パリ・オペラ座のエトワール6人が一挙に来日して〈オペラ座ガラ〉―ヌレエフに捧ぐ― が7月に開催される

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

不世出のダンサー、ルドルフ・ヌレエフの没後30年を記念して、〈オペラ座ガラ〉ーヌレエフに捧ぐ―と題したガラ公演が、かつて彼が芸術監督を務めたパリ・オペラ座バレエ団の精鋭たちにより、7月26日から30日にかけて、東京文化会館で行われる。パリ・オペラ座バレエ団で彼の薫陶を受けた"ヌレエフ世代"の元エトワール、フロランス・クレールの指導のもと、期待の若手を含む精選されたダンサーたちがヌレエフゆかりの演目をメインに上演するもので、2024年2月に予定されるパリ・オペラ座バレエ団の4年ぶりの来演に期待をつなぐ公演になりそうだ。

参加するエトワールは、充実した活躍を続けるマチアス・エイマンを筆頭に、ジェルマン・ルーヴェ、ポール・マルク、パク・セウン、そしてこの3月2日にエトワールに任命されたばかりのオニール八菜とマルク・モローを加えた計6人。さらに今年プルミエ・ダスールとプルミエ・ダンスーズにそれぞれ昇進したアントワーヌ・キルシェールとブルーエン・バティストーニに、男女それぞれ3人のスジェを加え、総勢14人での来日になる。特にオニール八菜については、他の世界の名門バレエ団と比べて、外国人ダンサーの所属そのものが少ないといわれるオペラ座バレエ団にあって、エトワールに任命された初の日本人として大々的に報じられただけに注目が集まっている。

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マチアス・エイマン © Mary Brown

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ジェルマン・ルーヴェ © Mary Brown

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ポール・マルク © Mary Brown

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パク・セウン © James Bort

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オニール八菜 © Mary Brown

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マルク・モロー © Mary Brown

ここで、20世紀後半に一世を風靡したルドルフ・ヌレエフの足跡を振り返っておきたい。旧ソ連の1938年、ウラジオストックに向かうシベリア鉄道の車中で生まれた。両親ともにタタール人だった。レニングラード・バレエ学校(現ワガノワ・バレエ・アカデミー)で学び、キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)に入団。強靭なテクニック、驚異的な跳躍に加え、野性的な魅力で脚光を浴びたが、タタール人特有とされる気性の激しさや鋭い感性に加え、独立心も強かっただけに、当局やバレエ団幹部の不信を招いてもいた。1961年、キーロフ・バレエのパリ公演で輝かしい西側デビューを飾ったものの、直後のロンドン公演への参加は許されず帰国を命じられたため、パリ郊外のブルージェ空港で亡命を決行。劇的な「自由への跳躍」だった。翌1962年、英国ロイヤル・バレエ団で名花マーゴ・フォンテインと『ジゼル』で初共演して絶賛を浴びた。以来、フォンテインとの世紀のパートナーシップは70年代末まで続いた。スーパースターとなったヌレエフは世界中のバレエ団に客演する傍ら、振付けも手掛けるようになり、活躍の場を広げていった。

1983年、パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督に迎えられると、『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』など古典の演出・振付や、『シンデレラ』などの新制作を行っただけでなく、多彩な演目を導入してレパートリーを拡充。また、シルヴィ・ギエム、モニク・ルディエール、マニュエル・ルグリ、ローラン・イレールら、"ヌレエフ世代"と呼ばれるキラ星のごときダンサーを輩出し、オペラ座の黄金時代を築いた。1989年、芸術監督を辞任して主席振付家に。1992年にパリ・オペラ座で『ラ・バヤデール』の演出・振付を行ったのが最後の仕事となった。1993年、パリで死去。享年54歳だった。

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© Mary Brown

今回のガラ公演はプログラムAとプログラムBから成る。主な演目をみてみよう。Aプロのオープニングは『眠れる森の美女』第1幕より"花のワルツ"。プティパの原振付をもとにフロランス・クレールが振付けたもので、エトワールのマルク・モローとオニール八菜を含め計10人のダンサーが華やかに開幕を飾る。続いて、『眠れる森の美女』より第3幕のグラン・パ・ド・ドゥをパク・セウンとジェルマン・ルーヴェが踊るが、ヌレエフの振付けによる華麗な足さばきが見ものだろう。ヌレエフ振付の『白鳥の湖』第3幕より"黒鳥のパ・ド・ドゥ"を踊るのは、エトワールになりたてのオニール八菜とマルク・モローのフレッシュなカップルである。

Bプロの幕開けは『ゼンツァーノの花祭り』(振付:オーギュスト・ブルノンヴィル)。現在はもっぱら主役のパ・ド・ドゥだけが踊られるが、今回は、セウンとポール・マルクというエトワールのペアに6人のダンサーが加わる賑やかな舞台になる。オニール八菜とルーヴェによる『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(振付:ジョージ・バランシン)では、オペラ座仕込みの典雅なパフォーマンスが期待される。ヌレエフ振付の『くるみ割り人形』よりグラン・パ・ド・ドゥを踊るのは、昇進したばかりのブルーエン・バティストーニとアントワーヌ・キルシェールのペア。ジェローム・ロビンズ振付の『ダンス組曲』をマチアス・エイマンが踊るのも見逃せない。

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「ゼンツァーノの花祭り」© Kiyonori Hasegawa

両方のプログラムに共通なのは2作品。一つはヌレエフが得意としたレパートリーから『薔薇の精』(ミハイル・フォーキン振付)。Aプロではエイマンが、Bプロではモローが踊るが、それぞれの持ち味がどう活かされるか、気になるところ。もう一つはヌレエフ振付の『ライモンダ』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥで、メインのペアを務めるのは、Aプロではセウンとマルク、Bプロではオニール八菜とルーヴェ。この2人に8人のダンサーが加わり、祝祭的な雰囲気を盛り上げて締めくくる。2種のプログラムを通じて、ヌレエフの伝統がどう受け継がれているかを知る、格好の公演になりそうだ。

公演サイト https://www.nbs.or.jp/stages/2023/opera-gala/

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