マニュエル・ルグリが最後の舞台を踊る「スーパースター・ガラ 2022」が11月24日に開幕する

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

「スーパースター・ガラ 2022」パトリック・ド・バナ:芸術監督、マニュエル・ルグリほか:出演

マニュエル・ルグリ、マチュー・ガニオ、スヴェトラーナ・ザハロワ、ナタリア・オシポワほか、バレエの<スーパースター>12名が一挙に来日し、A・B二つのプログラム全22演目(10月29日現在)を踊る注目の公演が、11月24日より5公演、東京文化会館で開催される。
マニュエル・ルグリは、パリ・オペラ座バレエの次期監督の選考でも話題となったが、結局、現在の仕事(ミラノ・スカラ座バレエ芸術監督)に専念する。そのルグリ、この公演が最後の舞台となるという。彼は、今回公演の芸術監督パトリック・ド・バナ振付のソロ『The Picture of・・』(音楽:ヘンリー・パーセル)と、オペラ座のダンサーで振付作品も上演されているシモーネ・ヴァラストロ振付『Árbakkinn』(音楽:オーラヴル・アルナルズ)をエレオノラ・アバニャートと踊る。この2作品がマニュエル・ルグリの舞台の最後となり、ついに見納めとなる。パリ・オペラ座バレエ団に1980年に入団、以来42年にわたって世界のバレエの舞台に君臨した世紀のスーパースター、マニュエル・ルグリ。日本の舞台でも名演を観せ、数多くの"ルグリッ子"たちが憧れの眼差しで見つめ続けてきた彼の舞台も、ついに見納めの時がきた。そしてそれが東京ということになった。

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マニュエル・ルグリ

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「白鳥の湖」マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
©︎ ROH, 2017. Photographed by Bill Cooper

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「ダイヤモンド」スヴェトラーナ・ザハロワ
© photo by E.Fetisova

もう一人、注目すべき男性ダンサーはエドワード・ワトソン(元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)。ワトソンはウェイン・マクレガーの『ダンテ・プロジェクト』を踊って、2021年に英国ロイヤル・バレエのプリンシパルを引退した。その舞台も評価され22年の英国批評家協会賞の最優秀男性ダンサーに選出された。ワトソンは2015年にアレッサンドラ・フェリと初演を踊ったマクレガーの『ウルフ・ワークス』(音楽:マックス・リヒター)をナタリア・オシポワと、今年7月に東京で開催されたロイヤル・バレエ・ガラで踊った『インポッシブル・ヒューマン』(音楽:ベヴ・リー・ハーリング)、さらにはカフカの『変身』を振付けて大きな反響を呼んだアーサー・ピタの新作『Somebody Who Loves Me』(音楽:ジョージ・メリル、シャノン・ルビカン)を世界初演する。ワトソンは『マイヤリンク』などの舞台でマクミラニストとして賞賛され、マクレガーやピタなどの尖鋭な現代作品も踊った優れたバレエダンサーである。

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「ウルフ・ワークス」ナタリア・オシポワ、エドワード・ワトソン
©︎ ROH 2015. Photographed by Tristram Kenton

そのほか、人気と実力を兼ね備えた堂々たるオペラ座のエトワール、マチュー・ガニオ。10月21日から上演中の新国立劇場バレエ団の新制作『ジゼル』を振付けたアラスター・マリオットの『月の光』(音楽:ジョルジュ・ビゼー)、アンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』(音楽:W.A.モーツァルト)とローラン・プティの『病める薔薇』(音楽:グスタフ・マーラー)を、やはり元エトワールでローマ歌劇場バレエ団芸術監督でもあるエレオノラ・アバニャートと踊る。コヴェント・ガーデンで大いに活躍しているワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)は、やはり同じプリンシパルのマリアネラ・ヌニェスと『ドン・キホーテ』(音楽:レオン・ミンクス)『白鳥の湖』より黒鳥(音楽:チャイコフスキー)『海賊』(音楽:リッカルド・ドリゴ)と、ガラ・コンサートには欠かすことのできない定番のグラン・パ・ド・ドゥを踊り、舞台狭しと駆け巡るだろう。
女性ダンサーではボリショイ・バレエ団プリンシパルのスヴェトラーナ・ザハロワ。登場した頃にはアンナ・パヴロワの再来とも言われたザハロワは、パヴロワが世界の舞台で踊って名声を博したフォーキン振付け『瀕死の白鳥』(音楽:カミーユ・サン=サーンス)を踊る。これは絶品。そしてバランシンの『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」(音楽:チャイコフスキー)をダニーラ・コルスンツェフと、また『Digital Love』(音楽:ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル)をパトリック・ド・バナと踊り、英姿輝く身体でクラシックとコンテンポラリー作品を披瀝する。そして英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、ナタリア・オシポワは、ジェイソン・キッテルバーガーの『Ashes』(音楽:ゴラン・グレゴヴィッチ)と前述の『ウルフ・ワークス』『Somebody Who Loves Me』。キッテルバーガーはダンサーとして踊り、オシポワに振付作品も提供している。

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「病める薔薇」エレオノラ・アバニャート

注目される演目としてはローラン・プティの『病める薔薇』。1973年にローラン・プティがマイヤ・プリセツカヤの求めに応じて、ウィリアム・ブレイクの詩に基づき、グスタフ・マーラーの交響曲第5番第4楽章を使って振付けた。装置はイヴ・サン=ローラン、パートナーはルディ・ブリアン、パリのパレ・デ・スポールで初演されている。当時まだ西側の振付家の作品が上演されることが稀だった旧ソ連のダンサー、プリセツカヤの意欲的な活動から生まれた作品である。エレオノラ・アバニャートは、2016年のエトワール・ガラでオードリック・ブザールと踊ったが、今回はマチュー・ガニオと踊る。マーラーの荘厳な音楽により、独特の表現力に秀でたアバニャートとアポロンのようなガニオの美しいパ・ド・ドゥに大いに期待したい。
いつの日も会場を大いに沸かせるロシア・バレエの作品も多い。ダリア・パブレンコ、ダニーラ・コルスンツェフのマリインスキー・バレエの元プリンシパル・コンビはアラム・ハチャトゥリアンの曲にレオニード・ヤコブソンが振付けた『スパルタクス』。そしてバレエ・リュスの舞台で初演されたニコライ・リムスキー=コルサコフの音楽にフォーキンが振付けた秀作『シェヘラザード』を踊る。パブレンコはゴレイゾフスキーの『Russkaya Sol』(音楽:チャイコフスキー)も披露する。
また、この公演の芸術監督パトリック・ド・バナの振付作品は、前述の『The Picture of...』『Digital Love』のほか、エレナ・マルティン(元スペイン国立バレエ団プリンシパル)とド・バナ自身が踊る『Wind and Clouds』(音楽:エツィオ・ボッソ、世界初演)と『MEDEA MOTHER』(音楽:マックス・リヒター)を観ることができる。
12人の今を時めくスーパースターが一堂に会して至芸を競う、スーパースター・ガラ 2022に期待したい。

◎スーパースター・ガラ 2022
https://super-stars-gala.com/

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