三つの異なった幻想と音楽が見事に響き合う瀟洒な舞台、スターダンサーズ・バレエ団「The Concert」
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
スターダンサーズ・バレエ団「The Concert」
『スコッチ・シンフォニー』ジョージ・バランシン:振付 『牧神の午後』ジェローム・ロビンズ:振付 『コンサート』ジェローム・ロビンズ:振付
スターダンサーズ・バレエ団公演「The Concert」を観た。1950年代にアメリカで創られた3作品で構成されていて、それぞれ異なった幻想と音楽が響き合う優れた舞台だった。内容豊かなバレエ・コンサートを観せていただいた。
最初に踊られたのは、ジョージ・バランシン振付『スコッチ・シンフォニー』で、音楽はフェリックス・メンデルスゾーンの「交響曲第3番"スコットランド"」第2、3、4楽章。1952年にニューヨーク・シティ・バレエで初演されている。
まず、鮮やかな赤が目に染みるようなタータン・チェックと『ラ・シルフィード』の妖精を想起させる淡いピンクの衣裳のコントラスト、それだけでスコットランドのイメージを象徴的に物語っているかのような圧倒的な印象を受けた。塩谷綾菜と男性二人と群舞が踊る第2楽章から始まり、渡辺恭子、池田武志と群舞による第3楽章へ。スコットランドを舞台とした古典バレエの名作『ラ・シルフィード』をモチーフとした幻想を表情豊かに表したダンスだった。池田武志の妖精の結界に触れた不思議感が良く表れていた。日本から遥かに遠い国スコットランドのケルト的な余情が心に響いて、エキゾティックな情感も感じられた。メンデルスゾーンの音楽とバランシンが描いた幻想の深さが呼応する、表現の奥行きの深いバレエだった。
「スコッチ・シンフォニー」渡辺恭子、池田武志 ©Kiyonori Hasegawa
「スコッチ・シンフォニー」©Kiyonori Hasegawa
「牧神の午後」喜入依里、林田翔平
©Kiyonori Hasegawa
ジェローム・ロビンズの『牧神の午後』は、光が差し込んでいる(陽が当たっている)午後のスタジオが舞台。細長い楕円形の大きな窓と外と繋がる吹抜けが3つと入口のドアがある。そして客席に向って全面が鏡となっている設定。スタジオなのだが一種不思議な、シュールな感覚もあるデザインだ。
陽光を浴びてスタジオのフロアに微睡んでいた上半身裸に黒いタイツを着けた男性ダンサー(林田翔平)が目覚める。覚醒の中に官能が宿っていることが感じられた。身体を伸ばしてストレッチしたり、ポーズを作ったりしている。
彼が気づかないうちに、女性ダンサー(喜入依里)が現れ、やはり鏡に向って身体を動かす。気づいた男性ダンサーが意識しながら動き、やがてサポートしたりする。動きが一段落して、二人は並んて腰をおろし、男性ダンサーがごく自然に女性ダンサーの頬に口づけ。女性ダンサーは軽く反応しつつ静かに去っていった・・・。
幻想と現実の境界が曖昧になるくらい、男性ダンサーの身体の存在感と動きが一致していた。喜入依里が素直な表現で幻想の存在感を表した。林田翔平は丁寧な動きで午睡と現実の境界にあった人物の内面の揺らぎを表した。ロビンズらしく登場人物の心理と感覚と状況を細かく丁寧に追究した傑作バレエだ。音楽はクロード・ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』。1953年ニューヨーク・シティ・バレエ初演。
ジェローム・ロビンスの『コンサート』は、開演そうそうから押し殺した笑いが客席のあちらこちらから漏れ聞こえてきた。開催されているショパンのピアノコンサートの進行とともに、様々なイマジネーションが解放されて、舞台に繰り広げられる。クラシック・バレエの真剣な表現を客体化して、裏返しにしたような展開だった。ミュージカルやジャズなどのダンス表現にも長けたロビンズだからこそ、嫌味なくこうした舞台が作れるのである。
コウモリ傘やシュールな衣裳を駆使したダンスの椅子取りゲームを発展させたパフォーマンスもおもしろかったが、私は「mistakewaltz」の'完成度'の高さが見事だったと思う。ピアノ:小池ちとせ。フレデリック・ショパンの曲により、1956年にニューヨーク・シティ・バレエで初演された。
田中良和:指揮、テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ:演奏。
(2022年9月23日 東京芸術劇場 プレイハウス)
「コンサート」©Kiyonori Hasegawa
「コンサート」渡辺恭子(中央)©Kiyonori Hasegawa
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