トップバレエダンサー×クイーン!!新作ロックバレエ『ROCK BALLET with QUEEN』リハーサルレポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

クイーンの名曲の数々で、トップバレエダンサーが踊る――新作ロック・バレエ『ROCK BALLET with QUEEN』公演が、2021年7月8日、新宿文化センター大ホールで開催予定だ。
振付は新国立劇場バレエ団ファースト・ソリストで振付家の福田圭吾。出演は米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、秋元康臣(東京バレエ団プリンシパル)、菊地研(牧阿佐美バレヱ団プリンシパル)、井澤駿(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、長瀬直義(元東京バレエ団ソリスト)、池本祥真(東京バレエ団ファースト・ソリスト)と、きわめて豪華な顔ぶれ。バークリー音楽院首席卒業のピアニスト・壷阪健登の出演も決定している。

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撮影:中嶋駿野(すべて)

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4月22日夜。都内の新宿村スタジオで公開リハーサルが行われた。
「とあるバーで、男性4人が人生に疲れて吞んでいるところへ、客として(米沢)唯ちゃんが現れます。唯ちゃんは音楽の女神、(池本)祥真くんはその使者という設定です。唯ちゃんに触れることで、男たちが生きる力を取り戻すというような、ざっくりとしたストーリーがあって......まずは1曲目、『ボヘミアン・ラプソディ』の途中のシーンから」。

福田が設定を説明した後、スタジオの四隅に秋元、菊地、井澤、長瀬が思い思いの姿勢でスタンバイ。「ボヘミアン・ラプソディ」が流れる。フレディ・マーキュリーの歌声がいったん途切れてアップテンポになり「スカラムーシュ、スカラムーシュ」と超高音コーラスが入る部分だ。女神の使者・池本のステップが音楽にビシビシとはまって軽快に弾む。重層的な音に、バレエの回転やジャンプが絶妙に合う。池本に呼び覚まされるように、4人の男たちが踊り出す。ポケットに手を入れたまま進むオフバランスのステップがカッコいい。「for me」というフレディのシャウトに合わせて、「俺が」「俺が」と男たちが押しのけ合うコミカルな振りも。ギターの重低音とともに、井澤、秋元らのジャンプが炸裂する。そして、降り注ぐ光のようなメロディの中を、女神・米沢が、男たちに次々とリフトされながら登場する。

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「この手、サスペンダーをおさえる感じがあるといいな」「カーテンを開くように」「このステップはスライドをしっかり見せて、『シャッ』っていう感じ」福田が振りのニュアンスを具体的に伝えていく。

続いて、米沢と秋元による『ショー・マスト・ゴー・オン』の後半部分。「Show must go on!」という切ないリフレインのたびに、秋元にリフトされた米沢が宙高く舞い上がる。秋元に向かって仰向けに倒れこむ米沢を、秋元が抱き起こし、二人はゆっくりと回りだす。
「そこは二人の時間、しっかり見つめ合って。最後のピルエット、"フ――ッ"って声に合わせて」「手の動き、康臣君は『ちょっと待てよ』って感じ。二人の手がうねうねと絡み合うように」「唯ちゃんの"パシン"、もうちょっとシャープにいくといいな。今でも十分きれいなんやけど......フェッテ(体の向きを変える)のときに背中を張ってたほうが、康臣くんが高いところでキャッチできる」
福田の指示で、最もアクロバティックなリフトの抜き稽古が始まった。空中で体勢が切り替わり、ゴムのごとくビュンッとけり出される脚。米沢が「自分がどうなってるかわからない」とつぶやくと、「すごいことになってるよ」と福田が笑う。見ているほうとしては本当に何がどうなっているのかわからないのだが、プロはそんな状態でも体のコントロールがきくのだなと思った。

リハーサル終了後、質疑応答の時間が設けられた。

今回の企画について、公演を主催するダンサーズサポート/DancersWebの石渡真美は、ロックとバレエをかけ合わせることで、バレエを観たことのない人も楽しめる舞台になるのではと考えたと語る。「クイーンの音楽は、皆さんご存じのとおりオペラを取り入れたりワルツの曲があったりと多様性に富んでいてバレエに合うのではと。何よりバレエダンサーがロックに乗って踊ると想像しただけでワクワクして、福田さんに振付を依頼しました」。

福田は、「クイーンの楽曲の多様性やパワーに、僕自身がどんどん何かを引き出されていく」と話す。「1曲1曲の個性が確立されているので、その雰囲気を壊さないように気をつけています。バレエでワイルドさを出すのが少し難しいですが、フレディに助けてもらっています」。公演では10数曲を使用する予定。現在、壷阪に「ミリオネア・ワルツ」、「手をとりあって」、そして「ウィー・ウィル・ロック・ユー」などの編曲と演奏を依頼しているという。舞台では、壷阪はバーのピアニストという設定で登場する予定だ。
「壷阪くんとは、クラリネット奏者の中ヒデヒトさんのパーティで初めて会って。その日がたまたま僕の誕生日だったんですけど、彼がおもちゃのピアノで『ハッピー・バースデー』をすごい勢いで弾いてくれたんです」。
壷阪は、昨年アメリカから日本に活動拠点を移したばかり。「リハーサルを見るのは今日が初めてなんですが、動きが圧倒的でびっくりしました」と語る。「何か弾ける?」と促され、壷阪はその場でジャズの小品を披露。スタジオはしばらく、心の襞にそっと触れてくるような美しい響きで満たされた。

米沢唯は、クイーンの音楽で踊っていちばん感じるのは「エネルギー」だと語る。「フレディのシャウトにこもった力はすごいなと感じます。あのエネルギーに負けない踊りをしなければ」。「メンバーは皆さんカッコよくて、私は役得だなって毎回思います。感謝の気持ちを込めて全力を尽くします」。
長瀬直義は、東京バレエ団でベジャールによるクイーン×バレエの名作『バレエ・フォー・ライフ』のツアーに参加した経験がある。「一番年上なので、みんなの足を引っ張らず、大人の空気で踊っていけたらと思います」。
井澤駿は「こんなに素晴らしいメンバーと共演できるのが嬉しくて。みんなのエネルギーに負けないよう頑張りたい」、秋元康臣は「ロックを通して、今までにない自分を引き出せたら。圭吾さんとは初めてですけれど、リハーサルが毎回楽しみです」と語った。
池本祥真は「もともとクイーンが大好き」だという。「大好きな曲で踊れるのが楽しいし、圭吾さんの振付も楽しい。精一杯頑張りたいし、精一杯楽しみたい」。
菊地研は、福田とジュニア時代からのつきあいだという。「圭吾の振付で踊りたいと昔から思っていました。お互い、いろいろな経験をしてきた今だからこそやれるのかもしれません。素晴らしい舞台になるように全力を注ぎますので、皆様も楽しみにしていただけたら」。

作品のテーマは「ロック」そのものだと福田は語る。クイーンの楽曲とトップバレエダンサーたちの踊りは、いったいどんな化学反応を起こすのだろうか。

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撮影:中嶋駿野(すべて)

新作ロックバレエ『Rock Ballet with QUEEN』

2021年7月8日(木) 新宿文化センター 大ホール
https://eplus.jp/sf/detail/3378480001-P0030001

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