19世紀のパリ・オペラ座の舞台に花開いた"夢"を21世紀の京都に蘇らせたロマンティックなプロジェクト、『ル・レーヴ "夢"』

ワールドレポート/大阪・名古屋

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

京都バレエ団「伝承の芸術 そして未来へ」

『コンチェルト・アン・レ』クロード・ベッシー:振付、『Persona』矢上恵子:振付、『ボレロ』安達哲治:振付、『ル・レーヴ "夢"』ファブリス・ブルジョワ:構成・演出・振付・指導

1949年に有馬バレエ学園を開校して以来、2024年、京都バレエ団は創立75周年を迎えた。創設者の有馬龍子は映画『白鳥の死』(ミア・スラヴェンスカ、イヴェット・ショビレ、ジャニーヌ・シャラ出演、ジャン・ブレア・レビィ監督、1937年)を観て感銘を受け、フランス派のバレエを志したという。初期の頃の活動の記録を見ると、有馬龍子、有馬五郎、東勇作、薄井憲二ともに石田種生、島田廣ほかの日本のバレエの黎明期を彩った名前が散見されて興味深い。1979年にはパリ・オペラ座の名花と謳われたイヴェット・ショヴィレが京都バレエ専門学校の名誉校長に就任している。また、2014年には有馬龍子記念一般社団法人京都バレエ団と名称を変更し、2016年には京都バレエ団が学校法人として認可された。

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デフィレ 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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ファビエンヌ・セルッティ先生(左)、ミッシェル・ディエトラン先生 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

創立75周年を記念して「伝承の芸術 そして未来へ」と題された今回公演では、まず「デフィレ」が、パリ・オペラ座バレエ団のミッシェル・デイエトラン指揮、びわこの風オーケストラの演奏によるチャイコフスキー作曲「エフゲニー・オネーギン」よりポロネーズとともに披露され、続いて『コンチェルト・アン・レ』『Persona』『ボレロ』『ル・レーヴ "夢"』という特徴的な4演目が上演された。
「デフィレ」に続いて、クロード・ベッシーが J.S.バッハの「チェンバロ協奏曲ニ短調」(第1、第3楽章)に振付けた『コンチェルト・アン・レ』。これはパリ・オペラ座バレエ学校の生徒のために振付けられ1977年にオペラ・コミック座で初演。そして昨年4月、ベッシー90歳の誕生日を機に再演された。バレエの基本的動きで構成されたものだが、悠揚迫らざると言うか、美しい音楽性、ラインの優雅さ、ジャンプの質、すべてがあり、おおらかな確信に満ちたフランス・スタイルのバレエの美しさが表れている。観ていると豊穣な心が湧き上がってくる舞台だった。パリ・オペラ座バレエのスジェとして活躍し、当時のクロード・べッシー校長の下、オペラ座バレエ学校で教師として教えたファビエンヌ・セルッティが指導にあたった。

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「Persona」撮影:中原健吉(テス大阪)

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「Persona」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「Persona」藤川雅子、鷲尾佳凛、大森一樹、妹尾充人、田中元 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「Persona」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

『Persona』はコンテンポラリー・ダンスの振付家として国際的にも注目を集めていたが、2019年に亡くなってしまった矢上恵子の代表作と言われる。京都バレエ団では矢上恵子作品を度々上演しており、創立70周年記念公演では『Lazo』~絆~を上演した。今回の『Persona』は、矢上自身が踊ったパートを、京都バレエ団のプリマで矢上作品をしばしば踊っている藤川雅子が踊った。矢上作品らしいパワフルなダンスが観衆を魅了した。
安達哲治振付の新作『ボレロ』は、紺と黒の衣裳の25人のダンサーが踊った。「同一のリズムで2旋律」が繰り返され、次第に音量を増していくモーリス・ラベルの悠久の名曲とも言われる「ボレロ」。安達の振付は、武道の鍛錬と茶道の作法、そして禅のスピリットを視覚化し、精進するダンサーの心情を謳った舞台を創った。日本人の心の運動に、名曲「ボレロ」の楽想と通底するものを見出した振付家の慧眼が際立った作品だった。

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「ボレロ」撮影:中原健吉(テス大阪)

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「ボレロ」撮影:中原健吉(テス大阪)

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「ボレロ」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「ル・レーヴ "夢"」鷲尾佳凛(タイコ)と北野優香(ダイタ) 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

最後に上演されたのは『LE REVE"夢"( ル・レーヴ)』。このバレエは、1890年にパリ・オペラ座で初演された日本を題材とした同名の舞台で、オペラ座図書館に所蔵されていた手書きの楽譜と美術などに関する資料に基づいてファブリス・ブルジョワが新たに1幕2場に構成し、演出・振付けた。音楽はミッシェル・ディエトランが担当し、ピアノ譜をオーケストラのために編曲した。
1890年にパリ・オペラ座で初演された『LE REVE』(エドワード・ブロー台本、ヨゼフ・ハンセン振付、レオン・ガスティヌル音楽)は、1890年から92年にかけて36回上演されている。ジャポニズムは1878年のパリ万博で開花した、と言われるから、そのブームの真っ只中に上演されていたバレエである。
この『LE REVE』を復刻上演する、というロマンティックなまさに「夢」のようなプロジェクトは、故・薄井憲二氏が自身のコレクションの中にあった『ル・レーヴ』のポスターから想いを馳せて、ファブリス・ブルジョワに復刻を持ちかけたことから始まったのだった。
そしてついに京都バレエ団は、パリ・オペラ座バレエのオニール八菜とカール・パケットをゲストに招いて、ファブリス・ブルジョア版『LE REVE"夢"( ル・レーヴ)』を、2018年7月に世界初演したのである。
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/osaka/detail007250.html
今回の再演では、主役のダイタは北野優香、タイコ(ダイタの婚約者)を鷲尾佳凛、イザナミを佐々木朝彩、サクマは吉岡遊歩、アマニチは伊藤大地、ケッチョは陳秀介というキャスト。物語は以前書いたので繰り返さないが、江戸時代と思しき日本のお祭りなどの風物を背景に、町娘の恋の戸惑いを描いている。日本の独特の幟や御輿、茶店や屋台、弓などの風物をふんだんに織り込んで雰囲気を醸し、主人公とともに観客をも夢へと誘う。そして女神のイザナミは、大きな扇の形をした光の世界から姿を現し、優しくダイタに啓示を与る。日本の愛情が込められた細やかな風物が形作る世界に、19世紀のフランス人たちが抱いたファンタジーを彷彿とさせるような素敵なバレエだった。
(2024年8月4日 ロームシアター京都 メインホール)

・兵庫県立芸術文化センターの薄井憲二バレエ・コレクション2024企画展では、現在、<薄井憲二生誕100周年記念「薄井憲二の仕事」〜バレの世界に架橋する〜> を開催中。ポスター『ル・レーヴ(夢)』テオフィル・アレクサンドル・スタンラン画/パリ・オペラ座が展示されている(2024年10月14日まで)。
https://www1.gcenter-hyogo.jp/ballet/contents/project/k-vol33.pdf
https://www1.gcenter-hyogo.jp/ballet/

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「ル・レーヴ "夢"」佐々木朝彩(イザナミ、左)北野優香(ダイタ) 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「ル・レーヴ "夢"」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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