牧阿佐美バレヱ団の『三銃士』は、ダイナミックな男性ダンサーのアンサンブルと女スパイが暗躍するスリリングで洒脱なバレエ

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団

『三銃士』アンドレ・プロコフスキー:振付

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阿部裕恵、水井駿介  撮影/鹿摩隆司

牧阿佐美バレヱ団がアンドレ・プロコフスキー振付の『三銃士』を新国立劇場で7月1日と2日に上演した。
キャストはコンスタンス(阿部裕恵、米澤真弓)、ダルタニヤン(水井駿介・清瀧千晴)、ミレディ(青山季可、光永百花)、アンヌ王妃(三宅里奈、佐藤かんな)、ボルトス(大川航矢)、アトス(清瀧千晴、水井駿介)、アラミス(正木龍之介)、バッキンガム公爵(石田亮一、近藤悠歩)、ルイ13世(中島哲也)だった。
『三銃士』は、1844年に刊行されたアレクサンドル・デュマ(大デュマ)の有名な原作小説に基づき、プロコフスキーがプロローグ付きの全2幕に纏めたバレエ。音楽は原作者デュマ・ペールと同時代人だったジュゼッペ・ヴェルディの音楽をガイ・ウールフェンデンが編曲した。大作曲家ヴェルディがオペラのバレエシーンのために作曲し、今日ではほとんど演奏されなくなった音楽も多く使用し、一部作曲を加え編曲・構成しているそうだ。ヴェルディの時代のバレエの鑑賞の仕方は、もちろん、今日とは異なっているが、フォーマルダンスやディヴェルティスマンあるいはヴァリエーションなどのために作曲された音楽に、当時の遺風を感じることはできるかもしれない。
美術は、ロシアのモスクワ演劇芸術劇場でデザイナーとして仕事をはじめ、後にパリに移住し、ロン・ポワン・シャンゼリゼ劇場やアビニョンの演劇祭などで活動したアレクサンドル・ワシリエフ。ワシリエフは牧阿佐美バレヱ団のために『ロメオとジュリエット』『椿姫』(プリセツキー版)の美術を作っており、この舞台でも劇空間を巧みに変換して、物語のスピーディな展開に寄与していた。

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近藤悠歩  撮影/山廣康夫

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光永百花  撮影/山廣康夫

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正木龍之介、大川航矢、清瀧千晴  撮影/鹿摩隆司

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三宅里奈、石田亮一  撮影/鹿摩隆司

プロコフスキーのバレエ『三銃士』は、フランス国王ルイ13世の妃アンヌに寄せるイギリス、バッキンガム公爵の思慕。アンヌ王妃を蔑めようとする枢機卿の意趣を巡って、アンヌ王妃の忠実な侍女コンスタン、枢機卿の女スパイ、ミレディなどが絡み、ダルタニヤンと三銃士が敵対する枢機卿の護衛隊と渡り合う冒険物語。ダルタニヤンと三銃士は要所要所で登場し、剣をビュンビュン振るってかっこよく活躍する。男性ダンサーの弾けるようなアンサンブルが終始舞台にリズムを作り脈動しており、そのダイナミズムがこのバレエの1番の魅力だろう。
女性ダンサーの見せ場は、ルイ13世から贈られたアンヌ王妃の首飾りを証拠の品として、バッキンガム公爵の手から奪い取ろうとするミレディのパフォーマンスだろう。この美女スパイは、簡単には奪えないと知るとあっさりバッキンガム公爵を背後から刺殺してしまう。その冷血非情ぶりは鮮やかで、このバレエのハイライトだ。初日にミレディに扮した青山季可は、内に強い意思を秘め、顔色ひとつ変えずに、粛々と枢機卿の命を実行した。黒鳥オディールを演じた経験を活かした鮮やかな悪女ぶりだった。2日は光永百花がミレディを演じた。光永は時に上目づかいをしてバッキンガム公爵の心の動きを探るようにして、悪意を露に見せ、アンヌ王妃への思慕を嘲笑うかのように冷ややかに殺した。なかなかの演技だった。
田舎から国王付きの銃士隊への入隊を目指してパリにやってきた純朴な剣士ダルタニヤンと、どこまでもアンヌ王妃に忠実なコンスタンスとの恋は、三銃士たちにも祝福されてハッピーエンドにふさわしいロマンス。水井のダルタニヤンは逞しく活力があり、阿部のコンスタンスを優しく抱き止めていた。清瀧のダルタニヤンはしなやかでやや都会風にも見えたが、突破力を秘めたエネルギーを感じさせた。米澤のコンスタンスとも似合のカップルに見えた。
プロコフスキーの振付・演出は、ダルタニヤンと三銃士たちの芝居はコミカルに、アンヌ王妃とバッキンガム卿の忍び合いなどのシリアスなシーンはスリリングに、そして迫力ある剣戟シーンを交えて、スピーディに物語を展開した。登場人物のキャラクターと物語のエッセンスを巧みに抽出して、手際よく展開する洗練された演出・振付で見事なものである。
アンドレ・プロコフスキーは、リュボフィ・エゴロワやセルジュ・ペレッティほかに師事したが、初舞台はコメディ・フランセーズ。そしてローラン・プティ、ジャニーヌ・シャラ、ジャン・バビレなどと踊ったのち、ロンドン・フェティバル・バレエ(現イングリッシュ・ナショナル・バレエ)に参加し、アントン・ドーリンの『ヴァリエーション・フォー・フォア』を踊っている。また、ガリーナ・サムソワとパートナーを組んで踊り、バランシン作品も踊るなど華麗なテクニシャンとして鳴らした。振付家としては『アンナ・カレーニナ』(2014年日本バレエ協会上演)『ジバゴ』『スペードの女王』『ロミオとジュリエット』など古典素材のエッセンスを巧みに振付けた作品も多く、今日でも各国のバレエ団でしばしば上演されている。
(2023年7月1日・2日 新国立劇場 中劇場)

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水井駿介  撮影/鹿摩隆司

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正木龍之介  撮影/鹿摩隆司

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清瀧千晴  撮影/鹿摩隆司

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青山季可、保坂アントン慶  撮影/鹿摩隆司

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大川航矢  撮影/鹿摩隆司

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青山季可、水井駿介  撮影/鹿摩隆司

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中島哲也  撮影/鹿摩隆司

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米澤真弓、佐藤かんな  撮影/山廣康夫

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米澤真弓、清瀧千晴  撮影/山廣康夫

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撮影/山廣康夫

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撮影/山廣康夫

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