セ・ウン・パクがエトワールに任命されたパリ・オペラ座バレエ『ロメオとジュリエット』をウールド=ブラームとエイマンで観る
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Rudolf NOUREEV : "Roméo et Juliette"
『ロメオとジュリエット』ルドルフ・ヌレエフ:振付
セ・ウン・パク、ポール・マルク
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
バスチーユ・オペラでは6月10日から7月10日までルドルフ・ヌレエフ振付の『ロメオとジュリエット』が上演された。ロメオを初日に踊る予定だったジェルマン・ルーヴェが負傷したため、今までこの役を踊ったことのないポール・マルクが舞台に立ち、パートナーのジュリエットを踊ったセ・ウン・パク(31歳)がエトワールに任命された。
フランスを代表する日刊紙「ル・モンド」のバレエ評論家ロジータ・ボワソー女史によれば、パクの任命を祝福するメッセージがソーシャル・ネットワークで多く寄せられた。本来ならば初日にジュリエットを踊る予定だったエトワールのレオノール・ボーラックは「麗しいセ・ウン・パクさん、私はあなたのダンスと人柄をどれほど愛しているかご存知ですね。昨晩もあなたは再び初役を見事に踊り、その輝きによってあなたの練習と才能に見合ったタイトルを受賞しました。」とインスタグラムで心情を発露し、ロメオをいっしょに踊ったポール・マルクも「素晴らしい新エトワール、セ・ウン・パクに大きなブラヴォー」と熱い言葉を寄せた。
セ・ウン・パクは「本当にうれしい驚きでした。エトワール任命はずっと待っていましたが、いつになるか、あるいはもうないのか、わかりませんでした。初日に踊るのは予期していませんでしたが、ポール・マルクとみっちり練習していたので、踊りたい気持ちでいっぱいでした。」と喜びを語った。
セ・ウン・パク、ポール・マルク
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
セ・ウン・パク、ポール・マルク
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
セ・ウン・パク、ポール・マルク
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
6月10日の舞台を見た「レスムジカ」誌のカロリーヌ・ドゥウーク記者は「舞台に登場した最初からセ・ウン・パクは愛くるしいジュリエットだった。テクニックは常に堅固であるとともに、繊細、流麗で軽やかだった。控えの間でジュリエットが女友だちと遊ぶ場面では、自然さと少女らしい闊達さが醸し出されていた。ロメオとの出会いでは〔ロメオを初めて踊ったポール・マルクに硬さがあったために〕多少思い切りに欠け、二人の一体感が生まれず、一目惚れであることが感じ取りにくかった。愛する二人のデュオでも、ポルテはなめらかさと安定感に欠け、観客を感動させるには至らなかった。
セ・ウン・パクはジュリエットという人物の感情のニュアンスをよくとらえて、若い娘が愛によって女性として開花し、最後には悲劇のヒロインとして自決するまでを描き出した。」
ベテランのバレエ評論家ジャックリーヌ・チュイユーは「旋回するアラベスクには広がりがあり、バレエに対するあふれるような情熱は誰の目にも明らかだ。表情はやや硬いが魅力に富み、気品のある繊細なダンサーだ。とうとうエトワールに昇級したが、30歳を超え、輝きを増した今、その機が熟した。」
周囲への気配りがあり、舞台での演技や高い技術が評価されてきただけに、昇級はどのバレエ評論家も順当だとみなしているようだ。繊細で肌理の細かな役作りを活かし、これからエトワールとしていっそうの活躍を期待したい。
セ・ウン・パク、ポール・マルク
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
マチュー・ガニオ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
今回のシリーズではポール・マルクとセ・ウン・パクを皮切りに、ギヨーム・ジョップとレオノール・ボーラック、オジエル・グエノ(客演)とヴァレンティーヌ・コラサンテ、ユゴー・マルシャンとドロテ・ジルベール、マチアス・エイマンとミリアム・ウールド=ブラームの5組が登場した。カドリーユのギヨーム・ジョップが主役ロメオに破格の抜擢をされたことは、バレエファンの間で話題を呼んだ。エトワールないしプルミエール・ダンスールが本来踊る役だけに、オペラ座首脳陣が若いジョップの将来に期待を寄せているということだろう。
この5組の中でマチアス・エイマンとミリアム・ウールド=ブラームの組み合わせを、6月30日に見ることができた。エイマンは今オペラ座のダンサーでロマンチックな雰囲気が最も濃厚に出るダンサーだろう。ティボルトとの決闘へと至るところで、仲間のマキューシオとベンヴォーリオとの間に結ばれた友情が明瞭に視線や相手の肩に手をやる所作に出ていた。
ジュリエットと出会った瞬間に、二人の視線が熱く交差しエネルギーが舞台上にぱっと広がった。ミリアム・ウールド=ブラームは父のキャピュレット卿(ヤン・シャイユー)や乳母(アネモーヌ・アルノー)に甘えたりするところでは幼い少女の面影を残しながら、ロメオと会うたびに相手への想いによって成熟していく様子が細やかな演技と表情、視線によって彫琢されていた。ジュリエットの内面がこれほど明瞭に感じられる女性ダンサーは他にいない。
この二人の息がぴったり合っていることは、カーテンコールに現れた時、相手を見やる視線の温かさからも明瞭だった。あとわずか三年で現在オペラ座の女性ダンサーで最も詩情をたたえ、身体が音楽と溶け合ったような動きを見せてくれる人がいなくなってしまうというのは寂しい限りだ。今回のシリーズでこの二人による舞台が録画されるということは朗報だ。
出番が少ないのが残念だったが、オニール 八菜がロザリーヌ役で登場し、あでやかな姿を見せてくれていた。いつか、彼女のジュリエットを見てみたいものだ。なお、オニール 八菜は平行してガルニエ宮で行われている「ローラン・プティへのオマージュ」の『ランデブー』の世界最高の美女役とカルメン(主役)も踊っている。
(2021年6月30日 バスチーユ・オペラ)
レオノール・ボーラック、ギヨーム・ジョップ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
ヴァランティーヌ・コラサンテ、オジエル・グエノ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
ヴァランティーヌ・コラサンテ、オジエル・グエノ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
エロイーズ・ブルトン
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
フランチェスコ・ムーラ(マキューシオ)
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
レオノール・ボーラック、ギヨーム・ジョップ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
ギヨーム・ジョップ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
ヴァランティーヌ・コラサンテ、オジエル・グエノ
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
ジェレミー・ルー・ケール(ティボルト、アルチュス・ラヴォー(キャピュレット卿)
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
(写真は他日公演です)
配役(6月30日)
ジュリエット:ミリアム・ウールド=ブラーム
ロメオ:マチアス・エイマン
ティボルト:ステファン・ブリヨン
マキューシオ:フランチェスコ・ムーラ
ベンヴォーリオ:マルク・モロー
ロザリーヌ:オニール 八菜
パリス:ヤニック・ビッテンクール(第1・2幕)、ダニエル・ストークス(第3幕)
乳母:アネモーヌ・アルノー
キャピュレット夫人:エヴ・グリンツテン
キャピュレット卿:ヤン・シャイユー
ローラン神父:シリル・ショクルーン
他
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