『STOMP ストンプ』出演の櫻井多美衣にきく「先輩タップダンサーに続いてストンパーへ」

ワールドレポート/東京

インタビュー=香月 圭

バケツやデッキブラシ、ゴミ箱のふた、マッチ箱、果ては新聞紙やビニール袋など身の回りのものを 楽器に見立てた、8人のアンサンブルによる迫力のリズム・パフォーマンス『STOMP ストンプ』が13 年ぶりに来日し、8月16日〜8月27日に東急シアターオーブで公演を行う。2代目日本人ストンパーと して今回の来日公演に出演する櫻井多美衣に話をきいた。

―― NHK「あさイチ」で披露された『STOMP ストンプ』の皆さんの迫力あるショート・パフォーマンス に、ご覧になった方は年齢性別に関係なく魅了されているようでした。

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櫻井多美衣

櫻井:お子さんから年配の方まで楽しんでいただけるようにと、常に心がけているので、そのようなご感想をいただいてすごく嬉しいです。

―― 多美衣さんは優等生でしっかり者という感じで演じていらっしゃいましたが、演じる役柄が決まっているのですか。

櫻井:一応、出演する8人のための8通りの役の振り分けがありますが、皆、複数の役を任されます。 私は真面目な役を演じるとき、笑顔をあまり出さずに、もし何かあっても皆が「多美衣について行こ う」と思ってもらえるように頑張っていますが、別の女性の役のときはもっとふわふわしていて、自由に楽しんでいる感じで演じます。

―― 多美衣さんが日本人キャストとして『STOMP ストンプ』の舞台に立っていらっしゃると、観ている 私たちにとっても、どことなく親近感が感じられますね。

櫻井:8人8通りのキャラクターがいて、彼らが持つ人間性を前面に出してパフォーマンスをしている ので、誰が見ても親近感を持てるキャラクターを見つけることができるのが大きな魅力だと思いま す。

―― 多美衣さんが『STOMP ストンプ』に注目した経緯を教えてください。

櫻井:私はタップダンスの出身ですが『STOMP ストンプ』にはミシェル・ドーランスやリサ・ラ・トゥー シュ、ニコラス・ヤングとか、リーラ・ペトロニオなどのタップダンサーの先輩方が数多く出演されてい て「自分にもできるかもしれない」と思いました。

―― 『STOMP ストンプ』のオーディションに至るまでの経緯を教えてください。

櫻井:16歳のときニューヨークに渡って、英語があまり分からなかったのですが、タップダンスは日本でもやっていたので、ブロードウェイ・ダンス・センターやステップス・オン・ブロードウェイのタップダン スのクラスをたくさん受けました。私が現地の高校を卒業した頃、ミシェル・ドーランスが『STOMP ストンプ』のキャストに入りました。私は彼女に師事し、彼女のタップダンスのカンパニー・メンバーとし て、いろいろ舞台を踏ませていただきました。彼女は『STOMP ストンプ』の公演で忙しくなり、自分の仕事で出演できないショーがあると「この日は急に『STOMP ストンプ』に呼ばれて、こちらのショーに は参加できないから、多美衣、代わりに私のソロをやって」と指名されて、タップダンスのお仕事を数多くいただきました。そのうち、彼女は自分の仕事で手一杯になり、『STOMP ストンプ』を卒業して自身のカンパニー「ドーランス・ダンス」を立ち上げて、タップダンサーとして一本立ちすることになりまし た。「あのミシェルが『STOMP ストンプ』を卒業するなら、誰かタップダンサーの後釜がいないと困るよね」ということになり、ドーランス・ダンスで当時踊っていたメンバー皆で『STOMP ストンプ』のオー ディションを受けに行きました。

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『STOMP ストンプ』櫻井多美衣
Photo by Steve McNicholas

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『STOMP ストンプ』Photo by Steve McNicholas

―― その後、4回目のチャレンジでオーディションに合格されたそうですが、どのような内容でした か。

櫻井:オーディション会場の周りに志願者が大勢並んでおり、グループに分けられて指定された時間 に行くと、受験者は12人ぐらいで『STOMP ストンプ』のショーが行われているステージの上でのオー ディションでした。ハンズ・アンド・フィート(手足の振り)の振付をワークショップ形式で少し教えていた だいて、そこからは「あなたたちの個性を見たいから」と一人ずつ即興を審査員に見せていきました。 審査側としては、ステージ上で自分自身のキャラクターをどれだけ理解しているか、という観点でパフォーマーの人間性を見ています。また、リズム感があって、シンプルでもいいからビートを外さない でリズム感をキープできる人材を常に探しています。

―― ストンパーになるためのトレーニングはどんな内容でしたか。

櫻井:毎日朝10時から夕方5時まで1、2ヶ月間みっちりトレーニングが行われます。例えば「今日は デッキブラシのナンバーをやるよ」という感じで、ブラシのたたき方をまず習います。最初はものに慣れることがまず第一優先です。さらにいろんな役のナンバーを習って、それができるようになったら、 各パフォーマーに役が軽く振り当てられて、その上でその流れを覚えていきます。20年間ぐらい ショーに出演してきた先輩が2人ぐらい付いてくださって教えていただきます。

―― タップダンサーからストンパーになって、どんな点に違いを感じましたか。

櫻井:ミュージシャンの場合、譜面がありますが、タップに限らず、すべてのダンサーはその場で渡された振りを速く覚える必要があります。私の場合、振りはさっと覚えて、後はストンプに用いる大物をどう扱うかという点に時間を費やして練習していました。

―― 多美衣さんが抱えて演奏しているオレンジのバケツはとても大きいですね。

櫻井:私の出番のなかで一番お気に入りのシーンです。

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『STOMP ストンプ』櫻井多美衣

―― 大きい物をずっと持ってリズムを打ちながら動き続けるのは、相当体力を使うのではないかと 思われます。

櫻井:一番最初にいただいた役では、置いてあるドラムを私一人で叩くシーンがありました。バチも普通のドラムスティックではなく、ハンマーの柄の部分にテープをぐるぐるまいて重くして大きい音が鳴るようにしたもので、重すぎてドラマーの人たちもうまく叩けないというようなものでした。私は小柄な ので、自分の身長にとって適度な高さではなく、コントロールがしづらかったです。一生懸命叩きすぎて、手首を痛めたりしました。上半身の筋力が足りないと思い、腕立て伏せを始めました。最初は1、 2回しかできませんでしたが、後には1日100回ぐらいできるようになりました。

―― お祖父さまの日野敏さんからタップを習ったそうですが、そのときの記憶はありますか。

櫻井:幼少の頃、祖父がダブルチップのタップシューズを履いて、ずっとベランダでタップを踏んでい たのを覚えています。そのシューズはチャコットさんのものだったかもしれません。祖父は地元の公民館の一室を借りて、コミュニティの近所でタップダンス教室生徒募集の広告を出してクラスを開いていました。杖をつきながらダブルチップのシューズでちょっと立って、ガタガタッとステップを踏む祖父の姿を真似して、子ども心に「こんな簡単にできるんだ」と思いました。基本の動きについては「こう いうふうに音を鳴らすんだよ」という感じで、全部彼から学びました。

―― 何歳ぐらいからタップダンスを始めましたか。

櫻井:物心つく前の幼い頃からタップダンスを踊っていました。覚えているのが5、6歳の頃、老人ホー ムなどを訪問してチャリティー・コンサートのような催しに出させていただいたことです。子供だから、かわいければいいからという感じで踊らせていただいていました。

―― 16歳で単身ニューヨークに行かれたそうですが、そのときはタップダンサーになろうと思ってい ましたか。

櫻井:最初はそんなつもりではなく、とりあえず家族から離れて、ニューヨークで1年間生活してみようと思いました。ニューヨークに行ってすぐは、中学校レベルの英語程度で、会話もうまくできず、聞き取りもあまりできていなかったのですが、タップダンスは昔からやっていたので、リズムでの対話には ついていけました。タップダンスのクラスを受けて、そこで友達を作っていく中で、「多美衣は英語できないから、教えてあげるよ」みたいな感じで会話が生まれて、英語もしゃべれるようになっていきまし た。

―― ニューヨークの大学ではダンスを専攻されたそうですね。

櫻井:ハンター・カレッジはダンスが強い大学で、ダンス科を卒業するのにもモダンダンスのクラスを4 年間きちんと受ける必要がありました。そこでは、バレエを学ぶ機会にも恵まれました。

―― ハンター・カレッジでは数学も専攻されたのですね。

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『STOMP ストンプ』櫻井多美衣
Photo by Steve McNicholas

櫻井:はい。音楽をより正確にちゃんと奏でようと思ったら、数学的な正確さも求められます。私は数字が好きなので、音に踊りをきっちりはめようと心がけています。数学は奥が深く、大学ではある程度微分積分ができるようになったら、あとは証明とか、何でこの結論にたどり着くのか、どうしたら、AとBが綺麗にはまるのかという学習などをあと3年くらいかけて行 います。自分の振付については、そのようなロジックを意識して「ここで何か新しいアイディアを出した ら、そこからここにたどりつくまでにどんなロジックがあるか」などと、何か理由を考えながら創るよう にしています。

―― 米国には「アメリカン・タップダンス・ファンデーション」というタップダンスの財団がありますが、 その活動に参加されていらっしゃったのでしょうか。

櫻井:「アメリカン・タップダンス・ファンデーション」はアメリカのタップダンスの非営利団体ですが、そ のプロジェクトで「タップ・シティ・ユース・アンサンブル(Tap City Youth Ensemble=TCYE)」という青少年を集めたパフォーマンスのグループの設立メンバーでした。大学卒業後、そのグループのリハーサル・ディレクターを務めていました。全員揃って踊れるよう指導したり、見栄えが良くなるように 振付や演出を変更したり、キャスティングなども任され、後輩を育てる仕事もしていました。『STOMP ストンプ』では8人がすべて違うことをやっているので、誰かが転んだり怪我をしたときも、演者全員の 動きを交通整理して「この人がプロップを持っていて、あの人がこっちから出てくるから、この人にこれを渡せばこの方法でいける」と舞台の動きを改善していくことについては、私はメンバーの中では 長けているほうだと思います。TCYEでの経験が『STOMP ストンプ』でも活かされたと思います。

―― 多美衣さんが最も影響を受けているのはどなたですか。

櫻井:祖父からの影響も、もちろんありますが、やはりミシェル・ドーランスの影響が一番大きいです。 自分もストンプをやるようになって、彼女の振付の中で「これは『STOMP ストンプ』から来ているん じゃないか」と理解できるようになりました。発想が素晴らしく、常に新しい発見をさせてもらえる素晴 らしいダンサーです。

―― ご自分のタップダンスのスタイルの特徴について教えてください。

櫻井:普段から、自分の重心の動きに忠実であることを意識しています。自由に動いてみて、「こちら に重心があるから、こういう動きを入れられるな」とか「こういうアイディアがあり、このように展開して いきたいから、こういうことをしてみよう」と考えながら、音を鳴らしてリズムに耳を傾け、スムーズに 動けるように自分の体を運んでいくという感じです。「タップはダンスであり、パーカッションでもある」 ということを忘れないようにしています。昔からジャズを聞いていたので、自分の中ではそのリズムが一番しっくりきます。

―― 『STOMP ストンプ』を見に来られるお客様へのメッセージをお願いします。

櫻井:『STOMP ストンプ』は、力強いリズムに演劇やコメディやミュージカルの要素をたくさん詰め込んで、お子様から老人まで楽しんでいただけるようなコンサート形式のエンターテイメント・ショーで す。家族全員で楽しんで、思いっきり大きな声を出して笑っていただけたらと思います。

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『STOMP ストンプ』キャスト、左よりジャスミン・ジョイナー、ジェイミー・ウェルチ、櫻井多美衣、アラン・アスンシオン、ジョン・ギャビン

『STOMP ストンプ』

8月16日〜8月27日東急シアターオーブ
https://stompjapan.jp/

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