5年ぶりにNDTが来日、モルナー芸術監督が記者会見。 フォーサイス、ゲッケ、パイト他による5作品を上演する

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

オランダのハーグを拠点に、国際的に活動するコンテンポラリーダンス・カンパニー、NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)が5年ぶりに来日し、高崎芸術劇場、神奈川県民ホール、愛知県芸術劇場の3か所で公演を行っている。今回上演されるのは、日本で初公開となるシャロン・エイアールとガイ・ベハールによる『Jakie』、ウィリアム・フォーサイス振付『One Flat Thing, reproduced』、クリスタル・パイトによる『Solo Echo』、ガブリエラ・カリーソ振付『La Ruta』、マルコ・ゲッケによる『I love you, ghosts』の5作品。全5回の上演プログラムは、毎回異なる3作品を組み合わせとなっている。オランダ王国大使館で6月27日に行われた記者会見には、2020年よりNDTの芸術監督を務めるエミリー・モルナーと、愛知県芸術劇場芸術監督/DaBY アーティスティックディレクターの唐津絵理、そしてNDT1 所属ダンサーの髙浦幸乃が登壇した。

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左より、髙浦幸乃、唐津絵理 ©Tatsuo Nambu

NDTは1959年、ネザーランド・バレエ(のちのオランダ国立バレエ)の18名のダンサーがさらに革新的なダンスを求め、バレエ団から独立して旗揚げした舞踊団。イリ・キリアン、ハンス・ファン・マーネンといった著名な振付家がNDTの芸術監督を歴任してきた。
モルナーは「1990年以来、NDT1、2、3と三つのカンパニーの全てが日本で複数回の上演を行なってきました。2006年以降、2019年に再び来日することができました。パンデミックを経て5年ぶりに戻ってくることができ、嬉しく思っています。今回のプログラムは、刻々と変化を遂げるコンテンポラリー・ダンスで活躍している振付家たちの独自の声が感じられる作品です。ダンサーの優れた技巧と、表現力の幅の広さをご鑑賞いただけます。日本の観客の思考を刺激し、感情が突き動かされるような忘れ難い体験をお届けしたいと思っております」とあいさつした。

日本公演の作品について、唐津は「オランダなどに足を運び、多彩な作品を見ながら、どの作品を日本に紹介するのが良いだろうかと、エミリーとともに検討し、2019年の日本公演でご紹介したNDTアソシエイト・コレオグラファーのクリスタル・パイトとマルコ・ゲッケの作品をもう一度皆様にお見せしたいと決めました。それからエミリーはウィリアム・フォーサイスが率いていたフランクフルト・バレエの出身ということもあり、そのDNAを日本に伝えたいと思いました。また、日本初演となる作品として選んだのが『Jakie』。ムーブメントを中心とした、少し抽象的なこれらの4作品に対して、ネザーランド・ダンス・シアターの「シアター」的な要素を入れたいと思い、演劇的な『La Ruta』を加えました」。
さらに、「今回は異なる振付家による5作品を上演します。通常は共通のトリプルビルとして公演することが多いですが、来日公演が減ってきていることもあり、最前線の振付家とNDTのダンサーが作り出した作品を一つでも多くお届けしたいとお願いして、5つのタイプが異なる作品を日替わりで、3つの会場別にご覧いただく日本だけのプログラムが実現しました。この貴重な機会に、同時代のダンスの多彩な魅力をお楽しみください」。

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左より、エミリー・モルナー、唐津絵理 ©Tatsuo Nambu

2013年にNDT2、15年からはNDT1に所属している髙浦幸乃は、今回の来日公演でもただ一人、全5作品に出演する。19年日本公演に続く今回の来日ツアーについて「5年ぶりに再びNDT1の皆と日本の舞台に立てることがとても嬉しく、楽しみです。異なるスタイルの5作品を上演しますが、日本の皆さんがどのように受け止めてくださるのか、パフォーマーとして興味をもっています」と語った。
髙浦は5作品のうち3作品にオリジナル・キャストとして携わった。ガブリエラ・カリーソ振付の『La Ruta』について「カリーソ作品に出演したことはありましたが、彼女の新作のクリエーションは今回初めてでした。最初の3週間ぐらいは、キャスト全員が朝から晩までスタジオにこもって、大道具や小道具、衣装が並べられた空間で、彼女から出されたお題に従ってダンサーたちが、そのシーンを即興でやってみせるのです。彼女が『もっと進められる』と感じるシーンがあると、次の日はその場面について深堀りしていきます」
「『La Ruta』では福士宙夢さんもオリジナル・キャストで、髙浦さんとお二人でほぼ主役といっていいほどの活躍を見せます。日本のホラーにインスピレーションを受けたような作品ですね」と唐津がコメントすると、髙浦は「ガブリエラの頭の中には、創作当初から〈暗闇の道に日本人のカップルがいる〉といったシーンが浮かんでいました。そこから何がどうなっていくのかわからない状態でしたが、そのシーンを出発点として、福士宙夢くんとあれこれとアイディアを出しながら創っていきました」。
また、『Jakie』について、髙浦は「シャロンの即興をビデオに映して振付を起こしていきました。動きの全てが彼女からにじみ出た作品です」と語った。
NDTに11年間所属し、舞踊団の変遷を体験してきた髙浦は、モルナーの創作指針について「エミリーが監督になってから、ダンサーがどのように作品作りに携わるのかということが重要視されるようになりました。作品が完成しても、創作過程でのアイディアをリサーチする感覚が私達の頭や体の中に残っているので、ステージ上でもリサーチし続けています。エミリーが招待する振付家のなかには、演劇やサーカス出身の方もいて、ダンサー出身ではないクリエイターとのコラボレーションによる創作も多く行われています。NDTのクリエイティビティが今後さらに膨らんでいくのではないかと楽しみにしています」。

モルナーはカナダ国立バレエ団やバンクーバーを拠点とする舞踊カンパニーBallet BC(ブリテッシュ・コロンビア)、そしてウィリアム・フォーサイス率いるフランクフルト・バレエで活動した後、2009~2020年までBallet BCの芸術監督を務めた。モルナーはどんなヴィジョンをもってNDTを運営しているのだろうか。「60年以上前にNDTが創設された当初は、今までとは違う方向性を目指す人たちが集まっていました。いわば古典バレエに対する"反乱分子の集まり"のようなもので、彼らの中には振付家もいましたが、やはり新しいクリエーションのために外部からも振付家を招きました。そのようなNDTの歴史的側面についても再興したいと思っています。NDTでは、長年、一人の振付家が作品を発表していましたが、現在、NDTのように大きい組織では様々なタイプの振付家を支援していくことが重要だという認識に変わってきています。それと並行して、次世代のキリアンとなるアーティストを探しています。その橋渡しとなり、支援ができるようなカンパニーとして活動していきたいと思っています」
創作におけるNDTのダンサーが果たす役目については「NDTに招かれた振付家は皆〈どのような身体表現が可能か〉という点についてリサーチをします。フォーサイスがこれまで作ってきた作品に見られるように、振付家が決めた「形」をただ踊るのではなく、アイディアに対してどう発信するのかという問いに対して、ダンサーたちは彼らのすばらしい頭脳と身体能力を駆使して、振付家と主体的に会話をしながら作品を創っていきます」と熱を込めて解説した。

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左より、髙浦幸乃、エミリー・モルナー、唐津絵理 ©Tatsuo Nambu

《NDTプレミアム・ジャパン・ツアー2024》 特設Webサイト
https://ndt2024jp.dancebase.yokohama/

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