ヒューストン・バレエ来日公演プレイベント、加治屋百合子とコナー・ウォルシュが息の合ったパ・ド・ドゥを披露した

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

10月29、30日に東京文化会館で初来日公演を行う、ヒューストン・バレエのプリンシパルの加治屋百合子とコナー・ウォルシュが第三幕の「乙女と王子のパ・ド・ドゥ」を披露した。オディールの魔力に惑わされ、彼女との結婚を誓ってしまったジークフリート王子が湖のほとりで悲しみに打ちひしがれる乙女オデットのもとに駆けつけ、許しを請うという場面だ。このシーンでのオデットは白鳥の姿ではなく、人間の姿で登場している。二人の美しい動きがスピーディーに展開し、現代性を感じさせる振付だ。彼らの悲しい表情とひとつひとつの動きから、セリフが浮かび上がってくるようなドラマチックな踊りだった。

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加治屋百合子、コナー・ウォルシュ©fukukoiiyama

踊り終わった二人に話を聞いた。加治屋はウォルシュの通訳も務めた。
ウェルチのヴァージョンについてウォルシュは、「皆さんが見慣れた伝統的なシーンもありますが、オデットが王子と出会うときには乙女の姿をしており、人間同士の二人の恋がリアルなものとして感じられて、観客の皆さんにも共感してもらえる物語となっているのが魅力です」と語った。
印象に残るシーンとして、ウォルシュは「第三幕で先ほどお見せした王子と乙女姿のオデットのパ・ド・ドゥの後、白鳥たちが舞台に斜めに並んでいるときにロットバルトが白鳥のオデットをリフトしているシーンは、彼女が本当に羽ばたいていってしまいそうに感じます。また、好きなシーンは二つあり、ハープの音色が美しい白鳥と王子のパ・ド・ドゥのときに、彼が白鳥の両羽を引き上げながら彼女を立たせて上げるシーンは、お互いの気持ちがつながる特別な瞬間だと思っています。それとは対照的に、黒鳥のパ・ド・ドゥを踊り終わったときは、チャイコフスキーの音楽が最高潮に達するなかで高難度の技が詰まった踊りをやり遂げて、安堵感と達成感を感じます。」と話した。
加治屋は「以前在籍していたアメリカン・バレエ・シアター(ABT)では毎年『白鳥の湖』を踊ってきて、ほぼすべての役を演じてきました。印象的な場面を選ぶというのはとても難しいですが、やはり先ほど見ていただいたパ・ド・ドゥは、オデットを演じている自分が絶望感に堪えるのも苦しいくらい気持ちが最も極まっているときで、一番好きなシーンです。」と答えた。白鳥と黒鳥、また乙女のオデット、オディールの4役を演じ分けることについて加治屋は「チャイコフスキーの音楽を聴いて衣装を纏ってしまえば、もうその役に入り込んでしまいます。自分の本来の資質としては白鳥が向いていると思いますが、非日常の舞台に立つ女優として普段の自分とは違うオディール役も楽しんで演じています。オディールはロットバルトから指示を受けてどのように王子を誘惑するか相談する場面なども、面白いですよ。」と話す。

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加治屋百合子、コナー・ウォルシュ©fukukoiiyama

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加治屋百合子、コナー・ウォルシュ©fukukoiiyama

お互いの魅力について、まずウォルシュは「百合子はABTで正統派クラシックの指導(彼女のABTでのコーチは元キーロフ・バレエのイリーナ・コルパコワ)をみっちり受けてきています。彼女の背後に立っているとき、その上半身の動きの並外れて柔らかい動きやポール・ド・ブラの繊細な美しさを崇めながら、できるだけ彼女の動きに合わせることによって自分の踊りも高められているように思います。」と話した。加治屋は「彼の言葉を自分で訳すのは本当に照れくさいですね...」と苦笑い。「コナーと踊ると、前に立っている女性ダンサーを最大限に引き立てて一緒に踊ろうという気持ちがすごく伝わってきます。彼が後ろに立っているとき、彼の存在が感じられないほど、それだけ二人が一体化しているように感じられます。踊りだけでなく、お互い感情もさらけ出して反応が返ってくる素晴らしいパートナーです。先ほどお見せしたパ・ド・ドゥもコナーの瞳を見つめていると、自然と許す気になってしまいます。 」と彼女はウォルシュのパートナーとしての魅力を説明した。

舞台に立つときに大切にしていることについてウォルシュは「自分が今、舞台に立っていることや観客が見ていることは考えずに、役そのものを生きることに集中しています。」と答えた。加治屋は「演者同士の舞台での化学反応が起きると、お客様にもその空気が繋がって 劇場全体が一体化するという『舞台マジック』とでもいう瞬間が訪れます。ピルエットがうまくいかなかったということよりも、皆様の心を動かすことができたかどうかということを大切にしています。」と話した。

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加治屋百合子

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コナー・ウォルシュ

今回の3組の主演ペアのうち、まず10月29日マチネに登場するベッケイン・シスクとチェイス・オコーネルについて、ウォルシュは「二人は今シーズンより、バレエ・ウエスト(ユタ州ソルトレイクシティ)から移籍してきたカップルです。チェイスは2メートル近くあるハンサムな長身のダンサーで、素敵な踊りなので王子役にぴったりです。また、ベッケインの踊りには動物的な野性味も感じられ、二人は私生活でもパートナーなので、お互いへの信頼から生まれるスペシャルなパフォーマンスになると思います。」と解説した。一方、加治屋は30日昼公演のサラ・レインと吉山シャール ルイ・アンドレについて「サラは私のアメリカン・バレエ・シアター時代の同僚で、今回はゲスト・プリンシパルとしてシャールくんと踊ります。彼は日本人らしい繊細さを持ちながらも、ものすごくダイナミックなダンサーで、リハーサルのときでも150%のエネルギーを出しています。この迫力を舞台でも感じられると思います。サラは小柄ながらも、宝石のように光り輝くオーラを放ちます。対象的な二人が絶妙にマッチして、お互いを引き立て合い、素晴らしい公演が実現するでしょう。」と彼らの魅力を語った。

ヒューストン・バレエについてウォルシュは「ABTと並んでストーリー・バレエの歴史が深いカンパニーのひとつです。先代の芸術監督ベン・スティーヴンソンが就任していたときはケネス・マクミランもアーティスティック・アソシエイツで、二人ともストーリー・バレエを重要視してきました。スティーヴンソン監督自身も全幕バレエを数多く振付けています。現監督のスタントン・ウェルチも彼自身のヴァージョンである『ジゼル』、そして『マリー』などドラマ性のある作品を多く上演しています。」と特徴を述べた。加治屋は「ABTから移籍してきたときに、ダンサー同士がすごく助け合うバレエ団だなと思いました。全幕通し稽古のときも周りのサポートがすごく感じられ、自分が舞台で一人立つときも、皆一緒に踊ってひとつの舞台を創り上げているんだと感じられました。そういった点が素晴らしいと思います。」と語った。

ウォルシュは「新国立劇場で客演させていただいた際(2012年『マノン』、2013年『アポロ』)日本のお客様はすごくバレエを愛していらっしゃると感じました。ヒューストン・バレエやアカデミーでも活躍している日本人ダンサーは多く、日本との縁を感じています。彼らと共に日本に来られて公演ができてとても嬉しいです。」と来日公演への期待を寄せている。

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加治屋百合子、コナー・ウォルシュ©fukukoiiyama

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加治屋百合子、コナー・ウォルシュ©fukukoiiyama

◆ヒューストン・バレエ来日公演『白鳥の湖』公式サイト
https://www.koransha.com/ballet/houston/

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