東京バレエ団金森穣振付『かぐや姫』第2幕、間もなく開幕! リハーサルレポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

東京バレエ団と振付家の金森穣が3年がかりで取り組む新作グランドバレエ『かぐや姫』。その第2幕が、「上野の森バレエホリデイ」期間中、4月27日より世界初演される。
開幕直前の4月21日、東京バレエ団でプレス向けの公開通し稽古が行われた。

スタジオの奥では、かぐや姫役の秋山瑛と姫の初恋の人・道児役の柄本弾が、和やかな雰囲気でリフトの練習をしていた。両腕で腰を支えられ、空中でふわりと両手両足を伸ばす秋山は、無重力を感じさせる。手前のスペースでは、影姫役の沖香菜子が振りの確認を行っている。優雅だけれど研ぎ澄まされた鋭角的な動きで、周囲の空気まで少し冷えている気がした。

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photo/Shoko Matsuhashi

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2021年11月に初演された第1幕に続き、第2幕の舞台は宮廷。竹から生まれ、翁に大切に育てられたかぐや姫は、初恋の人、道児から引き離されて宮廷に連れてこられる。2幕の冒頭では、宮廷に君臨する帝の正室・影姫が描写される。
影姫(沖香菜子)は4人の大臣たち(宮川新大、池本祥真、樋口祐輝、安村圭太)に次々とサポートを求め、まるで飢えているかのように、スリリングなリフトや旋回が休みなく繰り出される。そこへ、かぐや姫(秋山瑛)が到着。大臣たちに高くリフトされ、はるか上から秋山を見下す沖の強烈な目線! 

影姫は、原作の「竹取物語」には登場しない、金森版オリジナルのキャラクターだ。かぐや姫と影姫は「光とその影」。かぐや姫が光れば光るほど、影姫の影は濃くなる。鏡のように、お互いがお互いを存在せしめる関係だという。
「東京バレエ団のためにつくる作品なので、古典的なグランドバレエの構造を意識しています。原作に登場する女性はかぐや姫だけで、あとは男たちの物語ですが、そこに女性的な視点を入れることで、より孤独とは、愛とは、権力とは何かといったことをより幅広く表現できると思いました」と金森はリハーサル後の囲み取材で語った。たしかに、『白鳥の湖』や『ラ・バヤデール』などの古典バレエでは、ヒロインと対になるオディールやガムザッティの登場でがぜん、物語が面白くなる。しかも、影姫は単なる高慢な女性ではなく、深い孤独を秘めたキャラクターでもある。この日、影姫を踊った沖香菜子については、金森は次のようにコメントした。
「香菜子は影姫に合いそうだなと勝手に思っていたのですが、意外にも、こういうキャラクターはこれまで経験がなかったと聞きました。彼女にとっては新しいチャレンジになるかもしれない。それは振付家にとっても光栄なことです。今日は非常に強く表現していて、今まででいちばん良かったですね。
それぞれの人生の中で、様々な経験を踏まえた一人ひとりのダンサーたちと、今こうして出会っている。今この瞬間に、互いにベストを尽くして最高のものをつくり上げたいと思っています」

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かぐや姫の美しさに、宮廷の男たちは色めき立ち、彼女を取り囲んでひしめき合う。このシーンの男性群舞は、「群がる」「たかる」と表現したいような、ちょっと不気味なくらいの迫力がある。金森は「かぐや姫の存在は、月の引力が潮汐や人間の血液に影響を及ぼすように、周囲の人間に嫉妬心や欲望など様々な存在を引き起こす」と解説している。群舞の仕上がりについては「すごく良くなってきているけれど、さらに精度を上げて、観客がのけぞるような群舞をお届けしたい」と語った。

天真爛漫で野性的なかぐや姫と、洗練された宮廷文化の頂点に立つ影姫の対比は、第二幕の大きな見所だ。北極星のように、宮廷の女たちの雅な踊りの輪の中心にいる影姫。その輪にうまく入れず、秩序を乱してしまうかぐや姫。影姫がいくら求めても、帝(大塚卓)は彼女と目を合わせようとせず、しだいにかぐや姫に惹かれていく。「光」であるかぐや姫の存在によって、宮廷の人々の意識も関係性も、大きく変化していくのだ。

「影姫は、幼い頃身売りされて宮廷に来たという設定にしています。帝も、幼くして絶対的な権力者のポジションにつかされた孤独な人物で、大臣たちの追従も側室たちの誘惑も偽りにすぎないと知っている。翁(木村和夫)は欲に抗えない人物で、かぐや姫を大臣か、あわよくば帝に嫁がせようと業を深めています。登場人物の誰もが、自分の境遇に満足していないんですね。古典グランドバレエ的な構造を意識しつつ、21世紀に生きる皆さんが、どこか共感できる物語にしていきたいと考えています」(金森)

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尚、全編にわたって使われているドビュッシーの音楽にも注目したい。たとえばかぐや姫が、教育係である秋見(伝田陽美)の厳しい指導に全力で抵抗する場面には、12の練習曲より第1曲<5本の指のために>。ドレミファソファミレド、と単調なメロディを繰り返す、イライラさせるような始まりから怒濤の展開は、まるでこのシーンのために作られたかのよう。かぐや姫・影姫・帝のパ・ド・トロワは無伴奏フルートのための<シランクス(パンの笛)>。フルートがまるで尺八のような、風のような切ない音色を響かせる。かぐや姫と初恋の人・道児がひとときの再会を果たすシーンでは、よく耳にする「子供の領分」の第1曲<グラドゥス・アド・パルナッスム博士>がドラマチックに響く。

尚、全幕上演は今年10月の予定だ。「クリエイションの当初から、1幕ずつ見ても満足できる作品にしたいという野心がありました。2幕を単独で見せるという難しさを、舞踊の力で押し切れるくらい強いものに仕上がってきています。第3幕は、さらにこれを凌駕するものにしなければ」(金森)。

一つひとつのシーンに見所がぎっしりと詰まった第2幕、世界初演は間もなくだ。

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金森穣「かぐや姫」第2幕 世界初演

ジェローム・ロビンス「イン・ザ・ナイト」
ジョン・ノイマイヤー「スプリング・アンド・フォール」
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/kaguyahime/

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