シュツットガルト・バレエ団が記者会見を開催、11月にフル・カンパニーで6年ぶりに日本公演を行う

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

シュツットガルト・バレエ団が11月にフル・カンパニーで6年ぶりに来日し日本公演を行う。上演演目は、今日のドラマティック・バレエの核心をなす、ジョン・クランコ振付の『オネーギン』(チャイコフスキー)とジョン・ノイマイヤー振付の『椿姫』(ショパン)。東京で6回の公演を行う。
世界バレエフェスティバルに、フリーデマン・フォーゲル、ガブリエル・フィゲレド、エリサ・バデネス、マッケンジー・ブラウンが出演し、芸術監督のタマッシュ・デートリッヒも来日中であったことから、記者会見開催の運びとなった。シュツットガルト・バレエ団の日本公演は、当初、2022年に予定されていたが、コロナ禍のためフル・カンパニーの来日が叶わず、《シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち》公演となった。
7月29日、上記5名が登壇し、上野精養軒の一室で記者会見が行われた。

シュツットガルト・バレエ団は1973年に初来日し、『オネーギン』と『じゃじゃ馬馴らし』を上演。今回が12回目の来日となる、といった来歴とともに、2024年11月の日本公演概要が司会者より紹介された。
そして芸術監督のタマッシュ・ディートリッヒにマイクが渡され、ジョン・クランコ振付の『オネーギン』は言わずと知れたシュツットガルト・バレエ団の基本演目であり、ジョン・ノイマイヤー振付の『椿姫』はシュツットガルト・バレエ団のために振付けられて世界初演された作品。今回公演では、フリーデマン・フォーゲルはオネーギンとアルマンを踊り、エリサ・バデネスはタチヤーナとマルグリットを踊る。2023年にプリンシパルとなったマッケンジー・ブラウンはオリガとプリュダンスを踊り、2024/25シーズンよりプリンシパルとなったガブリエル・フィゲレドは、レンスキーとデ・グリューを踊ると紹介された。また、ノイマイヤーが日本公演時に来日し、ステージングに協力する予定。

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タマッシュ・デートリッヒz

「若いダンサーの才能を見出していくのが私の仕事」と言うディートリッヒ芸術監督は、2019年のローザンヌ国際バレエコンクールで、ワンツーフィニッシュを決めたマッケンジー・ブラウンとガブリエル・フィゲレドをプリンシパルに昇格させたことについて、「クオリティというよりも気持・心の持ち方。テクニックだけでなく、地に足をつけてカンパニーの一員として踊っていく準備ができているかどうか、そういう点を見極めて決めた」と言い、新しい世代のスターと一緒に仕事ができるということに「ワクワクしている」そうだ。
マッケンジー・ブラウンは「クランコと会うことは叶わなかったけれど、彼のバレエを継承していくものとして責任を感じています。ハートが大切だと監督が言うように、複雑なストーリーの中で、主人公の内面、個性を踊っていかなければならないし、アーティストとして人間としてどんどん向上していかなければならい、と思っています」
ガブリエル・フィゲレドは「芸術監督に信頼されている、と言うことが私にとってモティベーションを高める基となっています。レンスキーを踊りますが、レンスキー自身が感情のジェットコースターと言いますか、さまざまな感情が現れてきます。それを自分の感情として踊りで表現していきたい」と語った。

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マッケンジー・ブラウン

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ガブリエル・フィゲレド

一方、シュツットガルト・バレエ団を代表するスターダンサー、フリーデマン・フォーゲルは、「オネーギン役は、舞台に上がる前にいろいろと計画して臨むのですが、できることとできないことがあります。『オネーギン』の場合、オネーギンの人生をステージの上で自分が生きるのですが、同じことを二度と繰り返すことはできません。そして、何回踊っても充分ではありません。毎回、毎回新しい気持ちで踊りますし、パートナーが誰か、他のキャストが誰か、によって全く違う雰囲気になります。一人ではなく集団で創り上げていくので、誰がステージに立つかによって異なったエネルギーが生まれてきます」と、大役を踊り続ける難しさを率直に語った。
また、タチヤーナとマルグリットを踊るエリサ・バデネスは「タチヤーナもマルグリットも、女性ダンサーならぜひ踊ってみたい、と思う役です。美しくドラマティックで、自分に正直でなければ踊れないでしょう。タチヤーナは舞台上で2時間くらいの時間が経過する間に、10年以上の時の経過を表現しなくてはなりません。インターミッションはだいたい20分くらいですからね。夢を追う若い娘から成熟した大人の女性へと成長していく、これを2時間で表現しなければならないということはたいへんです。彼女は女性として人生の長い旅をしています。このストーリーを自分の身体で表現しなければならないのです」と繊細な役作りの難しさを女性らしく語る。

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フリーデマン・フォーゲル

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エリサ・バデネス

また、ディートリッヒ芸術監督は「私は小さな宝箱を持っています。」と言う。シュツットガルトには、オペラハウスの他に700人、200人規模の劇場が三つあり、ここを活用して [若い振付家の舞台] 公演を行い、新しい振付家を目指している人たちを積極的に支援して、作品を発表する機会を与えている。かつてはここから、キリアンやノイマイヤー、フォーサイス、マルコ・ゲッケといった優れた振付家を輩出しており、ディートリッヒ芸術監督はそうしたカンパニーのジャン=ジョルジュ・ノヴェール以来のDNAを継承した活動を、一段と強く推し進めている。
「1回目、2回目だけでは成功できなかった人もいるでしょう。振付家として類稀な才能を持っている人はわずかですが、機会さえ与えれば成長していく人がたくさんいる、と信じています。私の仕事は、その<宝箱>のトビラを開いてあげることなのです。」と芸術監督としての強い信念を語った。

最後に蛇足ながら、個人的経験をひと言付け加えさせていただきたい。私は長らくこの仕事に携わっているので、1984年のシュツットガルト・バレエ団の日本公演(11年ぶり2回目)で、マリシア・ハイデとリチャード・クラガンが踊った『じゃじゃ馬馴らし』を観ている。その時の鮮烈な印象は今日でも決して忘れることができない。バレエと言う芸術は、こんなにも雄弁に物語を語り、活き活きと闊達にドラマを表現することができるのか! と、心の底から驚いたのである。その想いを保ちつつ、11月のシュツットガルト・バレエ団の日本公演に大いに期待したい。

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シュツットガルト・バレエ団2024年日本公演

『オネーギン』全3幕
11月2日(土)14:00
11月3日(日・祝)14:00
11月4日(月・休)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

『椿姫』プロローグ付全3幕
11月8日(金)18:30
11月9日(土)14:00
11月10日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

https://www.nbs.or.jp/stages/2024/stuttgart/

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