いに期待しております。

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ROCK BALLET リハーサルより

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ROCK BALLET リハーサルより

(2021年6月 メールによるインタビュー)

新作ロック・バレエ 『ROCK BALLET with QUEEN』

●2021 年 7月 8 日(木) 19:00開演
●新宿文化センター大ホール
https://www.chacott-jp.com/news/stage/information/detail020402.html

堀内元 BALLET FUTURE 2021

●2021年7月17日(土) 開場17:00 開演17:45
●メルパルクホール大阪
https://www.chacott-jp.com/news/stage/information/detail021464.html

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