アレッシオ・カルボーネ(パリ・オペラ座バレエ団プルミエールダンスール)=インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一

――島崎徹さんの作品をTheare de Paris で踊る予定があるとお聞きしました。島崎さんとの出会いについて話してください。

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© Chacott

アレッシオ 僕が島崎さんと出会ったのは、2018年11月にウクライナのマラーホフのガラ公演です。島崎さんのグループが踊っているのを見て、ハッとしました。音楽性、照明、協調性、全員が一緒に動いていて、グループのエネルギーを感じました。これは最近ではとても珍しいことです。それで島崎さんにお目にかかって、何か一緒にやりましょうと伝えました。
その後、島崎さんのグループではなく、島崎さんとわれわれの異なる文化的背景をミックスした公演を行いたいということから、彼の振付を上演することになりました。
島崎さんはとても勇気のある人です。僕は怖がらずに挑戦する人が好きなんです。何事もやってみなければわからないじゃありませんか。それは失敗するかもしれないけれど、怖がりすぎていては何も起こりません。そういう意味では島崎さんも同じメンタリティを持っていると思います。
僕は島崎さんの振付の音楽性が好きです。音楽の使い方がうまい。ステップのひとつひとつが音符のようです。ピアノだと一つのニュアンス、ヴァイオリンだともう一つのニュアンス、というふうに構成されていて、音符と振りだけではない際限なくどこまでも広がるように音楽を使っています。これはキリアンの作品を見ても感じることです。キリアンはチェコの出身で島崎さんとはバックグラウンドが違うのですが、キリアンに感じるのと同じようなフィーリングを僕は感じています。

――島崎さんの作品をリハーサルしてみていかがですか。

アレッシオ 最初は重心の置き方を理解することなど少し難しかったのですが、だんだんと動きの中に自由を感じることができるようになりました。"SAKURA"というタイトルも気に入っています。振りや曲の中で、桜の動きを感じることができる部分があるからです。桜の花が上を向いて花開くところがあるし、花が散っていくところが想像できるところもあります。全てが6分間のベートーヴェンの音楽に込められた作品です。これは桜のストーリーと同じに思えます。1年間もずっと楽しみに待たれていて、それがたった2週間くらいしか咲かずに散ってしまう、といった・・・。

――アレッシオさんのバックグラウンドといいますか、バレエはどのようにして始められたのですか。

アレッシオ 僕はスウェーデンのストックホルムで生まれました。父がマッツ・エックの母であるビルギット・クルベリーのカンパニーで踊っていたからです。私と姉はストックホルムで生まれ、弟はヴェネティアで生まれました。両親ともダンサーでしたし、姉はミラノ・スカラ座で踊っていますし、弟はフラメンコダンサーです。https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/others/detail016596.html
僕は子供の頃はサッカーがしたくて、あまり踊りたくなかったのですが、踊らなくてはなりませんでした。バレエ学校にも行きたくなくて、外でサッカーをやりたかったのです。
結局、僕はミラノ・スカラ座のバレエ学校に行き、スカラ座バレエ団で1年間踊ってからパリ・オペラ座バレエ団に移りました。その後、今から3年くらい前ですが、スカラ座バレエ団の芸術監督とコンタクトをとっていてディレクターにならないか、という話もあったのですが、まずはパリ・オペラ座バレエでのキャリアを終わらせてから、話し合おうということになりました。それにはスカラ座バレエがパリ・オペラ座バレエのレパートリーをとり入れたい、という意向があったのだと思います。僕もフランスのバレエとイタリアのバレエのコラボレーションには興味があります。ですから、僕がパリで経験したことを、僕が勉強した劇場でシェアすることができたら、とても嬉しかったのですがね。

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© Chacott

――マッツ・エックはパリ・オペラ座バレエで復活しますね。

アレッシオ ええ、僕はパリ・オペラ座で上演するマッツ・エックの新作『アナザー・プレイス』をリュドミラ・パリエロと踊ります。これはアナ・ラグーナとミハイル・バリシニコフのためにマッツ・エックが振付けた『プレイス』のもう一つのヴァージョンです。そしてそのリハーサルのためにストックホルムに着いた最初の日、マッツ・エックがスタジオで僕に「ここを覚えてる? 2歳の時、君はここで走り回っていたんだよ。君のお母さんもお父さんもここにいたんだよ」と言いました。そう、40年後、僕はそこに立っていたんです! そして僕のパリ・オペラ座バレエの最後の瞬間が、マッツ・エックと一緒なんて、ほんとうに不思議な感じがします。
この公演には両親を招きます。われわれの家族のストーリーにとって大切だからです。こうして僕はバレエの世界で育ちました。そして今は2歳と4歳の子供たちがいますが、僕とサッカーして遊びたがるんです。

――日本ではクラシック・バレエを観る観客とコンテンポラリー・ダンスを好む観客が、それぞれ異なっているように思います。そのバランスといいますか、クラシックとコンテンポラリーの割合はパリ・オペラ座バレエではどのように考えられているのでしょうか。

アレッシオ そうですね、今、パリ・オペラ座バレエはコンテンポラリーの割合がどんどん増えています。今シーズンは『白鳥の湖』と『シンデレラ』くらいかな。僕はパリ・オペラ座バレエでは、クラシックが65パーセント、コンテンポラリーが35パーセントくらいであるべきだと思っています。
世界にはもっとコンテンポラリーを上演できるカンパニーがたくさんあります。バットシェバとか、プレルジョカージュとか。クラシックとコンテンポラリー、という二つの大きな伝統を持っているのがパリ・オペラ座バレエの特別なところです。この両方をうまく踊るのはとても難しいことです。オペラ座のエトワールというのは、その両方がよく踊れる人のことです。
(このインタビューは2019年4月に行われました。アレッシオには最近の様子をメッセージで伝えてもらいました。以下に掲載します)

日本のバレエファンへのメッセージ

現在は、ダンサーにとって非常に奇妙な時間です。バレエクラス、リハーサル、ショーをする可能性がないのですから。私たちはその準備ができておりませんでした。しかし受け入れなければなりません。選択の余地はありません。
家族がいて、家族と一緒に時間を過ごすことができて幸運です。もちろんダンスが恋しいです。しかし、今、私にはいつも一緒に活動している仲間がいません。仲間とショーを組織することが恋しいです。
劇場がいつ再開できるかわかりません。この不確実性は私を悲しくさせます。
このドラマティックな状況を受け入れて今を生きようとする瞬間に、自宅待機の時間が観客にとってもアーティストにとっても、何かポジティブなものになるのではないか。そう信じると、喜びを感じることができます。
私たちは何かを待っており、忍耐力を養う必要があります。バレエの世界で成長するためには、耐える必要があります。ダンスは日ごとに構築していかなければなりません・・・。
しかし現代はまったく逆です。人々は今にすべてを求めています。ダンスではこれは不可能なのです・・・。キャリア、それは一つのショーではなく、何年も続くショーと人との出会いです。
2019年の夏にToruと一緒に仕事をしてショーをするつもりでしたが、この夏のパリに延期する必要がありました。そしてまた、まだ分からない未来の日まで延期する必要があるかもしれません。
この小さなあるいは大きな欲求不満が、私たちの実力の限界を超える機会を与えてくれる、と確信しています。
最初のショーの日は大きな喜びになるでしょう。まるで私たちが子供の頃、初めてダンスを発見した時のように・・・

アレッシオ・カルボーネ

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