100人の言葉とバレエとともに生きた多くの写真で編まれた、追悼文集『牧 阿佐美』が刊行された

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

昨年10月20日、日本のバレエ界に大きな貢献を成した舞踊家、牧阿佐美は逝去した。
新型コロナ禍でもあり、種々の制限が課されていたために延期されていた「牧 阿佐美 お別れの会」も9月6日、長きに渡って芸術監督を務めた新国立劇場で行われ、多くの人々が故人を偲んだ。また、想い入れの深かった『飛鳥 ASUKA』全幕が追悼公演として開催された。そしてまもなく一周忌を迎えることとなる。
生前の愛らしく活き活きと人生という舞台を踊るかのように軽やかに生きていた姿に、われわれはもう二度と会うことはできない。しかし多くの人々は、未だに胸の内なる舞踊家・牧阿佐美と会話を交わしつつ日々を生きているのではないだろうか。
牧阿佐美は、母の橘秋子が亡くなった時に、まず、その遺志を継ぐために追悼文集『橘秋子』の制作に取りかかったと言う。それに倣って、うらわまこと監修、川島京子編集により、追悼文集『牧 阿佐美』が刊行された。橘秋子の1冊と装丁はうりふたつである。

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紐解くと、まずは、母・橘秋子に抱かれた1歳の写真から、英姿颯爽としたバレエの舞台、目を輝かせる生徒たちに囲まれた教えの姿、そしてアレクサンドラ・ダニロワやローラン・プティといった世界的舞踊家と交流を交わす様子まで、バレエに全てを捧げて生きた一瞬一瞬の写真が32ページに詰め込まれている。
そしておおよそ100人の交流を重ねた人々の言葉が、「追想」「バレエ団誕生」「基礎を築く」「花開く」「受け継ぎ未来へ」「バレエ界全体を視野に」「牧阿佐美の遺したもの」といった分類により綴られている。ともに橘秋子から教えを受けて同じ舞台に立った人から、新国立劇場バレエ団の芸術監督の座を受け継いだ大原永子、なくなる直前まで稽古を受けていた人まで様々な思いが語られている。中でも直接、稽古の指導を受けた生徒たちの胸に刻まれた"金言" は印象深い。稽古を始めてしだいに成長していき、その過程の時期に応じた適切に核心を突いた言葉が与えられたのだろう。牧阿佐美の言葉とともにバレエを生きている人々が多いとつくづく感じられた。
そしてやはり胸を打つのは「牧阿佐美先生の旅立ち」だろう。重い病の中、きわめて冷静に自身の生きてきた道を振り返り、計画を立てながら実現できなかったこと(これがなかなか凄い)、記録しておくべきことを後世に正確に遺している。意欲的、情熱的でありながら冷静な旅立ちには、ほんとうに感服させられた。

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