《パリ・オペラ座バレエ シネマ フェスティバル》トークイベント、宮尾俊太郎がフランス・バレエの魅力を語った

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

YEBISU GARDEN CINEMA再オープンを祝して12月2日(金)からスタートしている《パリ・オペラ座バレエ シネマ フェスティバル》の開幕に際して、現在ミュージカル『ハリー・ポッターと呪いの子』などに出演し、俳優としても活躍中の宮尾俊太郎をゲストに迎えて、舞踊評論家の森菜穂美とのトークイベントが開催された。登壇した宮尾はすらりとした長身で、生まれながらの王子といった雰囲気を醸し出していた。美しいたたずまいで、彼が話す折りに混じえる手の動きや上半身の動きが優雅なのはバレエ・ダンサーならでは。一方で、彼は健康に対する探究心を披露し、「腸活」について熱く語った彼は、納豆は夜とる、韓国産の熟成発酵であることを認証した「キムチくんマーク」が付いたキムチを選ぶなど具体的な摂取法を指南し、会場は賑やかな笑いに包まれた。

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宮尾俊太郎

12月2日から上映が始まった『シンデレラ』は2018年大晦日、エトワールのカール・パケットの引退公演を収録したもので、ヌレエフの振付により、1930年代のハリウッドを舞台にしたシンデレラ・ストーリーとして展開していく。K BALLETで2012年、熊川哲也版『シンデレラ』の初演で、王子役を演じた宮尾は「この作品の難しさは、舞台に登場したときから、王子であるということを観客に示さなければならない点にあります。たとえば『白鳥の湖』では物語の進行とともに、王子の成長が描かれていきますが、『シンデレラ』の王子については、どんな人物かについての背景がないため、誰が見てもこの人は王子であるという説得力がなければなりません。K BALLET版の初演時は、熊川が主演しない初めての公演だったため、それなりのプレッシャーはありました。彼は舞台美術や演出にも徹底的にこだわり、莫大な予算をかけて初日にはレッド・カーペットを敷いたりと大掛かりな公演になりました。そのため、年末のリハーサルも夜中の12時まで及ぶことも。今となってはいい経験をさせていただいたと思います。プロコフィエフの『シンデレラ』は重厚なメロディーですが、第三幕、最後の一曲「愛をこめて」はあの曲を聞きながら死にたい、と思うほど大好きです。舞台で踊っているとき、オーケストラ・ピットから来る音の振動が全身に伝わり、感情が高ぶる感覚が何ともいえず素晴らしいです」と語った。
主演のカール・パケットについて、宮尾は「引退するとはとても思えない素晴らしい踊りですね」と感想を述べた。森は「パリ・オペラ座の定年は42歳と決まっていますね。彼は金髪碧眼で見目麗しい王子役がぴったりです。サポートもうまく、ケガもしないので代役をよく頼まれたそうです」と彼の魅力について解説した。

『シンデレラ』カール・パケット

『シンデレラ』カール・パケット © Yonathan Kellerman / OnP

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宮尾俊太郎、森菜穂美

宮尾は17歳のとき、カンヌのロゼラ・ハイタワー・バレエ学校に留学し、当時校長を務めていたモニク・ルディエールに師事した。1986年の『シンデレラ』の初演では、シルヴィ・ギエムが主演のタイトル・ロール、シャルル・ジュドが王子、映画プロデューサー役をヌレエフ本人、ルディエールとエリザベットがいじわるな姉たちを演じるという豪華キャストだったが、宮尾は「留学先ではルディエールが校長でしたが、僕は時々クラスをさぼることもあり、彼女によく怒られていました」と話す。「フランスのバレエは足で語るといわれるくらい、足の動きがとても早くて難しいのです。バー・レッスンの時点でバットマン・ジュテなども速いのですが、その細やかな足の動きがフランス流ならではの美しさを醸し出しています」と彼は留学中の体験を基にフランス派のバレエについて説明した。現在、上演中のヌレエフ版『シンデレラ』でもロン・ド・ジャンブ・アン・レールやバットゥリーといった複雑なパが多用されており、パリ・オペラ座バレエのダンサーたちの華麗な足さばきを駆使した踊りが堪能できる。宮尾は「パリ・オペラ座のダンサーの踊りは呼吸をどこでするか決まっている、という噂を聞いたことがあります。だからアンサンブルが揃っているのかもしれないですね」と話した。
パリ・オペラ座バレエの好きなダンサーについて「ジョゼ・マルティネスは留学中のカンヌで実際に踊るのを見たことがありますが、あまりにすごい踊りで衝撃を受けました。もちろん、ルディエールも好きですし、奔放なパトリック・デュポンも印象に残っています。また、我の強さで舞台を支配するといわれたヌレエフは生で見たかったですね」と述べた。

『シンデレラ』ヴァランティーヌ・コラサント

『シンデレラ』ヴァランティーヌ・コラサント
© Yonathan Kellerman / OnP

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《バレエ・リュス》『三角帽子』 マリ=アニエス・ジロ、ジョゼ・マルティネス
© Sebastien Mathe / OnP

宮尾は《パリ・オペラ座バレエ シネマ フェスティバル》のラインナップのなかで気になる作品について聞かれると「『バレエ・リュス』に一番惹かれます。その中で、レオニード・マシーン振付の『三角帽子』を見てみたいです。スペイン・アンダルシアが舞台で、舞台美術と衣装はピカソ、主演はジョゼ・マルティネスなので、情熱的なスパニッシュ・ダンスがとても楽しみです」と回答。「今回の上映館YEBISU GARDEN CINEMAでは、大迫力の音響システムでポップコーンを見ながら劇場よりも気楽に鑑賞できるのでおすすめです」と映画館でのバレエ鑑賞の利点をアピールした。

司会の森が「この作品では、当時パリ・オペラ座バレエの契約団員だったニ山治雄さんがパパラッチ役と時計の精の役で出演しています。カーテンコールでは左側にいらっしゃいます」と本作のトリビアを披露した。

トークイベントの後、『シンデレラ』が上映された。シンデレラを演じるヴァランティーヌ・コラサントがエレガントな魅力を放っており、カール・パケットと息の合った踊りを見せている。男性群舞がヌレエフならではの複雑なステップで所狭しと舞台を駆け回るのも見どころのひとつ。森英恵のデザインによる衣装も豪華で、舞台の華やかさを盛り上げている。アレッシオ・カルボーネが映画プロデューサー、セウン・パクが秋の精、ポール・マルクがダンス教師に扮している。

『シンデレラ』

パリ・オペラ座での上演日:2018年 12月31日
場所:パリ・オペラ座 バスティーユ
上映時間:2時間30分
振付:ルドルフ・ヌレエフ 原振付: シャルル・ペロー
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ  指揮者:ヴェロ・パーン
舞台美術:パトリカ・イオネスコ 衣装:森英恵  照明:グィード・レヴィ 
オーケストラ:コンセール・パドルー
芸術監督:オーレリ・デュポン
<キャスト>
シンデレラ:ヴァランティーヌ・コラサント(エトワール)
映画スター:カール・パケット(エトワール)
姉妹:ドロテ・ジルベール(エトワール)、リュドミラ・パリエロ(エトワール)
継母:オーレリアン・ウエット(スジェ)
プロデューサー:アレッシオ・カルボーネ(プルミエ・ダンスール)

パリ・オペラ座バレエ シネマ フェスティバル

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【上映作品と日程詳細】
12/2(金)〜『シンデレラ』
12/9(金)〜『白鳥の湖』
1/6(金)〜『マノン』
1/13(金)〜『夏の夜の夢』
3/24(金)〜『眠れる森の美女』
3/31(金)〜『バレエ・リュス』
4/7(金)〜 『プレイ』 『ジェローム・ロビンズ・トリビュート』 ※2作品を交代で上映

https://www.culture-ville.jp/parisoperaballetcinema

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