飯島望未のトーク&ダンスを身近に感じた「ダンサー 言葉で踊る」レポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

8月27日、横浜・馬車道のダンスハウスDance Base Yokohama(DaBY)で、ヒューストン・バレエ団のプリンシパルであり、シャネルのビューティ・アンバサダーを務めるなどファッションの世界でも活躍する飯島望未をゲストに迎えたトークイベント「ダンサー 言葉で踊る」が開催された。「ダンサー 言葉で踊る」は国内外で活躍するダンサーが自分の活動を言語化して紹介するイベントで、第1弾の山本康介(元バーミンガム・ロイヤルバレエ)に続き、今回が第2弾となる。ナビゲーターはDaBYアーティスティックディレクターの唐津絵理、ホストは同じくダンスエバンジェリストの小㞍健太。

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写真提供:Dance Base Yokohama ©tatsukiamano(すべて)

トーク開始前に、飯島と小㞍が短いインプロビゼーション(即興)を披露した。二人は飯島が2016〜2017年、チューリッヒ・バレエに移籍していた頃に知り合ったが、一緒に踊るのは初めてだという。日本ではなかなか観る機会のない飯島の踊りを間近で観られるというのは、嬉しい驚きだった。

「温かい浜辺の砂の中で踊っている感じで、足のポジションをまず決めて。足の動きを、上体や腕の動きにつなげていって」「身体が浮遊するような無重力な感覚を見たいので、例えば身体を器でワイングラスになったとイメージして。動きに沿って、ワインが身体の隅々へ流れていく」小㞍が動きのイメージを言葉で伝えながら、身体を動かす。飯島がそのニュアンスを繊細にとらえつつ、まずは小㞍の動きをなぞっていく。やがて、二人の動きは会話のように自由になっていく。「僕は途中で抜けるんで。エア(架空)の僕がいるつもりで続けて」と小㞍。
飯島のきゃしゃな足が生き物のように床をとらえ、床を押すエネルギーが腰へ、胸へとせり上がり、指先まで張り詰めたかと思うと、くにゃりと崩れ落ちる。小㞍の指示通り、身体を流れる「ワイン」が目に見えるようだ。個人的には、黄金色をした高価な白ワインを想像した。飯島の動きが止まると同時に、会場は大きな拍手に包まれた。
観客にどんなことを考えながら踊っていたのかと質問され、飯島は「(小㞍)健太さんが抜けた後は頭が真っ白で(笑)。でも、考えてることが見えすぎるのもいやなので、真っ白なままで踊ってました」と語った。「話すだけでも楽しいけど、一緒に踊って間を共有できるともっと楽しいよね。お互いに目線や気配を感じながら動くと、相手の思いを身体が聴こうとするんですよ。今日は初めてなのに、それが自然にできたね」と小㞍。

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飯島が所属するヒューストン・バレエ団は、アメリカで五本指に入る大きなバレエ団で、古典からネオクラシック、コンテンポラリーまで多彩なレパートリーをもつ。トークでは、同バレエ団芸術監督スタントン・ウェルチ版『くるみ割り人形』『春の祭典』、キリアン『シックス・ダンスー6つの踊り』『ドリーム・タイム』など、様々な映像を交えて飯島の活動が紹介された。超絶技巧が要求されるフォーサイスの『精密の不安定なスリル』は、フォーサイス本人の指導を受けたという。

「フォーサイスの作品は明確なスタイルがあるから、少しでも崩すとフォーサイスではなくなってしまう。スタイルを身体にしみこませるまでが大変でした」と飯島。「振付家のメソッドをどう解釈して、自分のものとして出せるかが大切だよね」という小㞍の投げかけに対し、飯島はチューリッヒ・バレエ団への移籍経験についても語った。「マルコ・ゲッケなど、さらに先鋭的なコンテンポラリー作品も踊りたくて。思い切って、そういったレパートリーをもっているチューリッヒに移籍したんですが、『動きがバレエすぎる』といわれ、役がつきませんでした。私は振付のニュアンスを捉えて表現することは得意だと自負していたんですが、もっと自分なりのボキャブラリーを磨く必要があるんだと思います」。2017年、チューリッヒからヒューストンに戻った飯島は、2019年1月にプリンシパルに昇格。以後も、さらに様々なスタイルの作品や役柄を踊りこなしている。

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振付をどう覚えるかについての興味深い話もあった。小㞍はNDT時代、キリアンに「僕が言った動きを『そのまま』やっていないことはわかるよ」と言われたという。「『言われたとおり』じゃなくて、自分なりに想像をふくらませながら踊ってくれているね。僕の言葉より、その『自分なりに考えたこと』を書き留めておくといいよ、とキリアンに言われました。自分がその作品を教える立場になったとき、そのメモがすごく役に立ちましたね」と小㞍。
一方、飯島は音取りが非常に複雑な作品でも、メモを取ったりカウントを数えたりは一切しないという。「その場で動いていたほうが覚えられる。覚えるのも速いけど、舞台が終わったら忘れるのも速いんです(笑)」。世界トップクラスのカンパニーで長く踊ってきた飯島と小㞍だからこそ語れる、面白い話題が続いた。
唐津が「SNSを通じてバレエの間口を広げたい」という飯島の発言について尋ねると、飯島は「日本にも実力のあるダンサーはたくさんいるのに、活躍の場がとても少ない。小さい頃から積み重ねてきたテクニックや表現力を生かせないのは、すごく残念です。私ももっと勉強して、いつかはダンサーを支える立場になりたいと思っています」と語った。「踊りたい人は多いけれど、『支える』人材は少ない。まだ若く、これだけ第一線で踊っている飯島さんがそこに関心をもっているというのは、本当に心強いことです」と唐津。
「私自身は、いつ踊れなくなっても後悔はないくらい頑張ってきたので。欧米では、プロとして踊りつつ次のキャリアを考えるのは普通のことで、同じバレエ団の中にも、舞台に出ながら大学で学んでいる人がいます。この先、私にも自分の役割は必ずあると思っています」。飯島の言葉は、静かだけれど力がこもっていた。

最後に、観客から質問が寄せられた。「バレリーナになるにはどうすればいいですか?」という小学生の女の子からの質問に、飯島は「私も、絶対バレリーナになる! と思ってました。思い続けてください。そして、基礎を大事にして。日々自分の身体を見つめると、学べることがたくさんありますよ」と答えていた。

世界的なダンサーを身近に感じられる、大充実の2時間。ダンサーの「言葉」に触れると、ダンスを観る楽しみもさらに深まりそうだ。次回のOpen Lab「ダンサー 言葉で踊る」は9月12日(土)開催。ゲストは島地保武で、「フォーサイスと出会う〜 Before & After」をテーマにトークが展開される。

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写真提供:Dance Base Yokohama ©tatsukiamano(すべて)

https://dancebase.yokohama/
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail016734.html(飯島望未インタビュー)

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