英国ロイヤル・バレエ新シーズンが平野亮一主演『うたかたの恋』で開幕! ロイヤル・オペラ・ハウスのバレエ配信、「ワールド・バレエ・デー2022」も開催される

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

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「うたかたの恋」平野亮一とナターリヤ・オシポワ

Mayerling. Natalia Osipova as Mary Vetsera and Ryoichi Hirano as Rudolf. c ROH, 2018. Ph. by Helen Maybanks
※「うたかたの恋」の写真は今回公演の写真ではありません

英国ロイヤル・バレエの2022-2023年新シーズンは、10月5日、『うたかたの恋(マイヤリング)』で開幕した。初日は主役のルドルフ・オーストリア皇太子を平野亮一、そして彼の若い情婦マリー・ヴェッツェラをナターリヤ・オシポワという配役で、この公演は英国はじめライブ・シネマで中継された。日本でも後日「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」で上映される予定だ。

この公演について、英国の経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は星5つ、一般紙「タイムズ」「テレグラフ」「オブザーヴァー」はそれぞれ星4つの評価を下している。アートジャーナリズムWebサイト「アーツ・デスク」の記者ジェニー・ギルバートは「この作品の上演中(1992年)に、63歳の振付家(ケネス・マクミラン)舞台裏で倒れた。これ以外に、彼の没後30年を記念するのにふさわしい作品は見当たらない」と述べている。「フィナンシャル・タイムズ」記者のルイーズ・レヴィーンは「ライブ・シネマ・リレーは常に高光沢な仕上がりが保証されているが、新シーズン開幕の夜の英国ロイヤル・バレエの出来は並外れたものだった。水曜日の『うたかたの恋』のリバイバルは亡きマクミランへの価値ある賛辞となった。イレク・ムハメドフ、リャーン・ベンジャミン、エドワード・ワトソンを含む著名な〈マクミラニスト>(マクミラン作品の出演者達)による贅沢な指導のおかげで、力強く奏でられ、踊られた」と評している。
「タイムズ」紙のマリリン・キングウィル記者は「身体の限界が試される鮮やかな振付と演技のなかに痛々しいほど刻まれた精神病と情熱を見出す作品はほかにない。行き過ぎてはこのバレエのメロドラマ的な傾向を強め過ぎてしまいかねないが、マクミランの没後30周年を記念して、英国全土の500の映画館でライブ上映された、この最新のリバイバルの初日の夜のキャストを率いた平野亮一はそのような傾向に陥らず、見事なパフォーマンスをみせた」と評した。

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「うたかたの恋」
平野亮一とナターリヤ・オシポワ
Ryoichi Hirano and Natalia Osipova in Mayerling, photo by Helen Maybanks ROH

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「うたかたの恋」マリアネラ・ヌニェスのミッツィ
Mayerling. Marianela Nunez as Mitzi Caspar. ROH, 2017. Ph. Alice Pennefather.

その他のキャストについても「マリアネラ・ヌニェスはその場の主役をさらったミッツィ・カスパーであり、おろしたてのトゥシューズが非の打ちどころのないフットワークを際立たせていた」(ファイナンシャル・タイムズ)、「ラウラ・モレーラのラリッシュ伯爵夫人については、基本的にルドルフに売春斡旋しているにもかかわらず、エレガントで共感を覚えた。新妻ステファニーを演じたフランチェスカ・ヘイワードは、ルドルフが彼女のベッドに来て銃を振り回し、頭蓋骨を撫でたとき、怯える様が美しかった。...(中略)...エリザベート皇后役のイツィアル・メンディサバルは情熱的な面と冷徹な面の落差に興味をそそられた。ナターリヤ・オシポワは危険を好むメアリーを我々に見せてくれた」(タイムズ)と高評価を得た。
「フィナンシャル・タイムズ」のレヴィーン記者は「平野亮一による不幸な王子役の表現については、4年前の急遽デビューとなったときよりも勢いを増していた。これは昨年の春、スコティッシュ・バレエの短縮版ともいうべき『The Scandal at Mayerling(マヤリングでのスキャンダル)』に出演したことにも一因があるだろう」と記している。英国ロイヤル・バレエでは、2018年10月にも新年度の開幕にエドワード・ワトソンとナターリヤ・オシポワを主役に据えて『うたかたの恋』を準備していたが、ワトソンの故障のため急遽、平野が代役を務めることになった。その当時の顛末についてはアンジェラ加瀬氏がレポートしている。
スコティッシュ・バレエの『The Scandal at Mayerling』はマクミランの『うたかたの恋』を基に、デボラ夫人の協力を得て、芸術監督クリストファー・ハミルトンとロイヤル・バレエでレペティトゥールとしてマクミランの『マノン』の1990年のパリ・オペラ座での初演や『大地の歌』の1996年の再演にあたったギャリー・ハリスが再構成した作品である。「スコッツマン」紙は「スコティッシュ バレエによるこの新しいヴァージョンでは、作品の心理的な心臓部がさらに強く鼓動する」と評している。平野はゲスト・プリンシパルとして2021年5月7〜9日にアバディーンのヒズ・マジェスティ・シアターでルドルフ皇太子を演じた。

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「うたかたの恋」平野亮一とフランチェスカ・ヘイワード
Francesca Hayward and Ryoichi Hirano in Mayerling photo by Helen Maybanks ROH

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「うたかたの恋」平野亮一
Mayerling. Ryoichi Hirano as Rudolf. © ROH, 2018. Photographed by Helen Maybanks

ロイヤル・オペラハウスでは観客に作品の指導の模様を公開する「Insights」シリーズを開催しており、今回の『うたかたの恋』の復活上演についても動画が公開されている。登壇したダンサーは前半はマシュー・ボールとラウラ・モレラ、コーチはゲスト・レペティトゥールのゼナイダ・ヤノウスキー、後半はマヤラ・マグリとボール、コーチがモレーラだった。前半の指導では、ルドルフ皇太子の部屋をマリー・ヴェッツェラが初めて訪れる場面だった。ボールの歩き方について、ヤノウスキーは「自分の部屋に知らない若い女の子が訪ねてきたら、どんな気持ちになる?」と彼の注意を感情面に向けさせており、英国ロイヤル・バレエが演劇的だといわれる秘密の一端を覗いたように感じた。登壇したケヴィン・オヘア芸術監督はロイヤル・バレエスクールのホワイト・ロッジの学生の頃、12歳くらいのときにこの作品の初演のドレス・リハーサルを見学したという。それまでに見ていた『眠れる森の美女』などと違い、踊りや動きを通してドラマを語るこの作品を見たことは大きな転機だったという。「(平野)亮一も最初は棺を下ろす役からスタートしてあらゆる役をやってきた。このように、ダンサーがこの作品のいろんな役を経て主役に至る道のりを見るのはとても嬉しい」とオヘアは語る。平野は2010年の来日公演ではルドルフの母エリザベート皇后の恋人で英国の軍人ベイ・ミドルトン大佐を演じている。また、この動画の後半ではデボラ・マクミラン夫人も登場し、『うたかたの恋』の誕生について、マクミランの知られざる素顔などについて語る。


ロイヤル・オペラ・ハウスはコロナ禍のサブスクリプション型オンデマンド配信サービス「ロイヤル・オペラ・ハウス・ストリーム」を10月4日より開始した。これまでは作品ごとに視聴料を払うシステムだったが、月額9.99ポンド(約1,615円)もしくは年額90.99ポンド(約16,000円)で現在の公開リストはオペラ、バレエ合わせて45作品、舞台裏のドキュメンタリー、インタビュー、公演、トークやリハーサルなど関連コンテンツ85本からスタート。今後も作品や舞台裏の映像やインタビューなどを順次増やしていく予定だという。

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マリアネラ・ヌニェス『ジゼル』
Marianela Nuñez as Giselle in Giselle, The Royal Ballet ©2016 ROH. Photograph by Tristram Kenton

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ワディム・ムンタギロフ コヴェントガーデンのリハーサル
Vadim Muntagirov in rehearsal for Live from Covent Garden, 20 June 2020 ©2020 ROH. Photograph by Tristram Kenton

◆「ロイヤル・オペラ・ハウス・ストリーム」バレエ作品リスト

『ダンテ・プロジェクト』(2021)
『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』(2020)
『ライモンダ』第3幕(2019)
『眠れる森の美女』(2020)
『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』(2019)
『フライト・パターン』(2019)
『冬物語』(2018)
『マノン』(2018)
『不思議の国のアリス』(2017)
『ジゼル』(2016)
『シンフォニック・ヴァリエーションズ』(2017)
『真夏の夜の夢』(2017)
『ラプソディ』(2016)
『インフラ』(2008)
『ドン・キホーテ』(2013)
『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』(2005)
『コッペリア』(2019)
『白鳥の湖』(2018)
『幽玄 YUGEN』(2018)
『コリュバンテスの遊戯』(2018)
『エニグマ・ヴァリエーションズ』(2019)
『アナスタシア』(2016)
『エリート・シンコペーションズ』(2010)
『ユダの木』(2010)
『コンチェルト』(2010)

「ロイヤル・オペラハウス・ストリーム」公式サイト
roh.org.uk/stream

世界各地のダンス・カンパニーをオンラインで中継する「ワールド・バレエ・デー 2022」が11月2日に開催される。昨年はロシア勢を含めて50団体が参加したが、今年は英国ロイヤル・バレエとオーストラリア・バレエがホストとなり、欧米、アジア、アフリカ諸国より過去最多となる60以上のカンパニーが参加する。初参加はモンテカルロ・バレエ、ジョフリー・バレエ、ワシントン・バレエなど14団体。そのほか、新国立劇場バレエ、パリ・オペラ座バレエ、シュツットガルト・バレエ、ベルリン国立バレエ、ウィーン国立バレエ、ミラノ・スカラ座バレエ、オランダ国立バレエ、デンマーク王立バレエ、スウェーデン王立バレエ、フィンランド国立バレエ、アメリカン・バレエ・シアター、ヒューストン・バレエ、ボストン・バレエ、サンフランシスコ・バレエ、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター、カナダ国立バレエ、イングリッシュ・ナショナル・バレエ、バーミンガム・ロイヤル・バレエ、ノーザン・バレエなどが参加予定となっている。
英国ロイヤル・バレエでは、日本時間19:00よりモーニング・クラスでスタートし、4時間のライブ中継を行い、今シーズンの『うたかたの恋』と『ダイヤモンド・セレブレーション』のリハーサルのスニーク・プレビューが公開される。ロイヤル・バレエスクールの生徒たちも出演し、今をときめく振付家の新作も紹介される。
オーストラリア・バレエでは、日本時間9:00〜13:00にわたって芸術監督デヴィッド・ホールバーグの解説つきでクラスの模様が通しで中継され、続いてオーストラリアのダンス界を幅広く紹介する三部構成の舞踊フェスティバル「DanceX」のリハーサルと、クランコ版『ロミオとジュリエット』のリハーサル、そしてトリプル・ビル「Instruments of Dance」で上演されるレジデント・コレオグラファー、アリス・トップ振付の『Annealing』とジャスティン・ペックの『Everywhere we go』のリハーサルの模様が公開される。
英国ロイヤル・バレエのオヘア芸術監督は「我々の2022-2023シーズンは素晴らしいスタートを切りました。11月開催の今年のワールド・バレエ・デーを楽しみにしています。世界中の実に多くの優れたカンパニーとこの日を共有でき、舞台裏の魅力をお見せできることをとても嬉しく思います。バレエ愛好家の国際的なコミュニティがオンラインで全てのカンパニーと一同に会し、芸術を非常に前向きな力にするダンスの豊かな芸術性とレパートリーを世界中で祝うことができることを願っています」とメッセージを寄せた。

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マヤラ・マグリ
World Ballet Day 2021 ©2021 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

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アナ・ローズ・オサリヴァン
Anna Rose O'Sullivan, The Royal Ballet - World Ballet Day 2022 ©2022 ROH. Photograph by Andrej Uspenski

また設立60年を迎えたオーストラリア・バレエ芸術監督のデヴィッド・ホールバーグは「ワールド・バレエ・デーはオーストラリア・バレエのスタジオの扉を開けて、ダンサーたちが日常的に行っている秘密の作業を分かち合う瞬間です。ショーの前には、何時間ものリハーサルがあり、ワールド・バレエ・ デーは、目の前で表現されるバレエの美しさを最も間近で見るチャンスです」と話している。
英国ロイヤル・バレエとオーストラリア・バレエのライブ中継はFacebookとYouTubeで行われ、TikTokでも特別コンテンツが配信される。上記のスケジュールは変更する可能性もある。そのほかの参加カンパニーと配信スケジュールは今後ワールド・バレエ・デーの公式サイトでアップデートされる。
一般視聴者からも老若男女問わず、『眠れる森の美女』に関連したダンスをSNSに投稿し共有する企画も受付中だ。英国ロイヤル・バレエ プリンシパルのアナ・ローズ・オサリヴァンのサンプルTikTokも公開中。
バレエ経験の有無は不問、また振付はアレンジ可能。投稿の際は「#WorldBalletDay」を付けること。

◆「ワールド・バレエ・デー 」2022公式サイト
https://worldballetday.com/

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