[ミュージカル]宝塚歌劇 花組公演『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』『EXCITER!!』
- ワールドレポート
- ワールドレポート(その他)
掲載
『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』『EXCITER!!』
宝塚歌劇 花組公演
宝塚の男役トップスターには、必ず安定期があってほしい。フレッシュなスターが次々あらわれて人材の新陳代謝がしっかり行われるのが宝塚の長所だが、やはり舞台では、長年積み重ねられてきた"芸"を堪能したい。そのためには、トップに就任してからも熟成する時間がしばし必要だ。
花組トップスター・真飛聖は、お披露目から4作目となる大劇場公演『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』『EXCITER!!』(9月4日~10月5日まで宝塚大劇場で、10月23日~11月22日まで東京宝塚劇場で上演)で、まさに安定期の舞台を見せてくれた。芝居で演じた耐える男・アンドレと、ショーでみせたなコミカルでキュートな"Mr.YU"のコントラスト。真飛らしい魅力の両極が響き合った公演だった。
一幕は、2008年全国ツアーの『外伝 ベルサイユのばら』3部作に続いて中日劇場で上演された、『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』を宝塚大劇場仕様にヴァージョンアップした作品。途中から視力を失いながらもオスカルに一生を捧げ、ともにフランス革命で散るアンドレの半生を追う。
主演の真飛は、一途な男、耐える男が似合う。思い返せば、当たり役だったバウホール単独初主演作『花のいそぎ』で演じた小野篁(おののたかむら)も、愛しい人への想いを隠し、見返りを求めないストイックな人物だった。アンドレも、「こんな男性に思われたら幸せだろうな」という、宝塚ファンの乙女心をくすぐるキャラクターだ。ニュー・ヴァージョンでは楽曲の大部分も新曲になったので、真飛のハスキーで切ない歌声で、「ブロンドの髪ひるがえし~♪」と名曲『心のひとオスカル』を聞けなかったことが心残りだが。
宝塚歌劇 花組公演
宝塚ロマン『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』
真飛 聖
宝塚歌劇 花組公演 宝塚ロマン『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』
二幕のショー『EXCITER!!』では、オフショットでのぞかせる愛らしい大人の女性の横顔とはひと味違う、真飛の男役としてのキュートさと陽の魅力が弾けた。オープニング、真紅の衣装でライトを浴びる真飛の姿に、情熱的な赤が似合う人だ...と思っていたら、うって変わっておとぼけ"Mr.YU"が寝言を言いながら登場して、客席から笑いがこぼれる。
公演プログラムによれば、「まったくイケてない、極平凡な独身サラリーマン」のMr.YUの、憧れのマドンナ・チェリー(桜乃彩音)やエリート社員Mr.SO(壮一帆)とのやりとりを交えたコミカルな半日がミュージカル仕立てで繰り広げられる。最後は「チェンジBOX」なるものでMr.YUが「究極のイケメン」に変身して、街へ繰り出していく。ショーを手掛けた座付き演出家・藤井大介は、08~09年の月組『Apasionado!!』、09年の星組『ア ビヤント』に続き、このところ見どころたっぷりのショーで観客の期待に応えている。
宝塚歌劇 花組公演 スパークリング・ショー『EXCITER!!』
『EXCITER!!』ではとくに、若手を要所要所で起用していて嬉しい。彼もまた、宝塚歌劇のショー作家として安定期を迎えている。各演出家なりのスタイルが出来上がれば出来上がるほど逆に新たなチャレンジが難しくなっていく場合もあるが、これからも心躍る新作を期待したい。
また、花組娘役トップ・桜乃彩音は、2010年に次回大劇場公演『虞美人』のタイトルロールで退団することが発表されている。桜乃はいわゆる七変化するタイプの舞台人とは違って、自分なりの"宝塚の娘役"の理想を貫く、しなやかにブレない娘役だ。身のこなしに無駄がなく、娘役らしい一歩引いたたたずまいを体得している。いつもやわらかく微笑みながら、男役トップスターを慕っている姿が印象的だ。
一方で、2007年『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴』で演じた黒蜥蜴に代表される、大人の女性役もとっても似合う人。ショーのアダルトなシーンで見せるツンとした横顔も魅力。サヨナラ公演でも、最後まで新たな一面を見せてくれるだろう。
宝塚歌劇では、2009年に星組、宙組の新トップコンビが続けて就任し、2010年には霧矢大夢率いる新生月組がお披露目と、代替わりが相次ぐ。今後も各組で厚みのある舞台が見られることを楽しみにしたい。 (2009年11月10日 東京宝塚劇場)
宝塚歌劇 花組公演 スパークリング・ショー『EXCITER!!』
(写真は東京公演舞台稽古より)
ワールドレポート/その他
- [ライター]
- 三方 玲子