ジュリアン・マッケイが来日、K-BALLET Opto第2弾「プラスチック」製作発表会
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/その他
香月 圭 text by Kei Kazuki
BunkamuraとK-BALLETによる新プロジェクト〈K-BALLET Opto〉9月末の旗揚げ公演「プティ・コレクション」に続くシリーズの第二弾では、来年1月8、9日KAAT神奈川芸術劇場にて環境問題となっている「プラスチック」をテーマにした二演目『ペットボトル迷宮』、『ビニール傘小町』(渡辺レイ振付)を上演する。その製作発表会が11月24日、セルリアンタワー能楽堂で行われた。
『ペットボトル迷宮』日髙世菜、飯島望未、ジュリアン・マッケイ ©Hajime Watanabe
冒頭では、各作品のエッセンスを凝縮したデモンストレーションが主演ダンサーたちによって披露された。黒いパンツスーツに足袋を着用した彼らは舞台左手の橋掛かり(渡り廊下)から能楽師のように重心を落とし、すり足でしずしずと登場した。
アレッシオ・シルヴェストリンによる『ペットボトル迷宮』のパフォーマンスには、ミュンヘン・バレエに9月からプリンシパルとして加入したジュリアン・マッケイと、K-BALLETプリンシパルの飯島望未と日髙世菜が登場した。中央に立つ彼の周りを彼女たちが囲むように動いていき、彼が一人ずつと絶えずパートナーを変えて踊った。
K-BALLET Opto舞踊監督、渡辺レイ振付による『ビニール傘小町』のデモンストレーションでは、K-BALLET プリンシパル・ソリストの小林美奈とプリンシパルの山本雅也が踊った。かつての絶世の美女であった小野小町が老婆となった姿を小林が演じ、山本は若き日の小町と大恋愛をした深草少将を演じていると思われる。和太鼓のリズムに乗せて、二人はゆっくりとポーズを紡いでいった。
『ビニール傘小町』小林美奈、山本雅也 ©Hajime Watanabe
『ビニール傘小町』小林美奈、山本雅也
©Hajime Watanabe
本公演の企画・構成・台本を担当した高野泰寿は今回の企画意図について「K-BALLETは25年前の創業以来、芸術がいかに社会とつながるかということを模索してきました。公演事業から始まり、K-BALLET SCHOOLなどをはじめとする教育事業では次世代の子どもたちを育て社会へ還元してきました。そして新しく立ち上げたK-BALLET Optoでは、今取り上げるべき問題についてディスカッションを重ねてきました。熊川は特に環境問題を深く憂慮しており、私たちが当事者として捉えやすいプラスチック汚染を今回の大枠のテーマにすることになりました」と語った。
高野は、今回の舞台美術で廃材を利用することにも注目してほしいと話した。表参道に設置されたスマートゴミ箱〈SmaGo〉に捨てられたペットボトル1万本は『ペットボトル迷宮』の舞台装置となる。また、都内各所で捨てられ回収されたビニール傘は『ビニール傘小町』の舞台で利用される。また、現代美術家の森村泰昌の美術展で使用された2500mの川島織物のカーテンも森村とほぼ日新聞の〈アート・シマツ〉プロジェクトの一環として本公演の舞台で再利用される。舞台芸術側の人間とリサイクル業界とがつながることによって、お互いに知見を深めることができ、社会との接点が広がったという。
『ペットボトル迷宮』日髙世菜、ジュリアン・マッケイ、飯島望未 ©Hajime Watanabe
『ペットボトル迷宮』ジュリアン・マッケイ、日髙世菜 ©Hajime Watanabe
『ビニール傘小町』について渡辺は次のように語った。「三島由紀夫の『卒塔婆小町』が原案ですが、〈彼を超えられるか〉という大胆なキャッチコピーに対して、直感的に〈私は超えられない〉と答えそうになります。しかし、能楽堂でお能を観たり、土方巽の『疱瘡譚』の映像を拝見して、暗黒舞踏の地に足をついた感じの表現の仕方や音楽の使い方などからインスパイアされています。模索を重ねながらもリハーサルは順調に進んでおり、言葉を使わないダンスでは、言葉以上のものを表現できると実感しています。
この作品では、小野小町というかつての絶世の美女が老婆となっています。消費されたあとは忘れ去られても朽ち果てないビニール傘のように、人は皆、老化してもなおひっそりと生き延びていくものです。老いた自分を想像すると、老境の美しさや年を重ねることで自分の表現というのが深くなっていくのではないかと思います。この作品を通じてまた新たに表現の原点に立ち返った気持ちで創作を進めております」
腕にペットボトルをつけて登場したアレッシオ・シルヴェストリンは『ペットボトル迷宮』について、「環境問題について解決方法を提示するのではなく、ペットボトルそのものを芸術にしてしまおうと思いました。今、皆さんにご覧いただいたのは私の作品の一部ですが、ダンサーの皆さんが同じ振りを繰り返しながら円を描くように動いてます。空間の舞台にはペットボトルを組み立てた大きな壁ができる予定なので、彼らはその空間から吸い出されたり、吸い込まれるように見えます。ペットボトルは私たちの体の延長部分にあるので、不思議な生物がこのステージ上で生まれるのです」と概要を説明した。
また、作曲・演奏など音楽活動も行うシルヴェストリンは、音楽について次のようにコメントした「ペットボトルを逆さにすると、その中の空間から音が出てくるようなイメージを想起しました。空間を感じさせる音ということで、ヨハン・セバスチャン・バッハとジェルジュ・リゲティのオルガン作品を選びました」。
ジュリアン・マッケイ、アレッシオ・シルヴェストリン、渡辺レイ、高野泰寿 ©Hajime Watanabe
ジュリアン・マッケイ ©Hajime Watanabe
マッケイは「今回のプロジェクトは、踊ることを通して社会におけるいろいろな問題をいかにわれわれが改善できるかという視点にスポットを当てていて、すごくいいと思います。私はアメリカのモンタナ州出身で、毎年夏、母の誕生日には必ず帰省しますが、普段世界中を飛び回っている生活では得られない自然の豊かさに気付かされます。地元のモンタナで野外公演をするときなどは特に、公演の前と後で自然を汚さないようにするということを心がけています。また買い物の際、どこで何を買うのか常に意識しています。ダンスの世界では、舞台装置や衣装・シューズなどがサスティナブルであるかということは普段ほとんど意識されていません。この問題は私一人では解決できませんが、意識を持った人たち皆で取り組めば何かが変わるのではないかと思っています」と自身の環境問題に対する高い関心を語った。
K-BALLETにてリハーサルが始まっているが、マッケイは「K-BALLETのスタジオに伺って熊川さんにお会いすることができました。彼は私が子どもの時からの憧れのヒーローで、彼のビデオもたくさん拝見しましたし、彼が成し遂げてきたことに敬意を抱いております。先ほどご覧いただいたような才能ある団員の皆さんと共演できることを嬉しく思います」と話した。また「ダンサーという非常に長い道のりの中で、いつも学びというものを心がけています。どんな劇場・振付師・プロジェクトであっても、たとえ知っている作品でも必ず学ぶことはあると思います。今回、アレッシオさんの振付は過去に体験した振付と全く違うもので、非常にユニークで興味深い体験を行っている最中です」と述べた。
一方、シルヴェストリンは「限られたスケジュールで構想を練る必要があったのですが、リハーサルが始まり、頭の中に思い描いていたイメージが突然現実になって、このような素晴らしいダンサーの皆さんに踊っていただけるのは私にとっても大きな喜びです。実際に彼らのパフォーマンスを見ながら私自身も学んでいます 。それぞれの演者には何を一番重視して踊るのかという自由を託そうと思っておりますので、どのような形で私の振付が解釈されていくのか、楽しみにしています」と語った。
左から渡辺レイ、山本雅也、小林美奈、日髙世菜、飯島望未、ジュリアン・マッケイ、アレッシオ・シルヴェストリン ©Hajime Watanabe
◆K-BALLET Opto 「プラスチック」特設サイト
https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/23_opto_plastic/
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。