間も無く開幕する「ル・グラン・ガラ 2023」に出演するダンサーたち

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

今年は、コロナ禍後初めての夏、ということもあり海外バレエ団のダンサーたちによる豪華なガラ公演がいくつか重なり、バレエ・ファンにとっては喜ばしくも悩ましい夏が到来した。
「ル・グラン・ガラ 2023」公演は4年ぶり3回目となり、満を持しての開催である。今回は、パリ・オペラ座バレエのエトワール、ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオが座長としてグループ全体をまとめている。参加するエトワールは、アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ユーゴ・マルシャン、リュドミラ・パリエロと座長の二人で計6人、加えてプルミエ・ダンスールのオードリック・べザール、スジェのトマ・ドキール、ビアンカ・スクダモア、クララ・ムーセーニュ、コリフェのニコラ・ディ・ヴィコ。さらに特別ゲストとしてシュツットガルト・バレエ団プリンシパル、フリーデマン・フォーゲルが参加するという絢爛のメンバーが揃った。

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主な出演ダンサーたちの最近の舞台を追ってみると、マチュー・ガニオは、5月にバスチーユ・オペラで開催された「モーリス・ベジャール」公演で、ストラヴィンスキー音楽の『火の鳥』の主役――灰の中から蘇る目に鮮やかな真紅の不死鳥の役を踊った。さらにガニオは、2人の男性ダンサーのために振付られたマーラー曲の『さすらう若者の歌』をオードリック・ベザールと踊り、1970年代に鮮烈な印象を残したベジャールの傑作2作により渾身の舞台を見せた。モーリス・ベジャールはパリ・オペラ座バレエに20曲以上の作品を提供しており、ガニオより少し上の世代のオペラ座のダンサーたちが多くの名演を残している。また、このベジャール公演では、リュドミラ・パリエロが『ボレロ』を踊って、闊達な生命力を劇空間に満たし、観客を大いに沸かせた。そして今回、パリエロはガニオとジル・イゾアール振付の『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』を踊る。これはパリ・オペラ座で踊り、今はオペラ座の教師、バレエ公演の芸術監督として活躍しているイゾアールが、オペラ界の超新星と言われるカウンターテナーのヤクープ・ジョゼ・オルリンスキの歌うヴィヴァルディの「よろこびと共に会わん」に振付けたパ・ド・ドゥ。オルリンスキはブレイクダンスも超一流と聞く。話題が多く、興味深い舞台として注目を集める。
ガニオは、今回はAプロでレオノール・ボラックとウヴェ・ショルツの『ソナタ』(ラフマニノフ)、バランシンの『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」(チャイコフスキー)をリュドミラ・パリエロと踊る。Bプロではアマンディーヌ・アルビッソンとクランコの『オネーギン』(チャイコフスキー)、パリエロとイゾアールの『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』(ヴィヴァルディ)を踊る予定。ベジャール作品とはまた異なった、マチュー・ガニオの美しい身体が日本の舞台でも躍動するだろう。
付け加えれば今年3月のガルニエ宮では、パリ・オペラ座のエトワールとして一世を風靡した「パトリック・デュポンへのオマージュ」公演が開催され、ここででは、ユーゴ・マルシャンが『さすらう若者の歌』をジェルマン・ルーヴェと踊っている。

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「うたかたの恋」

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「ル・パルク」

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ビアンカ・スダモア

一方、ドロテ・ジルベールは、昨年、ガルニエ宮のクリスマス公演でオデット/オディールをスジェに昇進したばかりのギヨーム・ジョップと踊って大きな喝采を浴びた。ギヨーム・ジョップは、3月11日の韓国公演でアルブレヒトを踊ってエトワールにスピード昇進したが、彼女はその後押しをしたといえるかもしれない。また、昨年10月からガルニエ宮で上演されてパリ・オペラ座のレパートリーに入った話題作『うたかたの恋』(ケネス・マクミラン振付、フランツ・リスト音楽)では、マリー・ヴェッツェラ男爵令嬢をユーゴ・マルシャンのルドルフ皇太子と、愛の死にいたる激越なパ・ド・ドゥ踊った。今回Bプロでこの二人は『うたかたの恋』を披露する。また、パリエロとマチューも同じ役を踊ったが、マチューは激しい踊りのために次のジークフリート役をキャンセルせざる得なかった。
ドロテ・ジルベールはAプロで、オペラ座の代表的レパートリーとなったプレルジョカージュの『ル・パルク』(モーツァルト)と、今年4月に逝去したピエール・ラコットへのオマージュとして、『赤と黒』より寝室のパ・ド・ドゥ(マスネ)をユーゴ・マルシャンと踊る。スタンダールの小説『赤と黒』を原作とするこのバレエは、パリ・オペラ座バレエが13年ぶりに新たに製作した全幕バレエとしてピエール・ラコットの振付により、2021年10月に初演された全3幕の大作。ここで二人は、主役のジュリアン・ソレルとレナール夫人を踊ったのである。また、この公演では怪我人が続出して配役がいろいろと変わったが、アマンディーヌ・アルビッソン、リュドミラ・パリエロもレナール夫人を踊っているし、レオノール・ボラックとビアンカ・スクダモアは公爵令嬢マチルド役を踊った。また、スクダモアは京都バレエ団のカール・パケット引退公演では『ジゼル』(2019年)のタイトルロールを熱演している。
そしてパリ・オペラ座バレエ学校からオペラ座に入団し、とんとん拍子に昇進してジュヌ・エスポワール賞も受賞し、オペラ座の新星として期待を担うクララ・ムーセーニュ。ムーセーニュは、昨年の「バレエ・アステラス 2022」で英国ロイヤル・バレエのアクリ瑠嘉と『コッペリア』のパ・ド・ドゥを踊って喝采を浴びたから、記憶されている方も多いのではないだろうか。ムーセーニュはAプロではやはりオペラ座の期待がかかるニコラ・ディ・ヴィコと『ドン・キホーテ』(ミンクス)、Bプロではワイノーネンの『パリの炎』(アサフィエフ)を踊る。
特別ゲストとして出演するシュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルは、Aプロではアルビッソンと『くるみ割り人形』(チャイコフスキー)、ポラックとファン・マーネン振付『3つのグノシエンヌ』(サティ)。Bプロではパリエロと『マノン』より"寝室のパ・ド・ドゥ"(マスネ)、ポラックとマルコ・ゲッケ振付『悪夢』(キース・ジャレット、レディ・ガガ)を踊る。フォーゲルは今年、「ローザンヌ国際バレエコンクール2023」のスター・ガラでアリーナ・コジョカルとノイマイヤーの『椿姫』を踊っている。
そして、4年ぶりとなるパリ・オペラ座ダンサーたちの豪華なガラ公演が、いよいよ幕を開ける。ヨーロッパも東京に劣らずに暑いと聞くが、特別に仕上げられた身体が描く美しさが熱暑をもクールに感じさせてくれるに違いない。

「ル・グラン・ガラ 2023」https://le-grand-gala.com/

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「カルメン」

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「赤と黒」

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クララ・ムーセーニュ

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「白鳥の湖」

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『ジュエルズ』より"ダイヤモンド"

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