金森穣振付のグランド・バレエ『かぐや姫』、第2幕のクリエイションが進行中!

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

2021年11月に、第1幕が初演された金森穣振付のグランド・バレエ『かぐや姫』。その第2幕のクリエイションが進行中だ。10月28日、東京バレエ団にて第2幕のマスコミ向けリハーサル見学会と囲み取材が行われた。

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金森穣 photo Shoko Matsuhashi

『かぐや姫』は、日本発のグランド・バレエとして、3年がかりで全3幕を完成させるプロジェクトで、第2幕は2023年4月世界初演の予定だ。第1幕は、ドビュッシーの交響詩「海」に乗せて、月明かりの海から春の竹やぶへと移り変わるしなやかな群舞に始まり、冒頭から引き込まれて観た。
貧しい竹取の翁が、光り輝く竹を見つける絵本などでおなじみのシーン、村の童たちとともに成長していくかぐや姫のやんちゃぶり、童の兄貴分である道児(どうじ)との恋......。ドビュッシーの楽曲と物語世界がぴたりと寄り添い、「月の光」で踊られた姫と道児のパ・ド・ドゥは美しかったなあ、と1年前の記憶がよみがえる。
1幕は姫が道児と別れさせられ、都の帝のもとへとつれて行かれるシーンで終わっていたのだった。広いリハーサル室で、今まさにその「続き」が始まる。

かぐや姫が連れてこられた宮廷は、1幕の村とは対照的に、帝とその正室・影姫を頂点にいただくピラミッド型の世界だ。男たちはひたすら影姫にかしづき、自分より身分の高い人の動きをひたすら模倣する。宮廷の女性たちは全員トウシューズで、ひたすら雅に舞う。美しいけれど見えないルールがたくさんありそうな動きだ。1幕ではバレエシューズで自由奔放に踊っていたかぐや姫もトウシューズを履いており、教育係の秋見に徹底的に動きを直され、他の女性たちと踊りの輪に入れと強制される。この日、かぐや姫を踊ったのは秋山瑛。愛する人から引き離され、自由を奪われた悲しみが痛いほど伝わってくる。そして、金子仁美が踊った正室・影姫のくっきりと強烈な存在感が印象的だった。影姫は金森版『かぐや姫』のオリジナキャラクターで、かぐや姫の対をなす重要な存在だという。。
「かぐや姫は、この世にもたらされた光だと私は解釈しています。その対比といえば影しかない。かぐや姫が光れば光るほど、影姫の影は濃くなる。鏡のように、お互いがお互いを存在せしめる関係です」と、リハーサル後の囲み取材で金森は語った。

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photo Shoko Matsuhashi

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photo Shoko Matsuhashi

かぐや姫と影姫の、とても魅力的なシーンがある。曲はドビュッシーが詩の朗読のために作曲した付随音楽『ビリティスの歌』より「朝の雨」。女性の声で読まれる詩とともに、影姫がゆっくりと舞台を横切り、傍らでかぐや姫が何かを読んでいる。いつしか、二人の動きは鏡像のようにぴたりとシンクロする......。
「今日使ったのはカトリーヌ・ドヌーヴが語っているフランス語版なんですけれど、日本語にするかもしれません。雨の日に、ひとりの女性が自分の思いを砂に書いている。すべてははかなく消えてゆく。きっと私のことは誰も覚えていないだろう......といった内容の詩なんですけれど。影姫が愛読している本をかぐや姫も読んでいる。二人の孤独な魂が見つめ合って......といったイメージです」と金森は明かした。
このシーン、すでに見応え十分。正式な配役の発表は12月半ばとのことだが、もう一人のヒロインといえる影姫役は注目だ。

かぐや姫の存在は、宮廷の秩序をかき乱していく。姫の美しさに色めきたつ男たちの群舞は、間近で見ていると逃げ出したくなるような、暴力に近い迫力を感じた。
「東京バレエ団に作品を委嘱された際に、男性群舞は絶対やりたい要素のひとつでした。群舞は、単純にそろえればいいってものじゃない。後ろが何となくついてきているだけでは成立しません。特に男性群舞では、一人ひとりのエネルギーがマックスで出てきてほしい。集団としてのエネルギーを上げていくことが大切で、ようやくここまで来ましたけれど......。本番ではもっと、もっと、どーんと来てほしいです。舞台から客席まで気が届くくらいの群舞にしたい。猛々しい、血流のみなぎるものであってほしい」
群舞の到達点について、金森は熱く語る。なぜ「血流がみなぎる」かというと、かぐや姫は「月」だからだという。月の力は海の満ち引きを引き起こし、動植物のライフサイクルや人間の血流にも影響を与える。
かぐや姫の存在は、単なる興味ではなく、生理的に人を惹きつけてしまうのだ。

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photo Shoko Matsuhashi

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photo NBS

一方、村に残された道児のその後も描かれ、稲穂を思わせるしなやかな群舞のシーンもある。1幕の季節が春と夏だったのに対し、2幕で描かれるのは秋だ。「宮廷の人工的な秩序と対照的に、村では稲が育って枯れることも、愛が生まれ、別離や死によって失われることも、自然の摂理の中にある」と金森は語る。かぐや姫を忘れられない道児はどんな行動に出るのか? 帝とかぐや姫、影姫とかぐや姫の関係はどうなるのか? など今後の展開に興味はつきないが、同時に都市と地方、富と貧しさ、自然と文明など、スケールの大きな対立も露わになっていくらしい。

尚、舞台美術・衣裳は、1幕上演時の絵本や紙芝居のような具象寄りのデザインから、全幕を通してより抽象性の高い方向性に変更するとのこと。2023年4月下旬の本番と10月の全幕上演が、心から待ち遠しい。

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