モーリス・ベジャール・バレエ団が3年振りに来日、『バレエ・フォー・ライフ』『ボレロ』他を上演

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

バレエに革命をもたらした鬼才、モーリス・ベジャールの遺産を継承し、さらなる発展を目指すモーリス・ベジャール・バレエ団(Bejart Ballet Lausanne、以下BBL)が、この9月、3年振りに来日公演を行う。話題は、ベジャールが2007年に没した後、長く芸術監督を務めてきたジル・ロマンに代わり、今年3月に暫定的に芸術監督に就任したジュリアン・ファヴローに率いられて来演すること。フランス出身のファヴローは、1994年、ベジャールがローザンヌに開設したバレエ学校、ルードラに入学し、早くも翌95年にBBLに入団した。『ツァラトゥストラ、舞踊の歌』『愛、それはダンス』『魔笛』『バレエ・フォー・ライフ』など、いくつものベジャール作品で重要な役を踊った。芸術監督がロマンに引き継がれてからも、ベジャールの『ボレロ』や『ライト』などで主要な役を務めるほか、ロマンが振付けた『アリア』や『人はいつでも夢想する』などでも踊り、様々な舞台を通じて役を深め、豊かな表現力を培ってきた。現在のBBLにあっては、ベジャールの指導を直に受けたことのある数少ない貴重なダンサーの一人であり、ロマンから芸術監督のバトンを受け継ぐことになったのだろう。ファヴローの時代は始まったばかりで、どういう方向に進むのかは未知数。それだけに、今回の来日はロマン時代の集大成であると同時にファヴロー時代の幕開けとして興味深い。参加するダンサーは、ベテランながら全く衰えをみせないエリザベット・ロスを始め、BBLに復帰して話題になったオスカー・シャコンや、大貫真幹や大橋真理ら4人の日本人も含まれている。

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Maurice Béjart
photo: BBL-Jean-Guy Python

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Julien Favreau
photo: BBL-Anoush Abrar

『バレエ・フォー・ライフ』

『バレエ・フォー・ライフ』© Kiyonori Hasegawa

プログラムはA、Bの2種。Aプロは、ベジャールがロックとバレエを融合させたと称賛された『バレエ・フォー・ライフ』(1996年ローザンヌで初演)。ロック・バンド、クイーンのヒットナンバーに、モーツァルトの音楽を所々に挿入し、スタイリッシュに綴られた人気の演目である。45歳の若さで同時期に亡くなった、クイーンを代表するヴォーカリストのフレディ・マーキュリーと、ベジャール芸術の最高の具現者だったジョルジュ・ドンという、二人の不世出のアーティストへのオマージュとして創作されたもの。大胆な衣裳を身に付けたダンサーたちが、妙趣に富んだシーンを次々に展開するものの、輝かしい生の一面だけでなく、死や病も暗示され、終盤にはドンの衝撃的なビデオも映し出される。東京では1998年の初演に続き、何度か上演された後、しばらく取り上げられなかった。それが、クイーンの活動をフレディに焦点を当てて描いた映画「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)がアカデミー賞を4部門で受賞したことにより、『バレエ・フォー・ライフ』も新たな脚光を浴び、前回の2021年の日本公演で13年振りに上演された。ファヴローは、この作品で何度もフレディ役を踊っているが、今回は誰が務めるのだろう。

『バレエ・フォー・ライフ』

『バレエ・フォー・ライフ』© BBL - Gregory Batardon

『バレエ・フォー・ライフ』

©『バレエ・フォー・ライフ』BBL - Ilia Chkolnik

Bプロは、ベジャールの3作品にロマンの近作を加えた全4作品で構成。オープニングはロマン振付の『だから踊ろう...!』で、コロナ禍の困難な状況下にあって、踊る喜びを表現しようと創作したという。パリ・オペラ座バレエ団で活躍し、舞踊監督も務め、2021年に亡くなった天才的ダンサー、パトリック・デュポンに捧げられている。デュポンはベジャールと親交があり、ベジャールの作品も踊っている。ジョン・ゾーン、ボブ・ディランらの音楽が用いられているのも興味深い。Bプロのベジャール作品のうち、『2人のためのアダージオ』は、大作『マルロー、あるいは神々の変貌』からの抜粋で、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタにのせて男女の濃厚だが洒落た掛け合いを描いた作品。『コンセルト・アン・レ』は、ストラヴィンスキーの同名のヴァイオリン協奏曲を用い、一組の男女と男性ソリストと女性群舞が音楽を視覚化するように踊るという、祝祭的な雰囲気のネオ・クラシカルな作品。最後を締めるのは、ラヴェルの同名の曲を用いた、ベジャールの最高傑作ともうたわれる『ボレロ』。気になるメロディの役は、初日にファヴローが務めるほか、残る3公演では大橋真理、エリザベット・ロス、キャサリーン・ティエルヘルムという女性ダンサーがキャスティングされているのも興味深い。ともあれ、AプロとBプロ、それぞれ全く異なる内容だけに、どちらも見逃せない。

『だから踊ろう...!』

『だから踊ろう...!』© BBL - Gregory Batardon

『2人のためのアダージオ』

『2人のためのアダージオ』© BBL - Gregory Batardon

『コンセルト・アン・レ』

『コンセルト・アン・レ』© BBL - Gregory Batardon

『コンセルト・アン・レ』

『コンセルト・アン・レ』© BBL - Gregory Batardon

『ボレロ』

『ボレロ』© BBL - Ilia Chkolnik

『ボレロ』

『ボレロ』© BBL - Gregory Batardon

『ボレロ』

『ボレロ』© BBL - Admill Kuyler

『ボレロ』

『ボレロ』© BBL - Admill Kuyler

モーリス・ベジャール・バレエ団 2024日本公演

https://www.nbs.or.jp/stages/2024/bejart/

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