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ベアトリス・カルボーネ「ミラノから、大好きな東京へエールを」

ワールドレポート/その他

インタビュー=矢沢ケイト

世界からバレエの舞台が消えた時<5>
ベアトリス・カルボーネ(ミラノ・スカラ座バレエ団 /ソリスト)=インタビュー

ミラノ・スカラ座バレエ団で芸術監督を務めた父を持つベアトリス・カルボーネ。バレエ学校からバレエ団まで含めて25年以上にわたってミラノ・スカラ座を見てきた。このバレエ団と長年ともに歩んできた彼女にとっても、新型コロナウイルス感染症による劇場閉鎖はやはり一大事件。それでも毎日を明るく過ごす秘訣を、元気いっぱいに話してくれた。

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『カルメン』より

----日本ではイタリアが大変な状況に面していると報道されていましたが、ミラノではご無事でお過ごしでしょうか。

今のミラノではリハーサルをすることはできません。なので、これからの公演がどのように影響を受けていくのか心配です。
今年の秋には訪日ツアー(※)が予定されているので、日本に行けることが2020年の楽しみでした。私は日本が本当に大好きなんです! オペラの引越し公演と打ち出されていると思いますが、ダンサーも数名参加して、私は『椿姫』の中で踊ることになっています。世界が早く元に戻ってほしい理由の1つでもあります。
息子も東京が大好きです。初めは彼が2歳の時、そしてその後もう1度連れて行きました。2週間くらい学校を休むことになるわけですが、それくらいしてでも連れて行く価値があると思うくらいです!

※9月にミラノ・スカラ座のオペラ公演が予定されていた。
https://www.nbs.or.jp/stages/2020/scala/
https://www.nbs.or.jp/publish/news/2020/05/2020-10.html

----ミラノの街やイタリアのご家族はいかがでしょうか。

私の家族はラッキーなことに全員無事です。私が住んでいるミラノは、最も感染者が増えた地域だと言われていますが、幸い無事です。
コロナは大変な騒ぎになっているけれど、これも1種の病気に過ぎないと思えば、乗り切れると思います。私は、人間は運命に導かれて生きていくと信じているので、もし私の人生のシナリオにこの病気にかかることが書かれているのであれば、私にできることは何もない。極端なことを言えば、そのように書かれていなければ、マスクをしなくても病気にかかることはないでしょう。そう考えていれば、全然怖くありません! シンプルに、通常の生活に早く戻りたいなと願っているだけです。私は毎年、占い師さんに1年間の予想を聞くので、その方の言うことを信じてみたりね(笑)。その方によると2021年には全部終わるらしいので、信じてそれまで頑張ろう!と思って過ごしています。怖がりすぎてしまうと、このイタリアでさえ、明るさを失ってしまうんです。なのでハッピーな心持ちを保つことが何より大切です!

----どれくらい外出制限が続いていますか。

3月の後半からは、ずっと家にいました。劇場はもっと前に閉鎖していて、バレエ団のクラスもその頃からなくなっています。今では、世界中のみんなが椅子やテーブルに掴まりながらバーレッスンをするようになりましたよね。

----ご自宅ではどのようなエクササイズをされていますか。

私は、上の階に繋がるのぼり階段の途中あたりのポールに掴まってバーレッスンをしています。今ではすっかり、ここが私の定位置ですね! 朝ではなくて、夕方の5時頃に始めます。朝はゆっくり過ごすようにしているんです。
バレエ団はクラスの配信はしていないので、ダンサーが個々に自分で動いています。私自身は、自分で考えたアンシェヌマンでバーをするのが好きです。自分のリズムは自分が1番よくわかるし、自分の好きな曲でできます。若いダンサーたちは誰かがアンシェヌマンを出してくれた方がやりやすいでしょうけれどもね。
そして気づいたんです。ダンスは、身体にとってもメンタルにとっても効く薬です。特にこんな時はね。バーを終えると、とっても気分がすっきりします。私は今日も元気!シャワーを浴びながら、少し疲れたなと感じる時も、今日も私は元気に生きている証拠だなと実感するんです。

---バレエ床などは支給されていますか。

いえ。バレエ団からはもらっていません。でもラッキーなことに私の自宅には木の床があります。多くの動きはシューズに少し水をつければ大丈夫です。それに、私が毎日取り組んでいるのは、腹筋などの床でできるエクササイズとバーレッスンなので、これで十分です。ジャンプができないのですが、私の年齢ではもうそこまで大きな動きをしなくて良いかなと(笑)。広さもこれで十分です。

----ご自身でもクラスを配信されていますよね。

はい。私は、On Danceというロベルト・ボッレが作った素晴らしいプラットフォームでバレエクラスを教えています。ここでは、いろいろなジャンルのダンスクラスが配信されているので、私自身も受講者として楽しんでいます。先日は1人でこっそりベリーダンスを始めました! ずっとやってみたかったんです。
私のクラスを受けている人の中には、昔踊っていたけれど最近はやめてしまったという方も多いです。なので、ストレッチになる動きを多めに取り入れたり、床の上で行うエクササイズも組み込んでいます。バーレッスン自体の内容も、ゆっくり優しく身体を動かせるような、誰でも挑戦できるような内容にするように心がけています。なるべく多くの人に楽しんでもらいたいです。受講者の方からたくさんメッセージをいただくのですが、ゆっくりで易しいレベルなところが良かったという声が多かったんです。今はたくさんのクラスがインターネットに溢れているけれど、私のクラスは特に、怪我しないように、やり過ぎないように、という工夫がある点でユニークだと言ってもらえています。子供にも、50代60代でバレエをやってみたい方にも、幅広い世代にバレエに親しむチャンスを与えられているなと実感しました。

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ドルチェ&ガッバーナの撮影にて。ロベルト・ボッレと。
© Marco Brescia

----バレエ団について伺います。多くのバレエ団がこのまま夏休みに突入してしまう恐れがありますが、ミラノ・スカラ座はいかがでしょうか。

全てが様子見の段階なので、現時点では分かりませんが、きっとこのまま夏休みでしょうね。そして公演もバレエ団も再開する日は決まっていません。9月に再開することを心から祈っていますが、劇場は復活する順番で言えば、かなり最後の最後だと思います。たくさんの人が同じ場所に集まりますしね。公演を開始したとしても、最初は皆さんきっと怖がるでしょう。
お客さんでいっぱいになった最初の公演を想像するだけでワクワクします。きっと喜びでいっぱい!嬉しすぎて泣いてしまうかもしれません! 溜まっていた感情が一気に爆発して、ものすごく感動的な瞬間になることでしょう。みんなにとっての、喜びでいっぱいのパーティーですね!

----今年は、昇格や新規入団のオーディションはありましたか。

いいえ。イタリアでは、入団や昇格するにはオーディション形式の審査(コンクール)を行うのが通例です。芸術監督には、時期を問わず、公演後にダンサーを各階級に任命する権利がありますが、コンクールを経てみんなに認められて上がることが望ましいとされます。学校を卒業するはずだったバレエ学校生は、6月にもらうはずだったディプロマ(学位)ももらえないんです。秋に持ち越しになるのでしょうか...。

----18歳から現在(44歳)まで、ミラノ・スカラ座にいらっしゃると伺いました。入団された頃から現在まで、どのような変化を感じますか。

今はとても若返ったと思うし、良いエネルギーがみなぎっています。これはミラノ・スカラ座だけではなくて、他の国にも共通すると思います。モダンな演目も増えて、競争率が高まっています。
同じ劇場のことで言えば、オーケストラはどんどん公演数が増えて、もっとタフになっています。オペラで言えば、以前は廊下を歩いているとマリア・カラスやパパロッティとすれ違うことがあったんです! 歴史が薫ってくるのを感じました。その点では以前のことを懐かしく思います。

----そして来シーズンは、芸術監督が交代されますね。現在のフレデリック・オリヴィエや、後任のマニュエル・ルグリについて、どのようにお考えでしょうか。

フレデリックは芸術監督として一緒に仕事するのも2回目ですし、その前に遡れば私の父と彼が一緒に踊っていたので、よく知っています。彼は人間としてとっても良い人で、それが芸術監督としてのバレエ団のディレクションにも発揮されているところが好きです。それに私は、パフォーマーのユニオン(組合)の代表も務めているので、勤務形態や給与のことで彼と話をする機会もあります。なのでダンサーと芸術監督、という関係のみならず、いろいろな目線で彼と向き合って、とても良い関係を築けていると思います。
マニュエルのことは、ダンサーとしてはよく知っています。私が若かった頃は、彼もよくミラノに来て踊っていました。ダンサーとして素晴らしいし、誰にでも気さくに振舞うキャラクターもとても好きです。バレエ団のみんなも彼と一緒に仕事することを嬉しく思っていると感じます。こんなに大変な時期に移動してくるなんて、ただでさえ大変なことが余計に大変になると思うとかわいそうだけれど、何事もスムーズにいくことを祈るばかりです。正式にマニュエルが始動するのは12月の予定で、その時からフレデリックはバレエ学校の方へ異動する予定です。

----ミラノ・スカラ座とパリ・オペラ座の関係について、教えていただけますか。

共通点はいろいろとあって、メソッドや考え方の点では特に近いものがあります。ですのでイタリア人で良いディレクターが見つからなければ、パリ・オペラ座から探すのは妥当だと思います。

----ユニオンのお仕事とおっしゃっていましたが、どのような内容でしょうか。

ミラノ・スカラ座のユニオンはとても強いです。他のイタリアの劇場が同じかはわかりませんが、これは伝統です。私がとりまとめているユニオンはアーティストのみのチームで、ダンサーとオペラ歌手とオーケストラのメンバーのみが含まれます。オフィス業務の方たちやお衣裳さんなどは含まれません。バレエ団の運営で何か問題があった場合に劇場側と話し合うんです。例えば日本にツアーに行くとします。物価や食費などの観点から、提示された支払額が十分でないという声が上がった場合は、私が劇場側と交渉しに行くんです。リハーサルも契約書に書かれた時間内にしかできないことになっています。コール・ド・バレエならば16時半まで、ソリストは17時半までとなっていて、1時間延長したら1時間分プラスでお給料をもらうという取り決めです。コール・ドのダンサーがソリストパートを踊ることになる場合は、17時半までリハーサルができることになりますが、やはり1時間分は多く支払ってもらえるようにしています。他にも例を挙げれば、ある公演のキャスト表を見て、芸術監督が気に入ったダンサーを良い役にたくさんつけて、プリンシパルのダンサーをないがしろにしているとします。こういう場合にも、プリンシパルを尊重するように配役すべきだと進言できます。キャスト表が貼り出されるまでダンサーたちは、オフィスで何が起きているかわかりません。なので公平性を保つためにも大切な役割です。

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『オネーギン』より

----ご自身のご家庭は、バレエ・ファミリーでいらっしゃると思います。バレエはどのようにして始められましたか。

8歳の時ヴェネティアで、母の元でバレエを始めました。きちんと習い始める前からも、母が踊っている公演を見るたびに自宅の鏡の前で音楽をかけて私も踊っていましたね。母よりも私の方が上手だと思っていました!
父は、ミラノ・スカラ座バレエ団の芸術監督をしていました。ヴェローナ、ナポリ、ローマなどの他の劇場にも移って、2度目の就任としてミラノ・スカラ座に戻ってきた時に、家族そろってミラノに引っ越しました。その時に私と弟のアレッシオ(パリ・オペラ座バレエ団プルミエ・ダンスール) は、ミラノ・スカラ座のバレエ学校に入学しました。確か私が15歳で、アレッシオが13歳でした。
芸術監督の子供というのは大変でしたが、同じクラスだった女子は今でもみんな仲良しです。もう踊っていない人も多くて、弁護士など全く違う仕事に就いた人もいます。これが今とても助けになっているんです。私はミラノ・スカラ座のダンサーで編成したグループ公演を行なっています。ミラノ以外のイタリアの街で劇場をおさえたい時には、バレエ学校時代の友達が、どこに行っても助けてくれます。だいたいはチャリティ公演として行なっていて、癌患者の方の支援などにつながっています。実はコロナが広がる前に、私のグループの公演として、病院に行ってお医者さんや患者さんを励ます活動をしようとしていたんです。この状況で実現できなくなってしまいましたが、まさに必要な時でしたよね。私のグループに続いて、いろいろなダンサーが周りの人を励ます輪が広がっていけば良いなと願っていました。
私のグループ公演には、プリンシパルとソリストだけを選んでいるんです。これには理由があって、知らない都市に行って公演をする時、いろいろな役や環境を経験しているダンサーならば、突然はじめての劇場に行っても、すぐに自分の感覚をその場に合わせて踊ることができると信頼できるからです。

----ミラノ・スカラ座の年間の上演作品のラインナップを拝見すると、古典作品の割合が多いように感じます。イタリアのお客様は、古典とモダンでは、どちらを好みますか。

古典の方が好まれると思います。スカラ座は、伝統の神殿のような場所としてミラノに君臨しているので、皆さん古典作品の世界を求めていらっしゃるのだと思います。『くるみ割り人形』と言えば、もちろん大人気。でも最近では、マッツ・エックやキリアンなども、モダンの領域でのマスターであるという認知が広がって、人気が高まっていると思います。
スカラ座以外の経験としては、私は一度、小さなバレエ団のマネージメントを手伝ったことがあるんです。人数が少ないので、古典的なグランド・バレエはできなかったのですが、公演を提案しに行く先々の劇場で、古典作品を上演して欲しいと言われたのを覚えています。
でもガラ公演ならば、モダンと古典を半分ずつくらいの割合で組むようにしています。古典作品は、踊りの出来栄えが100か1かとても極端に受け取られてしまう気がします。現代的な作品の方が、音楽の強さもあるので、楽しみ方がもっと幅広いと思うんです。なので、古典だけでなくネオクラシックやコンテンポラリーの作品も混ぜるようにしています。

----ご自身の今後はどのようにお考えでしょうか。

素敵なビーチで太陽を浴びて過ごしたいです!
たくさんの人が私に教えを頼んでくれて、必要としてくれたりするのはとっても嬉しいです。実際に、もう頼まれていることもいくつかあって、頼まれたら私は断れません。なので、もしも何もなくなるタイミングがあれば、シュッと海辺へ行きたいです(笑)!

----最後に、日本のバレエファンの皆さんへ、メッセージをいただけますか。

私はイタリアが大好きなのでずっと住んでいたいのですが、東京は、イタリア以外で唯一住みたいと思った場所です。落ち着くし、大好きなものがたくさん見つかるし、大好きです!
そんな私のセカンド・ホームの日本の皆様に送りたいメッセージは、たくさんたくさんありますが、短くまとめますね。
とにかく、今の状況に面している皆さんを励ましたいです。考えてみれば、私たちの先祖たちは、戦争や病気などいろいろな困難を乗り越えてきました。だから今生きている私たちにだって、乗り越える遺伝子が受け継がれているはずです。それに、今はテクノロジーも発展して電気もついて、昔よりずっと恵まれているのですから、乗り越えられないはずがありません。大丈夫です!! 私も日本に行ける日を、心から楽しみにしています。

<リンク>
ベアトリス・カルボーネ インスタグラム
https://www.instagram.com/beatricecarbone76/

On Dance
インスタグラム(レッスンのライブ配信や今後のレッスンの告知など)
https://www.instagram.com/ondance.it/

YouTube(過去のレッスンも見ることができる)
https://www.youtube.com/channel/UCrqyaTzYKFORxII4lOUxlow

ミラノ・スカラ座バレエ団
公式サイト
http://www.teatroallascala.org/en/la-scala/theatre/ballet-company/ballet-company.html

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