「Ballet Muses -バレエの美神 2023-」に出演する永久メイが語る 「マリインスキー劇場の雰囲気をお届けしたい」

ワールドレポート/東京

インタビュー=香月 圭

11月末に世界各国のダンサーたちが集う「Ballet Muses -バレエの美神 2023-」に、マリインスキー・バレエ ファーストソリストの永久メイが出演する。繊細で優美な踊りで観客を魅了する彼女に、現地でも大きな話題を呼んだ『ジゼル』や『眠りの森の美女』の主役デビューでの役作りや、ノミネートされた今年のブノワ賞の授賞式のことなどについて話を聞いた。

――『ジゼル』は、メイさんがマリインスキー劇場で見た、初めてのバレエ作品だったそうですね。

永久 はい! エカテリーナ・オスモールキナさんが主演された『ジゼル』で、私もいつかは『ジゼル』を踊りたい、と思ったことを覚えます。ですから、主演が決まったときは、夢がかなって嬉しかったです。

――『ジゼル』の主役デビューは2019年の3月で、2018年11月末から12月初めにかけてのマリインスキー・バレエの来日公演の後でした。ジゼルの役作りは、どのようにして進めていきましたか。

永久 踊りたい作品だったので、いろいろなダンサーのジゼルを見て、「私だったらどう表現するかなぁ・・・」とイマジネーションを広げていました。
ジゼルのデビューが決まってからも、映像を見たり音楽を聴いたりして、自分のイメージを膨らまして作り上げました。

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『ジゼル』永久メイ©マリインスキー・バレエ、(株)ジャパン・アーツ

――マリインスキー・バレエでは、エルヴィーラ・タラソワ先生のもとで学ばれているそうですが、ジゼルのコーチングも彼女でしたか。

永久 はい。タラソワ先生が私の専属のコーチなので、ほどんとの役をタラソワ先生に見ていただいています。

――タラソワ先生はどんな方ですか。

永久 心の底から信頼している先生です。リハーサルのときは厳しく、ひとつひとつの動きをチェックして、アドバイスをくださったり、実際に踊って見せてくださったりします。公演が終わっても褒められることはあまりなく「次回もっと良くしていくためには、こうすべきだ」と課題を与えてくれる先生です。
でも厳しいばかりではなく、私が風邪をひいたり怪我したりした時は気にかけてくださるなど、人としても、先生としても信頼しています。

――リハーサルの際に動画を撮ってチェックされるそうですが、スタイルを身につけていくうえでは有効でしたか。

永久 マリインスキー・バレエ入団後は、デイリースケジュールがすごく忙しくなり、リハーサルで指摘されたことを出来るだけ早く、正しく直していきたいと思って、動画を撮るようになりました。自分の踊っている姿は、直接自分で見ることは出来ないので、先生の注意を改めて確認したり、客観的に動画で見たりするためにも、繰り返し見ています。

――マリインスキー・バレエでの『眠りの森の美女』の主役デビューは、昨年11月末でしたが、バレエ団からオファーされたのはいつ頃だったのでしょうか。

永久 次はオーロラ姫を! と監督から声をかけていただいていたのですが、実際に準備に入ったのは、昨年秋のシーズンが始まってすぐのころ、デビューの一ヶ月前くらいでした。

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『眠りの森の美女』永久メイ
©マリインスキー・バレエ、(株)ジャパン・アーツ

――『眠りの森の美女』のオーロラ姫の役づくりについても教えてください。

永久 マリインスキー劇場で初演された演目ですし、歴史に残るダンサーの方々の映像が劇場にはあるので、昔の映像や舞台を見て学んだニュアンスなども大事にしたいと思っていました。でも『眠りの森の美女』はフランスやドイツの童話なので、顔の付け方や、上半身や手の使い方などは、他のバージョンも参考にしました。

―― オーロラ姫は、マリインスキー・バレエの象徴ともいえる役です。メイさんは元ダンサーのコーチから直接指導を受けており、これからマリインスキー・バレエの伝統を受け継いでいくのではと想像しておりますが、そのような立場にいらっしゃることを、どう思っていますか。

永久 たくさんの作品を踊る機会があるのは、とても感謝しています。そして、私自身は期待に応えたいというよりも、バレエが好きで踊っている気持ちの方が強いかもしれません。いただいた役について「もっと研究したい」という欲がすごく湧いてきます。「役をいただいたから、それで満足だ」「デビューできたから、満足だ」というだけではだめで、デビューしてからがスタートだと思います。舞台でひとつの役を踊るときには、公演を重ねるにつれて「もっといいステップを踏んでいけたら」という思いがあります。

――ファテーエフ監督の目に止まって以来、マリインスキー・バレエでずっといろんな役を踊ってこられましたが、そのスピードはすごく早かったのではないでしょうか。

永久 マリインスキー劇場では、毎日違う作品が上演されていて、たくさんの作品を踊れるという点でも、私は恵まれています。公演の数が多いということは、舞台での経験をたくさん積めるということ。凝縮されたバレエ漬けの日々はすごく特別なものだと感じています。

――マリインスキー・バレエで好きなダンサーはどなたですか。

永久 私は舞台上だけでなく、舞台を離れても優しさを感じる方が好きです。マリインスキー・バレエではエカテリーナ・オスモールキナさんをすごく尊敬しています。私がデビューする時、彼女からアドバイスをいただいたり、サポートの言葉をかけていただいたりして、とても嬉しかったです。そして、舞台上でも感情表現が豊かで、心の底からの気持ちが伝わってくるダンサーにすごく憧れます。

―― 今年、ブノワ賞にノミネートされましたが、そのニュースを知ったときはどんなお気持ちでしたか。

永久 日本にいる時からよく聞いていた賞ですし、すごく嬉しかったですが、忙しすぎて実感がわかなかったというのが正直なところです。劇場内でも「ノミネートされて、すごいね!」と声をかけられたことはなく、私と監督だけが知っているような感じでした(笑)。

―― ブノワ賞の授賞式でガラ・コンサートが行われ、メイさんはトップバッターで『眠りの森の美女』のパ・ド・ドゥをフィリップ・スチョーピンさんと踊りました。そのときの感想を教えてください。

永久 ブノワ賞の第一部が授賞式で、私たちのガラが第二部の最初でした。小一時間ほどの授賞式の間、慣れないヒールを履いて、ずっと座っていないといけなかったのですが、一刻も早くウォーミングアップがしたいと思っていました(笑)。
ブノワ賞でノミネートされたこともそうですが、ボリショイ劇場で踊れたということもすごく嬉しかったです。忙しいスケジュールが詰まっていたので、当日はあっという間に終わってしまったという印象でしたが、舞台では『眠りの森の美女』のパ・ド・ドゥを楽しんで踊ることができました。

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©YUMIKO INOUE

――11月末開催の「Ballet Muses -バレエの美神 2023-」にご出演されます。パートナーはマリインスキー・バレエで共演されているフィリップ・スチョーピンさんですが、彼はどんなパートナーですか。

永久 彼は、私より舞台のキャリアは長く、経験も豊富なのでたくさんのことを教えてもらっています。と同時に、私も自分の意見を伝えられるような雰囲気を作ってくれています。
作品を作っていくにあたって、ストーリーや役の見方などは、お互いすごく似ていると感じます。ですから、彼と組むときには、役作りに関して困ることは、ほとんどありません。
それにフィリップはリハーサルも100パーセントの力で臨んでくれるので、私も全力で取り組めますし、本番になるとさらに真に迫った演技になり、彼の目の奥から伝わってくるものがあります。終演後は、いつもファテーエフ監督に「彼と踊らせていただき、ありがとうございます」とお伝えしています。

――「Ballet Muses -バレエの美神 2023-」でお客様に注目していただきたいのは、どんなところでしょうか。

永久 『ロミオとジュリエット』『ジゼル』『眠りの森の美女』はそれぞれ趣が異なる作品なので、私がどのようにしてこれらの役に入っていき、その個性をどのように表現するかをご覧いただきたいと思います。全幕物を見ていただいているような感じでストーリーをお届けしたいと思います。

――今後の活動について、抱負をお聞かせいただけますか。

永久 大きな夢を持たないようにしているんです。これからも与えられた課題や目の前にあることに、自分の100パーセントを尽くして精一杯のことができるよう、コツコツと努力していきたいと思っています。

――最後に「Ballet Muses -バレエの美神 2023-」で、メイさんの舞台を楽しみにされている方々へのメッセージをお願いいたします。

永久 日本公演は私にとって特別なもので、日本に帰って皆様の前で踊ることができるのを、とても楽しみにしています。マリインスキー劇場で、フィリップと踊っている舞台そのものをお届けできたらと思っています。作品を通して、マリインスキー・バレエの伝統的なスタイルや雰囲気を感じ取っていただけたら嬉しいです。皆さんをマリインスキー劇場に誘うような、特別な時間になるようにしたいです。どうぞ楽しみにしていてください。

■「Ballet Muses -バレエの美神2023-」

11月22日(水)19:00 東京文化会館 <Aプロ>
11月23日(木・祝)12:00/16:00 東京文化会館 <Aプロ・Bプロ>
11月25日(土)15:00  NHK大阪ホール<Aプロ>
公演詳細:https://www.koransha.com/ballet/muses/
光藍社チケットセンター050-3776-6184 (12:00〜16:00/土日祝休)

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