新作バレエ『オズの魔法使い』(三浦太紀:振付)をダンスユニット・シャリマーが初演

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

ダンスユニット・シャリマー

第1部:バレエコンサート、第2部:新作『オズの魔法使い』三浦太紀:振付・演出・出演

相模原における芸術文化の発展と地域活性化を目的として結成されたダンスユニット・シャリマーが、昨年9月の旗揚げ公演『ピーターバン』に続いて『オズの魔法使い』を上演した。芸術監督/振付・演出はBonanzagram主宰の三浦太紀。会場には本村賢太郎市長の姿も見られた。

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案内役を務める横山茉美 撮影/瀬戸秀美

第1部:バレエコンサート「クラシックバレエから現代のダンスまで」では、『オズの魔法使い』に登場する、勇気のない(おくびょうな)ライオンの衣裳をまとった横山茉美が案内役を務めた。
〈クラシック・バレエよりグラン・パ・ド・ドゥ〉では『眠れる森の美女』第3幕よりオーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥをダンスユニット・シャリマーの甲斐みち穂と東京バレエ団の陶山湘が踊った。甲斐は見せ場のバランスなどをきっちり決め、陶山は高い跳躍で勇壮な王子像を表現、2人で息を合わせて、おとぎ話の王女と王子の華やかな結婚式の場面を踊った。
〈現代のダンス〉では芸術監督の三浦太紀振付による『星群』が松尾悠、SATSUKI、吉田千愛の3名が椅子を用いたアンサンブル作品を披露した。アコーディオン音楽(cobaの「coffee rumba love filter」とcoba&Bellows Loversによる「吠えろベローズ!」)とシャンソン「パリの空の下」の調べに乗せて、椅子に腰掛けた3人は腕を伸ばし、脚を上げ、上半身を柔軟に動かす。時には椅子から離れて、普通の立ち姿勢で踊るときもあり、フォーメーションも次々と変化していた。

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『眠れる森の美女(1890年)』第3幕よりオーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥ 甲斐みち穂、陶山湘 撮影/瀬戸秀美

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『星群』(三浦太紀振付)
松尾悠、吉田千愛、SATSUKI 撮影/瀬戸秀美

休憩後、第2部 新作バレエ『オズの魔法使い』The Wizard of Oz Ballet(三浦太紀 振付・演出・出演〈オズの魔法使い役〉)が上演された。原作はアメリカの児童文学作家 L・フランク・ボーム。1900年にシカゴで刊行され、今でも人気のアメリカを代表するファンタジー作品である。1939年にはジュディ・ガーランド主演のミュージカル映画『オズの魔法使』が公開された。彼女が映画で着用したルビー色のシューズは、米国大手オークション会社の日本進出のPRのために銀座の百貨店で展示されたことが話題となったばかり。またオズの国の西の国の悪い魔女(エルハバ)と南の国の良い魔女グリンダの若き日を描くミュージカル『ウィキッド』は大阪で公演中。歌姫アリアナ・グランデがグリンダを演じるハリウッド映画『ウィキッド ふたりの魔女』は2025年春の公開が予定されるなど、「オズの魔法使い」の話題は現在も尽きない。

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『オズの魔法使い』三浦太紀 撮影/瀬戸秀美

1978年、17歳のダンス少年だった三浦太紀は、ダイアナ・ロスとマイケル・ジャクソンが出演したミュージカル映画『ウィズ』を見て感動したという。
音楽はG.ガーシュウィンの《ピアノ協奏曲へ調》。クラシック音楽とジャズがクロスオーバーしたような自由な曲想の音楽は、聞くだけでも驚きに満ちあふれており、アメリカの少女の冒険物語を語るにふさわしいと思った。
舞台中央には白い垂れ幕がかかっている。大掛かりな舞台装置や大道具はなく、場面を表わすオブジェクトが投影されるという、シンプルな作りだった。
主人公の少女ドロシー(山田琴音)と愛犬トト(酒井友美)が大きな竜巻に巻き込まれて家ごと吹き飛ばされ、「オズ」の国に到着するところから始まる。故郷に帰りたいドロシーは、北の国のいい魔女(長澤朱紗)から授かった銀の靴を履き、「イエローブリックロード(黄色いレンガの道)」をたどって(同名の案内人キャラクターを中嶋愛莉が演じた)エメラルドシティに住む魔法使いオズ大王に会うことを目指す。ドロシーと愛犬トトは黄色いレンガの道を進み、旅の途中で脳みそのないかかし(山本達史)、心臓(心)のないブリキの木こり(星なつみ)、勇気のない(おくびょうな)ライオン(横山茉美)と出会う。
少女ドロシー役の山田琴音は、見知らぬ国オズの世界で次々と起こる出来事に驚きながらも、新しく出会った仲間たちと力を合わせて前に進むヒロインを生き生きと演じた。愛犬トト役の酒井友美はドロシーの周りを駆け巡り、小犬の愛くるしさを醸し出していた。山本達史は、長い手足を器用に動かし、かかしの人形らしさを表現。ブリキの木こりを演じた星なつみは、角張った動きでロボット人間のように見せた。

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『オズの魔法使い』左から、勇気のない(おくびょうな)ライオン(横山茉美)、心臓(心)のないブリキの木こり(星なつみ)、少女ドロシー(山田琴音)、愛犬トト(酒井友美)、脳みそのないかかし(山本達史)撮影/瀬戸秀美

バレエの群舞のシーンでは「紅のケシの花畑」の赤の場面、オズ大王が住むエメラルドシティの緑のシーン、西の国の悪い魔女に捕らえられる牢屋の黒い場面と、色の切り替えが効果的だった。赤の場面では、鮮やかな赤いロマンティックチュチュを纏ったケシの花たち(阿部琴羽、南茂彩華、長澤朱紗)が登場し、旅の一行を眠りに誘うような魅惑的な踊りだった。エメラルドシティの住民たちは緑の豪華な衣裳に身を包み、宮廷舞踊のように厳かに踊っており、サングラスをかけたシティの門番(阿部琴羽)も毅然とした演技だった。黒の場面では西の国の悪い魔女(甲斐みち穂)の化身たち(丸山優菜、三浦瑛乃)の邪悪な雰囲気のバレエ・シーンも見どころのひとつだった。
ドロシーたちがエメラルドシティで探し当てた大王は下着姿できまり悪そうな表情を浮かべている。大王の人間味あふれる演技が印象的だったこのシーンについて、三浦は「原作ではカカシが『あんたはペテン師だ!』と言うとオズは『私、ペテン師なんです』と認め、その先では『私はすごくいい人間なのです。でもすごくダメな魔法使いでもあります』と答えています。今まで魔法使い(完全)を装っていた男が、ペテン師(不完全)であることを認めた。ダメな魔法使い(人間)のままではなく、今度こそ本物になりたいと心から強く願ったのでは...。彼もまたドロシーたちと同様、ここからリスタートしたのではないか、そう私は考えています。魔法使いという完璧を装った姿と、人間くさいダメ男の姿。両極面を持つオズという人物は人間全般の比喩であり、物語の隠し味にもなっています。今回のバレエでもプロローグでのオズはクールな姿に。最後はあえて対称的な、下着のみの情けない姿にしました」。人間の本質を観察したボームの原作を丹念に読み込んで三浦が造形したオズの大王の演技には、長い人生を経験したからこそ得られる真実味があった。
初見でストーリー展開の細部をすべて把握しながら鑑賞することは難しいとも感じたが、演者たちの熱演が光った。この地域に本社を置くアトリエヨシノの特別協賛によって活動を続ける、ダンスユニット・シャリマーのこれからに期待したい。
(2024年10月5日ソワレ 杜のホールはしもと・ホール)

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左から、少女ドロシー(山田琴音)、マンチキンの市長(松尾悠)、愛犬トト(酒井友美) 撮影/瀬戸秀美

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ケシの花たち(長澤朱紗、南茂彩華、阿部琴羽)とドロシーたち 撮影/瀬戸秀美

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西の国の悪い魔女(甲斐みち穂)と西の国の悪い魔女の化身たち(丸山優菜、三浦瑛乃)撮影/瀬戸秀美

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ドロシーたちはエメラルドシティに入る 撮影/瀬戸秀美

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中央、オズ大王(オズの魔法使い)(三浦太紀)撮影/瀬戸秀美

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