キャサリン・ハーリン & アラン・ベル「METシーズン無しのニューヨークで準備を進めるライジング・スター」

ワールドレポート/その他

インタビュー=矢沢ケイト

「世界からバレエの舞台が消えた時」<3>
キャサリン・ハーリン & アラン・ベル(アメリカン・バレエ・シアター/ ソリスト)=インタビュー

世界中が将来をずっと楽しみにしてきたアメリカのホープ、キャサリン・ハーリンとアラン・ベル。あっという間に期は熟し、今やABTで主役を飾るまでに昇りつめた。ロックダウン寸前に初演が叶った新作 " Of Love and Rage"の初演キャストも務め、ABTの未来を背負い、常に期待の星であることは幼少期も今も変わらない。映画『ファースト・ポジション』で師デニス・ガニオ(マチューの父)を魅了していた少年アランと、JKOスクール(ABTジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクール)の写真と言えば彼女というキャサリン。成長した2人の今をお届けしたい。

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"Let Me Sing Forevermore"(ジェシカ・ラング振付)より

----カンパニーが休止になったのはいつでしょうか。

キャサリン:"Of Love and Rage"(ラトマンスキー振付)を3月初めにカリフォルニアのSegerstrom Center for the Artsで初演して、1週間ほどリハーサル期間がありました。その後にシカゴに行く予定だったのですが、そのツアー自体がキャンセルになりました。

アラン:私たちはラッキーで、授業ができなくなってしまったバレエスクールからスタジオを貸してもらって踊っています。とても恵まれた環境です。インスタグラムなどに載せている私たちの動画も、そのスタジオからです。
キャサリン:多くのダンサーが家のリビングでエクササイズをしなければならないのに比べて、私たちは本当にラッキー。スペースも広くあるし、とても助かります。

----ABTは団員にクラスを配信していますか。

アラン:ABTのバレエマスターのカルロス(Carlos Lope)が、ZOOMでクラスを配信してくれています。毎日だいたい30人くらいのダンサーが同時にログインして、一緒にレッスンしています。これは団員だけに向けたものです。ABTのYouTubeアカウントでは、そのZOOMクラスを録画して、定期的に一般に向けても配信しています。

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キャサリンを乗せて腕立て伏せにチャレンジするアラン(アランのインスタグラムより)

----バレエの他には何かエクササイズをしていますか。

キャサリン:インスタグラムで流行っているようなチャレンジ企画に挑戦しています。その他には、この機会を覚えられるだけたくさんの新しい振付を習得する時間として活用しています。ABTは、ダンサーが外部からアクセスできる作品のビデオアーカイブのリンクを送ってくれて、このシーズンや来シーズンに上演するはずだった作品の過去映像を見ることができます。毎日違う作品を練習して、ものすごい速さでレパートリーを増やしていると思います!
アラン:もちろん本気で全部踊るわけではありませんが(笑)。でも何もしないより全然良いと思って、取り組んでいます。

----街の様子を教えてください。外に出ることは可能ですか。

アラン:外には出ることができます。外出時のマスクの着用は義務付けられましたが、それを守れば大丈夫です。食料品のお店を除いてはほとんど全てが閉まっています。

キャサリン:公園はまだ開いているので、たまには行けますね。どんな場所でもマスクの着用はマストです。

----ABTがオンラインでどのような取り組みをされているかお話しいただけますか。

キャサリン:JKOスクールの生徒には、ZOOMクラスをやっています。ABTは子供向けのレッスンの配信をしています。完全なクラスではないですが、ベビークラスのような習い初めレベルの内容をYouTubeを通じて一般に配信しています。きっと家に閉じ込められて暇を持て余してしまっている子供たちが、楽しめる機会になっていると思います。ABTもインスタグラムでライブ配信をしましたが、それはクラスではなかったと思います。

アラン:ダンサーたちは個々に自分たちのアカウントで配信していますよね。私たちはまだ配信していませんが、クラスとかリハーサルの様子をシェアできれば良いなと思います。決まったらお知らせします!

----カンパニーについて教えてください。今年はオーディションはありましたか。

アラン:私たちのビル(カンパニーとスクールが併設されたニューヨーク市内の建物)ごと閉鎖されてしまったので、スクールもカンパニーも大規模なオーディションは開かないと思います。カンパニーのプライベートオーディションは、今年の初めに受けていた人が何人かいましたが、この新型コロナウイルスの事態が大きくなってからは、カンパニークラスがなくなったので、そういった人ももちろんいなくなりました。

----昇格の発表はありそうですか。

キャサリン:例年はMETシーズンの最後に発表されるのですが、今年はMETシーズンが全公演キャンセルになってしまったので、昇格についてもどうなるか全くわかりません。

アラン:それに、昇格はその年の成果に対する評価が反映されるものであるはず。そうなると、今年はまだ何もしてないようなものです(笑)。次の秋シーズン(※)にあるかもしれませんが、可能性は低いのではと僕は思います。

キャサリン:この時期は、ABTのアプレンティス(研修生)にとって、来年ABTに残れるかどうかが発表されるドキドキする時期なんです。今年はまだ全員が保留になっているので、少なくとも残れるチャンスは大きいのではないでしょうか。
※ABTでは、1年の中に時期の区分名称があり、米国内のツアーを含む秋シーズン( Fall Season)と、ニューヨーク市内リンカーンセンターにあるメトロポリタン・オペラ・ハウス (MET)で連続して公演を行う春シーズン(Spring Season/"METシーズン"とも呼ばれる)に分かれる。80周年記念となる今年のMETシーズンは5週間にわたる公演が予定されていた。今までは8週間にも及び、ABTの年間公演数の約60パーセントがこの期間に詰め込まれるのが40年以上にわたる伝統であったが、今年は初めて3週間分の期間短縮が報じられ話題となった後、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンのため全公演がキャンセルとなった。

----バレエ団の再開について、何か聞いていますか。

キャサリン:今のところ、METシーズンは完全にキャンセルですが、今年の秋シーズンは予定通り行うと聞いています。日に日に状況が変わるし、ニューヨーク州の言うことを聞かないといけないので、"今のところ"としか言えないですが。

アラン:もともとABTは4月15日頃に再開すると言っていたのですが、もちろんそれは起きなかったし、再開日のアップデートもなく、決まり次第連絡が来るとしか聞かされていません。また、再開するとしても、全員同時にではなくて、割り振りをしてスタジオに入る人数を制限しながら、徐々に動き始めるような形と言われました。バレエ団全体として再開するには、まだ時間がかかると思います。

----この外出自粛期間に、何か新しく始めたことはありますか。

キャサリン:...あまり無いです。実は私たちは、たくさんの時間をスタジオで過ごしているので、あまり変わりない毎日を過ごせているんです。毎日4〜5時間くらいはスタジオにいます。

アラン:僕は、ハーバード大学が配信しているオンラインコースの受講を始めました。

キャサリン:私もありました!お菓子をたくさん焼いています。

----アレクゼイ・ラトマンスキーの新作 " Of Love and Rage"では、ファースト・キャストとして主演を務められましたね。おめでとうございます。この作品についてお聞かせいただけますか。

アラン:ありがとうございます。この作品自体は、ゴージャスという言葉がぴったり。セットも壮大で、とても素敵でした。

キャサリン:初演の評判はとても良くて、お客様もとても気に入ってくださいました。大成功と言えると思います!

アラン:作品を作っていく段階ではいろいろありましたが(笑)どこでもあることですよね。最終的にはいろいろな意見が良い形にまとまった作品になったと思います。

キャサリン:そして今でも改良中です。公演を打つステージによって合わせることはもちろんですが、一度上演してみて少しずつ手を入れていました。

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"Of Love and Rage"より

----2019年にもラトマンスキーの新作の "The Seasons "に初演されていると思いますが、彼のクリエーションにはよく参加されていますか。

アラン:僕にとって、彼と仕事するようになったのは最近のこと。入団したのも最近なので当然ですが。彼のステップには特有のスタイルがあるので、それ専用に育てられたダンサーがいない分、誰でも彼のスタイルに合わせるまでに少し努力が必要だと思います。でも踊っていて楽しいです。

キャサリン:この2作品に加えて、"Whipped Cream"のソリスト役(シャンパン)も私に振付けられました。

----METシーズンは完全にキャンセルになってしまいましたが、何を踊る予定がありましたか。

キャサリン:アランは全部!(笑)

アラン:ソロル(『ラ・バヤデール』)、眠りと白鳥の王子、ロミオ、アルブレヒト(『ジゼル』)、『テーマとヴァリエーション』、"Of Love and Rage"と......全部で8役あった気がします。

キャサリン:私はミルタ(『ジゼル』)を踊る予定でした。ワシントンDC公演でデビューした役です。このMETシーズンでデビューする予定としては『眠れる森の美女』のオーロラと『ラ・バヤデール』のガムザッティがありました。

アラン:限界のギリギリくらいの忙しさですね(笑)。

----ABTはMETシーズンに大半の公演が集中しているのが、とても特徴的だと思います。ダンサーとしてはどのように思いますか。

アラン:私たち団員にとってもユニークとしか言いようのない時期ですね。このバレエ団にしか所属したことがないので、ほかと比べられないけれど、大変です。

キャサリン:まさに同じことを思います。本当に大変な時期です。私は今年で6・7回目になるのですが、何年経っても毎年同じように感じます。

アラン:男子はないんだけれども、女子は "スターゲーム" をやっているよね?

キャサリン:そうなんです。チャート表のようなものを作って、幕ごとに出演した分だけ星(スター)のシールを貼るんです。シーズン終わりに1番多くのスターを集めた人が勝ち。私も一度、100以上のスターを集めて優勝しました!『ラ・バヤデール』は女子なら最大で5役踊ることができるんです。

----芸術監督のケヴィン・マッケンジーが選ぶ年間の上演作品ラインナップは、いかがですか。

アラン:全幕ものの古典作品を踊る機会が豊富なことが、僕にとっては嬉しいポイントです。同時に幅広い作品に触れる機会もあるので、バランスが取れていると思います。

キャサリン:好きな作品が多いです。古典もコンテンポラリーも両方に触れる機会があるのが大事ですよね。バレエ団によっては、古典かコンテンポラリーかどちらかに集中して上演することも増えてきていると思いますが、私だったら、どちらかに偏るともう一方を踊りたくなってきてしまうと思うんです。

----お二人のこれまでについて少し教えてください。お二人ともABTのサマーインテンシヴに参加されていますね。

アラン:キャサリンも行ったし、僕はヤング・ダンサー・サマー・プログラムに7歳の時から3回くらい参加しました。当時のキャサリンの写真はずっと使われていて有名だよね。

キャサリン:もう随分前の話だけどね!二人で一緒に写っている写真もどこかにあったと思います。同じクラスでした。

----長い間にわたってABTを見てきたと思いますが、この数年でどんな変化を感じていますか。

キャサリン:まずJKOスクールのことで言えば、とても成長したと思います。レイモンド(Raymond Lukens)とフランコ(Franco De Vita)がメインだったところから、ケイト(Kate Lydon)が来て、シンシア・ハーヴェイも加わりました。今ではイーサン・スティフィールやサシャ・ラデツキーといった素晴らしいスターたちがボーイズを教えるようになったのも良い変化だと思います。
スタジオカンパニーのことで言えば、私が在籍していた時は、スタジオカンパニーとJKOスクールのレベル7(最高学年)が一緒になっていたんです。今では、スタジオカンパニーは独立した存在になって、ツアーもしているし、振付家が来て新作も作られています。私の時はこんなことなかったです。レイモンドとフランコが作品を作っていました。

アラン:僕がいた頃には、ツアーも始まりました。

----ABTのカンパニーについては、いかがでしょうか。

2人:皆いなくなってしまいました!!

キャサリン:私が入団した時から考えても、多くのダンサーが去ってしまいました。今がちょうど大きな入れ替わりの時期です。今のカンパニーに在籍するダンサーの大半が "新しい"と表現されると思います。

アラン:僕が入団してからでさえ、たくさんの人が入れ替わっているのを感じます。常に新しいダンサーもたくさん入ってくるし。以前は層が厚かったけれど、ソリストやプリンシパルがたくさん引退してしまったので、それを埋めるかのように新しいダンサーに入れ替わっています。僕が入団したのは、多くが退団し始めた直後だったと思います。ここ3年だけでも、速いスピードでメンバーが変わっていくのを感じます。
※アランは2016年にABTのアプレンティス、2017年に正式入団。2019年よりソリスト。
※キャサリンは、2013年にABTのアプレンティス、2014年に正式入団。2018年よりソリスト。


キャサリン:アランが入団する前だったと思うけれど、毎週土曜日に別のダンサーの送別会をやっていました。皆の退団が同時期に集中したんです。私たちにとってのスターがいた頃が懐かしいです。

アラン:悪いことではないと思います。

キャサリン:そうですね。ダンサーが激しく入れ替わって、幅広くいろいろこなせるバレエ団になったと思います。

アラン:世界中からダンサーが集まってきますが、新しく入ってくるダンサーたちは、スタジオカンパニーで2〜3年過ごしてからABTに入ってきます。ABTに直接入団してくるダンサーは少ないです。

----最後に、日本のバレエファンに向けてメッセージをお願いいたします。

アラン:日本のお客様の前で踊れる機会があればいいなと思っています。ABTのツアーがあると良いなと思うし、日本のダンサーとも一緒に過ごしてみたいです。

キャサリン:私はABTのアプレンティスだった年に日本のツアーに参加しました。多分あの時(2014年)が一番最近で、それを最後にABTは日本公演をしていないと思うので、また日本に行きたいです。おいしい食べ物もたくさんありますしね! 回転寿司に行けることを楽しみにしています。もちろん踊る機会があることを、楽しみにしています!

<リンク>
キャサリン・ハーリン インスタグラム
https://www.instagram.com/catehurlin/
アラン・ベル インスタグラム
https://www.instagram.com/aran_bell/
アメリカン・バレエ・シアター 公式HP
https://www.abt.org
YouTube (レッスンの他にも、ダンサーのトークなどが公開中)
https://www.youtube.com/user/ABTBalletTheatre
Instagram (イーサン・スティフィールが車庫から伝えるテクニックの解説動画 NUTS 'N BOLTSにも注目)
https://www.instagram.com/abtofficial/

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