東京バレエ団創立60周年記念トーク『ザ・カブキ』を語ろう
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佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki
東京バレエ団が創立60周年記念シリーズの第10弾として、モーリス・ベジャールが『仮名手本忠臣蔵』をもとに創作した『ザ・カブキ』を、10月に6年振りに上演するにあたり、観客の関心を深めようと、毎夏恒例の〈めぐろバレエ祭り〉で「『ザ・カブキ』を語ろう」と題した記念トークを開催した。出席したのは、1986年の初演時に主役の大星由良之助をエリック・ヴ・アンとダブルキャストで務めた夏山周久をはじめ、3代目由良之助の高岸直樹、5代目の柄本弾、そして今回、8代目としてデビューする宮川新大の4人。司会は産経新聞の飯塚友子記者が務めた。『ザ・カブキ』は、現代の青年が"忠臣蔵"の世界に迷い込み、大星由良之助となって主君・塩冶判官の仇討ちを果たすという物語で、黛敏郎の音楽を用い、歌舞伎とバレエの伝統や様式を巧みに掛け合わせ、武士道の精神を謳いあげた傑作と高い評価を受けている。パリやウィーンなどでも繰り返し上演され、海外での人気も高い作品である。
© Koujiro Yoshikawa
まず、38年前の初演当時のことを聞かれた夏山は、「エリック・ヴ・アンが由良之助を踊った初日、私は適役の高師直で出演していました。その翌日が私の由良之助でした」と、今は淡々と語るが、その時の複雑な心境がしのばれる。また、「ベジャールの振付は手に特徴がある。それをきちんとこなしていれば、不思議とベジャールの振りになります」と言う。第1幕の最後の由良之助の7分30秒のヴァリエーションは、ベジャールとエリックと夏山の三人で、いろいろ試しながら創っていったという。完成したそのヴァリエーションについて、「今までのバレエ人生で、こんなきつい踊りがあるのかと思うくらい、きつかった。体力勝負のような感じでしたが、カブキには四十七士の男性がいる。皆が背中からガンバレと言ってくれているような気がして、頑張れました」と懐かしんだ。なお、初代由良之助を務めた元パリ・オペラ座バレエ団のヴ・アンは、今年6月に脳腫瘍のため60歳で亡くなった。
3代目由良之助の高岸は、『ザ・カブキ』の初演の時はバレエ団に入団したばかりだったそうだ。「オーディションで僕のために役があると言われ、何だろうと思ったら、傘持ちの役。背が高かったから選ばれたようで、光栄なのか残念なのか」と苦笑い。それが入団2年目で由良之助に抜擢された。「よく跳んだり、はねたりしていたから、元気の良さが買われたようです」と。同じく入団2年目で5代目由良之助に抜擢された柄本は、「僕も傘持ちをしました。高岸先輩が傘持ちをしたと後から聞いて、良かったと思いました」と微笑んだ。傘持ち役は由良之助役につながると、ジンクスにでもなっているのか。
夏山周久 © Koujiro Yoshikawa
高岸直樹 © Koujiro Yoshikawa
8代目としてデビューする宮川は、「お話をいただいた時、傘持ちで出たほうがよくはないかと、(バレエ団に)直談判しようかと思いました」と冗談まぎれに語った。30代に入ってダンサーとしての悩みもあり、この役が自分に務まるのか考えたという。「夏山先生が由良之助を踊ったのは今の僕ぐらいの年齢と聞き、また先生にとってこの役がターニングポイントになったと知り、チャレンジしようと決めました。僕は寛平の役を踊っているので、由良之助の背中を見てきていますから、その経験が活かせると思います」と、気を引き締めていた。
『ザ・カブキ』では、随所に織り込まれた和の所作をダンサーたちがきれいにこなしているが、それは日本舞踊の先生を招いて指導を受けているからだと、夏山は言う。「摺り足で、頭の高さを変えずに歩くことを、ダンサー全員が学びました。今も公演の度に指導を受けています。ダンサーには、どうしても腰を上げて浮き上がるという癖がありますから。海外公演では、そうした和の所作にとても興味を持たれました。男性メインで踊りの迫力があることや、ステップはバレエでも和のテイストがあることにも関心を持たれたようです」と補足した。
また、夏山にとって、由良之助を演じるのは特別なことだったようだ。「(西洋のものである)王子を踊る時は、王子のふりをするとか、王子らしく振る舞うといった役作りをします。けれど『忠臣蔵』は歌舞伎やドラマなどで子どものころから親しんでいる物語なので、ことさら由良之助のふりをしなくても、(自然に)由良之助になっている。討ち入りで陣太鼓を叩いて客席に向かって歩くところでは、叩いていると舞台が小さく感じるし、最後の〈涅槃交響曲〉のシーンでは、勝手に身体が動いていった。役を演じる時は、冷静に見る自分があって演じるのが普通ですが、由良之助ではそれがなかった」と振り返った。
高岸は、ベジャールからマンツーマンで指導を受けたことに触れて、「最初は型を追っていただけでしたが、そこに魂をこめていくことを教わりました。ベジャールは僕から創造力を引き出してくれたのです」と。その経験から、「自分で限界を作らずに、さらにプッシュし、さらにチャレンジしていけば、より大きなダンサーに、より大きな由良之助になれます」と励ますように語った。また、長大なヴァリエーションのリハーサルでは、「向こう敵がいて、その敵に向かっていくんだとか、そこは自分の心をのぞくようにとか、具体的なヒントをくれたので、助けになりました」と。
柄本弾 © Koujiro Yoshikawa
宮川新大 © Koujiro Yoshikawa
柄本は、前回は2019年の海外公演で『ザ・カブキ』を踊っているが、日本では6年振りになるという。「自分の中で由良之助の振りを考えると、すぐに出てきます。でも、前の自分よりも良い舞台にしたい。秋元(康臣)と宮川と3人で由良之助を演じますが、ほとんど同年代でライバルのようなものです。皆を引っ張っていけるよう、より良い由良之助を演じたいと思います」と意気込みを語った。
宮川は、「『ザ・カブキ』は先輩たちが創り上げ、受け継ぎ、東京バレエ団の歴史と共に育ってきたオリジナルな作品です。歴史ある作品の主役をやらせてもらえるのは幸運なことです。『ザ・カブキ』では寛平を踊っていますが、今回は『ザ・カブキ』にゼロから取り組もうと思います。真摯に作品に向き合っていきたい」と張り切っていた。
10月の『ザ・カブキ』は3公演。由良之助は、12日は柄本弾が務め、13日は元プリンシパルの秋元康臣がゲストとして出演し、14日は宮川新大のデビユーとなる。それぞれ、どのような由良之助を演じるか、期待がふくらむ。
(2024年8月24日 めぐろパーシモンホール 小ホール)
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