バレエ・リュスの栄光が今日のダンサーによって甦る『レ・シルフィード』『アポロ』『ダッタン人の踊り』、NBAバレエ団

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

NBAバレエ団「Ballets russes gala バレエ・リュス・ガラ」

『レ・シルフィード』ミハイル・フォーキン:振付、『アポロ』ジョージ・バランシン:振付、『ダッタン人の踊り』ミハイル・フォーキン:振付

NBAバレエ団が「バレエ・リュス・ガラ」として、『レ・シルフィード』『アポロ』『ダッタン人の踊り』の3作品を上演した。NBAバレエ団は、マリインスキー・バレエ団のセルゲイ・ヴィハレフが復元した貴重なバレエをいくつかレパートリーとしている。それに加えて今回はバランシンの傑作『アポロ』をレパートリーにとり入れ、『レ・シルフィード』『ダッタン人の踊り』とともに上演した。

『レ・シルフィード』
ミハイル・フォーキンは1905年にロシアで公演を行ったイザドラ・ダンカンの影響などもあり、全幕物が中心のマリウス・プティパを頂点とするバレエの改革を志していた。そしてアレクサンドル・グラズノフがショパンの曲をオーケストレーションした組曲に基づいたバレエ『ショパニアーナ』を1907年に、マリインスキー劇場で上演した。これはショパンのエピソードなども加えられたディヴェルティスマン風のものだったと言われる。さらにフォーキンは、1908年には曲目を「ポロネーズ」「ノクターン」「ワルツ」「マズルカ」2曲「プレリュード」「ワルツ」2曲などに整え、新たに加えられた曲はモーリス・ケレルにオーケストレーションを依頼し振付を行った。舞台も詩人と戯れるシルフィードたち、と言うロマンティックな詩情を表すものとして上演している。アンナ・パヴロワ、オリガ・プレオブラジェンスカヤ、タマラ・カルサヴィナ、ワツラフ・ニジンスキーなどが踊って好評を博した。さらに1909年にはディアギレフのバレエ・リュスが、西欧でよく知られたタリオーニの名作『ラ・シルフィード』を意識して、タイトルを『レ・シルフィード』と改め、パリで上演して大きな反響を呼んだ。
NBAバレエ団はセルゲイ・ヴィハレフの復元(ワガノワ版による)により、衣裳もアレクサンドラ・ベヌアのデザインを再現して上演した。詩人(刑部星矢)、マズルカ(野久保奈央)、ワルツ(勅使河原綾乃)、プレリュード(別府佑紀)と言うキャストが中心となって美しいシンメトリーを緩やかに描き、コール・ド・バレエの形象も変幻して、ショパンのお馴染みのメロディとともにロマンティックな印象をいっそう深めた。

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『レ・シルフィード』© 千葉秀河

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『レ・シルフィード』© 千葉秀河

『アポロ』
イーゴリ・ストラヴィンスキーはギリシャ神話のミューズの守護神であるアポロを題材としたバレエを、かねてから構想しており、その曲を聴いたディアギレフはジョージ・バランシンに振付を託した。そしてバランシンのモダニズム的な視点による無駄のない斬新なバレエ表現が創られた。1928年のバレエ・リュス初演の当初は、アポロの誕生から、テレプシコレー、カリオペ、ポリュムニアの3人のミューズへの教育の後、パルナッソスの山へと登っていくフィナーレが踊られる構成になっていた。タイトルも『ミューズを導くアポロ』とされていたが、しばしば振付は変更され省略されて今日のような形になった。
アポロは高橋真之が踊った。アポロは神であって人間ではないから、そうした表現はやはり、ダンサー自身が工夫して創らなければならないだろう。高橋はしっかりと安定感をもって揺るぎなく踊った。そこからアポロのイメージが現れた。カリオペ(福田真帆)、ポリュムニア(勅使河原綾乃)、テルプシコレー(山田佳歩)も健闘した。彼女たちも女神である。女神らしい神々しさ、人間とはまたことなったものをバランシンの技巧的な振付の中に表していた。

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『アポロ』© 千葉秀河

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『アポロ』© 千葉秀河

『ダッタン人の踊り』
『ダッタン人の踊り』は、帝政ロシアの作曲家で<ロシアの5人組>の一人、アレクサンドル・ボロディン作曲のオペラ『イーゴリ公』のバレエシーンで踊られる。オペラに振付けたのはレフ・イワノフだったが、ミハイル・フォーキンが独立したバレエ作品として新たに振付けた。1909年のバレエ・リュスのパリ公演で上演され、盛大な喝采を浴びた。NBAバレエ団のヴァージョンは、ロプホフ版をヴィハレフが復元している。
ロシアでしか生まれないような独特の哀歓を帯びたメロディが流れる中、弓を持ったポロヴェツ人たちが舞台狭しと踊る。爆発的エネルギーと生命力あふれる踊りは、都会生活に飽いてきていたバリの人々を俄に覚醒させた。原題は「ポロヴェツ人の踊り」だが、なぜか日本では『ダッタン人の踊り』として親しまれてきた。
バレエ・リュスではアドルフ・ボルムが踊った隊長役は新井悠太が、闊達で勇壮に踊った。戦士たちは隊形を変化させながらグループを成して群舞を重ね合わせて踊り、じつにスリリングな臨場感を現した。
バレエ・リュスの作品が、当時の面影を映して上演されることは、バレエ界にとっても大変貴重なことである。NBAバレエ団は、ぜひ、こうした貴重なレパートリーを継承していっていただきたいと願う。
(2023年3月4日マチネ 新国立劇場 中劇場)

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『ダッタン人の踊り』© 千葉秀河

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『ダッタン人の踊り』© 千葉秀河

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