『星の王子さま』が再演される、森山開次×小㞍健太にインタビュー

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

2020年秋に初演され、美しい身体表現と美術・音楽の魅力が結集した独創的な世界観で観客を魅了したKAAT DANCE SERIES『星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙-』が、2023年1月21日よりKAAT神奈川芸術劇場で再演される(滋賀、広島、熊本公演あり)。リハーサル開始を前に、演出・振付・出演の森山開次、飛行士役の小㞍健太に再演の見所についてうかがった。

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森山開次 撮影:清水信吾

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小㞍健太 photo by Carl Thorborg

――初演を拝見したときは、なんて贅沢な舞台だろうと幸福感に包まれて帰宅したことを覚えています。初演を経て見えてきたこと、今回、力を入れたいことについて教えてください。

森山 言葉で語られた物語を、身体表現に置き換えていくことが大きなチャレンジかなと思いつつスタートしたんですけれど、クリエーションするうちに、むしろ「ダンスに適した作品だな」と感じるようになりました。ストーリーだけを追ってもあまり意味がなくて、「なんに見える?」「どう感じる?」と自分で想像することが大切な作品なんですね。たとえば冒頭に出てくる「ゾウを飲み込んだウワバミ」の絵を描いたのに、みんなには帽子にしか見えなかったというエピソードも、王子さまが箱の絵の中をのぞいて、この中に自分がほしかった羊がいる! と喜ぶ話もそうですし。「なんに見える?」って、ダンスの本質でもあると思うんです。「この動き、なんに見える?」と想像しあうことが、ダンスを観る上でもつくる上でも大事で、そこにいちばんの醍醐味があるし、子ども時代にはきっと誰もが自然にやっていたことではないかと。

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撮影:宮川舞子

――『星の王子さま』の世界は、ダンスの本質にとても近いのですね。

森山 ええ。僕らも稽古場で試行錯誤を繰り返しますけれど、物語の中にだってきっと、文章にならなかったこともある。王子さまだって、サン=テグジュペリが描いた挿し絵ではああいう姿になっているけれど、読む人によってぜんぜん違うヴィジュアルの王子が生まれたっていい。正解・不正解を探すんじゃなくて、それぞれが思い描き、紡いでいくことが大事なんじゃないかなと思います。
今回は、日比野克彦さん、ひびのこづえさんがつくってくれた魅力的な美術・衣裳や振付・演出の大枠はそのまま使いつつ、ブラッシュアップしていきます。新メンバーも加わりますので、みんなの身体を向き合わせて、お互いにコミュニケーションをとりながら「見つけていく」「深めていく」ことに集中したい。

――王子さま役のアオイヤマダさん、飛行士役の小㞍健太さんをはじめ、物語の世界観にぴたりと合ったキャラクターたちが、この作品の魅力のひとつですね。

森山 さっきアオイさんと話をしていたんですが、初演は彼女にとって初舞台で、周囲のダンサーに引け目を感じてしまったり、自分を解放しきれなかったりといろんな葛藤があったそうなんです。でも、それも含めて彼女は「王子」そのものでした。童心ももちつつ、大人にならなくてはという葛藤も抱えていた20歳という年も、初めて王子を演じるのに良いタイミングだったと思います。彼女はこの2年間の経験を経て、おそらく全然違うアプローチをしてくるでしょうし、僕も新しい王子を届けたい。
小㞍君が飛行士を引き受けてくれたのは、この作品にとって大きな「力」でした。サン=テグジュペリ自身も投影したこの役には、僕は彼しかいないと思っていたので。

――今回、小㞍さんが力を入れたいことはなんですか。

小㞍 僕は開次さんとお仕事をするのはこの作品が初めてで、初演では僕なりに試行錯誤して踊りました。ツアー終盤、僕が腰を痛めてしまって、ゲネプロで開次さんが代役をしてくれたことがあるんです。開次さんの飛行士を見て、あ、僕は飛行士のイメージを自分でつくりすぎていたなと。客観視しすぎずに自分が感じたものをもっと出していいし、想像上のキャラクターになりきっていいんだなと気づきました。飛行士という役柄自体には何かしっくりくるものを感じていたけれど、その分、内面的なところが出しきれていなかった。今回はもっとイメージを膨らませて、飛行士を自由につくっていきたいと思います。

森山 僕が小㞍くんのダンスで大好きなのは、「発見と追跡」とでもいうような身体的アプローチなんです。動きの中でふっと何かを発見し、追跡し、深めていく。発見したものを見失っても、もくもくと初動に立ち戻って再発見していく。発見と追跡、喪失と再発見の繰り返しがすごく「飛行士」的だなと。飛行士はいつも、様々な角度から世界を眺め、思考しています。この物語は、砂漠に落ちてきた飛行士の中で、これまで見てきた様々なものが、王子という形で具現化していく物語でもあると思っていますので。

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撮影:宮川舞子

――開次さんの振付では、飛行士は飛行機を使わず、生身のまま空を飛びますね。そのことがかえって想像力を刺激します。

森山 (日比野)克彦さんと話して、墜落した飛行機のセットで状況をわからせる、みたいなことは止めようと。想像させる身体があれば、説明ってあまり必要ないんです。僕たちはただ腕を横に広げて、飛行機のつもりになる。それが飛行機に見えなければ僕らの負けだけど、トンボに見えたらそれはそれでおもしろいですしね。身体で表現するからには、物語の言葉を「翻訳する」のではなく「想像させる」作業にしなくては。飛行機がなくても、小㞍くんの想像力が飛行士を生み出すことができる。

――小㞍さんご自身は、サン=テグジュペリをどのようにとらえていらっしゃいますか。

小㞍 ずっと夢を持ち続けていた人が、その夢を見ながら死んでいく、といいますか......。「大人になったことで、自分は夢をなくしたのでは」と、つねに考えていた人ではないかと思います。空を飛ぶことが彼の夢だった。でも、それは墜落の危険と隣り合わせで、死に向かってゆく行為でもある。戦争の時代を生き抜いた人でもありますしね。子ども心を忘れたようで忘れたくない、大人になりきりたくない大人。

――アオイさんの王子の印象はいかがでしたか。

小㞍 一緒に踊っていても"守ってあげたくなる"というと変ですけれど......アオイちゃん自身が包み込ませてくれるような雰囲気をもっているので、僕もとても自然に役に入れました。わざわざ打ち合わせをしなくても、動きの中で、お互いにナチュラルに意思表示をしあえる。

森山 外見的にはまったく違う二人だけれど、ふっと一心同体にも見える。そんなコンビネーションが実際どうなるのか、僕自身とても楽しみにしていたのですが、見ていて信頼できる関係性を築いてくれたと思っています。王子と飛行士は、それぞれが誰ともわかちあえない孤独感をもっている。最初出会ったときの違和感から、少しずつ打ち解け合っていって、最後には二人三脚のようにして一緒に走っていく――そこまでの道のりはとてもドラマチックだと思います。
(酒井)はなさんのバラの花も、島地(保武)くんのきつねも、(坂本)美雨さんの「声」も、アオイ王子をそれぞれの視点で見守り、アプローチをかけていきます。そのやり取りが、今回さらに尊いものになればいいなと。

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撮影:宮川舞子

――サン=テグジュペリの妻コンスエロのイメージも反映された、バラの花と飛行士のシーンも、原作にはないけれど大きな見所ですね。

森山 僕自身、はなさんと小㞍くんのダンスがすごく見たくて。舞台上で出会わさない手はない。舞台上で二人が共演してきた歴史と、バラの花と王子、コンスエロとサン=テグジュペリ、といういくつものリンクがクロスして、非常に見応えのあるシーンになっているかと。この作品のハイライトのひとつです。

小㞍 今回は、どのシーンももう少し体当たりしていきたいですね。僕は意外とまじめで、ステップだとか、ここは音楽に絶対乗りたいというタイミングを、その時見えてくる感情より優先してしまうところがあるので。開次さんを頼りながら、身体を使うことと役の感情のバランスをうまくとっていきたいと思います。

――五十嵐結也さん、川合ロンさん、元新体操日本代表選手の浅沼圭さんなど、新メンバーも非常に個性的な方々ですが、どのような役柄を想定されていますか。

森山 具体的な役名は挙げませんが、様々な星の住人たちのシーンをはじめ、おおいに活躍してくれると思います。

――星の住人として描かれる"ダメな大人"たちの姿は、身につまされます。ほめ言葉しか耳に入らない「自惚れ屋」とか、酒におぼれる恥ずかしさを忘れるために呑み続ける「呑み助」とか。

森山 メンバーたちはみんな、星の住人たちの人間らしさを膨らませてくれる強い個性をもっています。王様も呑み助も、王子から見たら変てこな大人なんだけれど、悪というよりは愛らしさがあって、人間の誰もがもっていそうな面を拡大して描いているんですよね。物語の冒頭に"かつては子どもだった、ひとりのおとなに捧げる"というメッセージがありますが、サン=テグジュペリは俯瞰的な視点から見た人間の姿を、風刺を込めて皮肉たっぷりに描いています。その奥行きはしっかり感じさせたい。

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撮影:宮川舞子

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撮影:宮川舞子

――放っておくとはびこって大変なことになる「バオバブ」のシーンなども、今見ると様々な受け取り方ができそうです。

森山 巨大な迷彩色バルーンのバオバブは、こづえさんと、ただの植物ではなく、いろんなイメージをかけあわせてみんなを驚かせたいねと話し合いながらつくりました。見方によっては悲惨なシーンかもしれませんが、ぜひぜひ楽しんでいただけたら。

――お稽古開始はいつからですか。

森山 12月からです。出演者どうしの関係って、稽古場で日々生まれていくので、今回はいったいどういうことになるのか......演出・振付家って、僕は猛獣使いみたいなものだと思うんです。

小㞍 本当に、いろんな種類の猛獣を扱わなくちゃならないから(笑)。

森山 メンバーの中には、たとえば島地くんみたいな自由な人間がいて、ときどきひとりでぐわーっと遠くへ走っていってしまったりする。でも彼は彼なりに、わざとそうすることでバランスを取ってくれていたりするんですよね。逆に小㞍くんは、飛行士という役割があるから、たとえ遠くに行きたくてもぐっとこらえて、踏みとどまってくれたりする。そういう強さに救われることもあります。でも、せっかくですから揺れ動くものは心情として舞台上で出していってほしい。アオイ王子を含め、皆でいろんな方向に引っ張ったり、引っ張られたりしながら進んでいきたいです。僕も出演者としては猛獣になってしまうほうですけれど、猛獣使いとしての責務もありますから(笑)。

――開次さんが踊る最強の猛獣、蛇のシーンも楽しみです。最後にお二人に、再演に向けて読者へのメッセージをお願いします。

森山 メンバー全員、今の感覚であらためて題材にアプローチしてくると思いますので、それぞれの感性を引き出しながら導いていきたいですね。子ども時代に読んだ本を読み返すと違った発見があるように、「今」だからこそ受け取れる何かを感じていただけたら。

小㞍 想像力を最大限に広げて、『星の王子さま』の世界が色とりどりになるように、盛り上げていきたいです。素晴らしいメンバーとの共演になるので、絶対に多彩になると思いますので、それをどう作品に反映していくか、僕自身も楽しみです。ぜひ、劇場にお越しください。

――ありがとうございました!

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◎ KAAT DANCE SERIES
『星の王子さま サン=テグジュペリからの手紙』
https://www.kaat.jp/d/hoshino_oujisama2022

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