クイーン×トップバレエダンサー、再び!「ロックバレエ2023」リハーサルレポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

2021年に7月に初演され、大きな反響を呼んだ『ROCK BALLET with QUEEN』が、5月17日東京のなかのゼロホールにて再演される。
演出・振付は、新国立劇場バレエ団のファースト・ソリストの福田圭吾。出演は、井澤駿(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、今井智也(谷桃子バレエ団プリンシパル)、菊地研(牧阿佐美バレヱ団プリンシパル)、長瀬直義(元東京バレエ団ソリスト)、二山治雄(元パリ・オペラ座契約団員)、米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、壷阪健登(ピアニスト・作曲家)。今井と二山は新メンバーだ。

3月15日に東京都内の新宿村スタジオで行われた公開リハーサルの模様と、最新情報を合わせてお届けする。

RB_0011_C)京介.JPG

C)京介

RB_0039_C)京介.JPG

C)京介

リハーサル開始前、とんとん......と、米沢がつま先を遊ばせるように軽くトウで床を叩いていて、その音がすでに名曲「キラー・クイーン」のリズムと重なっているような気がした。この日は、「キラー・クイーン」「ミリオネア・ワルツ」「ドント・ストップ・ミー・ナウ」の3シーンのリハーサルが行われた。
本作品にはっきりした物語はないが、舞台設定はとあるバー。壷阪はバーのピアニストという役所だ。

アップライトピアノの前にスタンバイした壷阪が、何かを予感させるような旋律を響かせ、デリケートな和音に引き出されるように、ステレオからフレディ・マーキュリーののびやかな歌声が流れ出す。誰の心も撃ち抜いてしまう、魅力的な女性を歌った「キラー・クイーン」。米沢が周囲の男たちにいたずらっぽい視線を送りながら踊り出す。二人の男性に支えられて床に滑り落ちたかと思うと、いつの間にか肩の上、次は誰かの膝の上に座っていて、優雅に微笑みながらするりと身をかわす。フレディの声も、米沢の動きもつややかに曲線的だ。福田によると、米沢の役は音楽の女神のイメージだという。かわいくて色っぽく、誰の手も届きそうでいて絶対届かない。そんな「リアルな女神」を踊れるダンサーは数少ないと思う。

続いて、「ミリオネア・ワルツ」。このナンバーは壷阪の生演奏で、4人の男性がワンフレーズずつソロを踊り、米沢にアプローチしていく。はなやかなワルツあり、情熱的な短調のワルツあり、1曲の中に何曲も違うワルツが入っているような、ドラマチックな曲だ。男性たちはコミカルに「女神」を奪い合い、電車ごっこのように全員で踊ったりもして、くるくると変わる曲調の中、遊び心あふれるワルツが展開していく。
「ここはそれぞれ、バレエ界特有のキャラクターを出して。やりすぎなくらい、やっちゃってください(笑)。ふだんの二割り増しくらいで」と福田が声をかけた。

RB_0098_C)京介.JPG

C)京介

RB_0034_C)京介.JPG

C)京介

リハーサル後、福田に質問すると、このシーンはバレエっぽく作りたいと考え、それぞれのダンサーに合わせてキャラクターのイメージを取り入れたという。「(今井)智也くんはいろいろな役をこなせるスーパーダンサーですけど、このシーンは『ジゼル』のアルブレヒトのイメージで踊ってもらいます。長瀬くんはイケメン雰囲気の王子で、特に『白鳥の湖』の振りを取り入れています。(菊地)研さんは『白鳥』のロットバルトや『ライモンダ』のアブデラクマンみたいな荒々しい感じ」。尚、この日は欠席だった井澤駿については「ふだんは王子のイメージが強いけれど、ロックな雰囲気でも踊ってもらおうかなと。いろいろな駿くんを見せたいですね」と語った。

続くナンバーは「ドント・ストップ・ミー・ナウ」、二山のソロだ。この歌がもつ非現実的なほどの爽快感、疾走感がそのまま踊りとなっていく。二山の体にはやわらかな鋼の芯があるようで、フレディの歌声とともに、回転しながらどこまでも天に向かって突き抜けていく。水たまりを飛び越えるようなジャンプは、そのまま空へとつながっていきそうだ。曲が止まった瞬間にため息が出た。それまで息をつめていたからだ。「すごくいい!」と福田も満足げだ。
「床に倒れたところからやってみよう。リフトの頂点で、ちょっと重心を後ろにしたほうがいい」
復習が始まったのは、二山が男たちにリフトされるシーン。背中を支えられ、頭上高く持ち上げられた仁山が、後ろに傾きながらバーン!と脚を蹴り上げると、見学者からも自然とどよめきが上がった。
「ここのポーズは、『天使の羽』がもう少し見えるといいな。手をちょっと動かしてみる?」福田のアドバイスを受け、二山が背中の後ろで手をぱたぱたと動かすと、イラストやマンガでよく見る小さなエンゼルのイメージになった。

「(二山)治雄くんは、まずフィジカルのすごさに目が行くけれど、醸し出す雰囲気が神聖にすら思えます。彼の役は音楽の女神に仕える天使というイメージですが、彼の踊りを見れば見るほど、あ、リアルに天使だなと思う。いいもん見せてもらってるなと幸せな気持ちになってきます」と福田。「振付は大きく変えるつもりはありませんでしたが、新メンバーの智也くんも治雄くんも非常に魅力的なダンサーなので、お二人の個性をより引き出せるような振付に、自然と変わっていっていますね」。

リハーサルC)京介.JPG

C)京介

RB_0128_C)京介.JPG

C)京介

リハーサル後の囲み取材で「クイーンの音楽は踊りやすいか?」との質問に、メンバーたちは次のように答えた。
「曲が引っ張って、リードしてくれる感覚があります。どの曲も強いインパクトがある曲なので、それに負けないように踊っています」(長瀬)
「その日の調子によりますね。日によっては、音がガン!と体に入ってくる瞬間があって。クイーンの何かが、自分に降りてきたら嬉しいです」(菊地)
「『キラー・クイーン』は、聴いているとこの振りしか浮かばないくらい踊りやすいです。おこがましいですけれど、この曲は私のためにつくられたっていうくらいの気持ちで踊っています」(米沢)

ダンサーと一緒に演奏する感覚はどうかと聞かれた壷阪は、次のように答えた。
「『ミリオネア・ワルツ』は、曲調がめまぐるしく変わるコミカルな曲なので、わりと俯瞰的に、稽古ピアニストのような感覚で弾いています。後半の『手を取り合って』は、(米沢)唯さんと二人でやらせていただくんですけれど、初演のときは、舞台上で今まで感じたことのない、何かスペシャルなものを感じ取ることができました。今回も頑張ります」

新メンバーの今井と二山は、今回のオファーを受けたときの気持ちやリハーサルの雰囲気について、次のように語った。
「こういう音楽で踊る機会って、なかなかない。クラシック・バレエ以外のことにいろいろ挑戦したいと思っていたので、すごく嬉しかったですね」(今井)
「みんなが知っているクイーンの曲で踊るって、いったいどういうふうになるんだろう......と。最初はトップで活躍されている方々の中に、僕みたいな若造が入っていいのかなと恐縮していたんですけれど、皆さん優しい方で、本当に楽しい。クイーンの曲に合わせて踊れる楽しさを感じながらリハーサルしています」(二山)

再演への思いについて、福田は次のように語った。
「初演ではお客様にとても喜んでいただけたので、再演できることが素直に嬉しいです。感謝の気持ちを忘れずに、自分のすべてを出し切りたい。僕は毎回、一つひとつの作品に自分のすべてを込めようとしているので、初演と同じというよりは、この2年間の積み重ねが自然に現れたら」。

4月17日には、最新のリハーサル映像も公開された。
https://www.youtube.com/watch?v=dxv01frwYUo
初演にはなかった新たなナンバーの振付も進み、福田自身が登場するシーンもあるという。

クイーン×トップバレエダンサー。初演からさらにパワーアップした2023年版「ROCK BALLET with QUEEN」、開幕が待ち遠しい。

RB_0176_C)京介.JPG

C)京介

ロックバレエ2023 『ROCK BALLET with QUEEN』

2023年5月17日(水)なかのゼロ大ホール
https://www.dancersweb.net/event?_fsi=QII75Hqd

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る