7組のスターダンサーが踊る『ロミオとジュリエット』、そしてウィールドン、ズゲッティ、アシュトン、バランシンの秀作を上演、英国ロイヤル・バレエ団来日公演

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

英国ロイヤル・バレエ団が、この夏、4年振りに来日し、伝統的なレパートリーに最新作を組み合わせた〈ロイヤル・セレブレーション〉と、ケネス・マクミランの代表作『ロミオとジュリエット』という二種のプログラムで公演を行う。英国ロイヤル・バレエ団の日本公演は、もともと2022年に予定されていたが、コロナ禍のためにバレエ団としての来日は見送られ、代わりにバレエ団の精鋭ダンサーによる華やかなガラ公演が行われた。その折り、芸術監督のケヴィン・オヘアは、2023年にはフル・カンパニーで来日し、魅力的な演目によるガラ公演と素晴らしいキャスティングによる『ロミオとジュリエット』をお見せしたいと語っていたが、それが実現することになる。
英国ロイヤル・バレエ団といえば、ロシアからの古典バレエを採り入れ、それにシェイクスピアの国ならではの演劇性を織り交ぜて、独自の "ロイヤル・スタイル" を築いてきた。今回の来日公演では、その優れた伝統に加えて、気鋭の振付家による新たな潮流にも触れられる。来日が予定されるプリンシパルは、女性ではサラ・ラムやナターリヤ・オシポワ、高田茜、男性ではスティーヴン・マックレーやウィリアム・ブレイスウェル、平野亮一ら。多彩な顔触れにダンサーの層の厚さがうかがえる。公演プログラムはどうだろうか。

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「ダイヤモンド」© Andrej Uspenski / ROH

〈ロイヤル・セレブレーション〉には新旧の4作品が並ぶ。
伝統の演目は、バレエ団の創設振付家、フレデリック・アシュトンの晩年の名作『田園の出来事』(1976年初演)と、ジョージ・バランシンによる『ジュエルズ』(1967年)より "ダイヤモンド" 全編。現代の作品からは、バレエ団のアーティスティック・アソシエイト、クリストファー・ウィールドンによる『FOR FOUR』(2006年)と、新進気鋭の振付家、ヴァレンティノ・ズケッティによる『プリマ』(2022年)が上演される。『田園の出来事』は文豪ツルゲーネフの戯曲に基づき、上流階級の地主の家の別荘を舞台に、ナターリヤ夫人の息子の家庭教師として招かれた青年をめぐり、ナターリヤと義娘、友人らの間に生じる亀裂を、ショパンの名曲にのせて詩情豊かに描いた一幕ものの作品。慎ましく振る舞いながら青年の熱情に思わず理性を失うナターリヤ役には、繊細な心の揺れを伝える高い演技力が求められる。今回は、ナターリヤ・オシポワ、マリアネラ・ヌニェス、ラウラ・モレーラのトリプルキャストが組まれている。

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「FOR FOUR」© Andrej Uspenski / ROH

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「田園の出来事」 © Tristram Kenton / ROH

『ジュエルズ』は、音楽を見事に視覚化した巨匠バランシンによる初の全幕抽象バレエ。英国ロイヤル・バレエ団のレパートリーに導入されたのは2007年と比較的新しいが、今や人気の演目という。3部構成で、フォーレの音楽による "エメラルド、"ストラヴィンスキーの音楽による "ルビー "、チャイコフスキーの音楽による "ダイヤモンド" から成るが、その中で最も華麗なのがロシアの古典バレエの様式による格調高い "ダイヤモンド" のパート。ガラ公演ではメインのカップルのデュエットだけが上演されることもあるが、今回は群舞も加えた完全な形での上演になる。現代の作品のうち、『FOR FOUR』は、4人の男性ダンサーのために、シューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」を用いて振付けられたもの。優れた身体能力を誇る4人のダンサーによる、火花を散らすような競演が見ものだそうだ。もう一つの『プリマ』は、対照的に4人の女性ダンサーに振付けられたもので、昨年11月に初演されたばかりの最新作。目を引く衣裳をまとったプリマたちが、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲にのせて、複雑な振りを快活に軽快に踊りこなすという。
4つの異なる趣きの作品による〈ロイヤル・セレブレーション〉は、多くの旬のダンサーたちを一度に観ることができる得難い機会になるだろう。

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「プリマ」金子扶生 © Andrej Uspenski / ROH

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「プリマ」ヤスミン・ナグディ © Andrej Uspenski / ROH

マクミラン版『ロミオとジュリエット』(1965年初演)は、英国ロイヤル・バレエ団の看板演目のひとつ。ルネサンス期のヴェローナを舞台に、敵対する名門の家に生まれた子息と令嬢の悲劇を描いたシェイクスピアの戯曲を、プロコフィエフの音楽を用い、登場人物の心理を掘り下げ、ドラマティックにバレエ化した傑作として名高い。舞踏会でのロミオとジュリエットの出会いのシーン、愛を確かめる躍動感あふれるバルコニーのパ・ド・ドゥ、寝室での別れのデュエット、行き違いから互いに死を選ぶ墓場の幕切れまで、それぞれの場での二人のニュアンス豊かな演技が魅力だか、加えて、広場での若者たちのエネルギッシュな群舞や舞踏会での壮麗なダンス、迫力ある決闘シーンなど、見せ場に事欠かない。東京での公演は5回だが、驚くことに、主役の2人はすべて異なるキャストで組まれている。サラ・ラム&スティーヴン・マックレーのペアでふたを開け、ヤスミン・ナグディ&マシュー・ボール、フランチェスカ・ヘイワード&セザール・コラレス、ナターリヤ・オシポワ&リース・クラーク、アナ・ローズ・オサリヴァン&マルセリーノ・サンベ、マリアネラ・ヌニェス&ウィリアム・ブレイスウェルと続き、最後は高田茜&平野亮一で締める。昨年、オヘア芸術監督が予告した通りの素晴らしいキャスティングで、どの回も観たくなる豪華な布陣だ。英国ロイヤル・バレエ団の来日が待ち遠しいではないか。

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「ロミオとジュリエット」© Alice Pennefather / ROH

●英国ロイヤル・バレエ団 2023年日本公演
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/royalballet/

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