新国立劇場バレエ団が吉田都舞踊芸術監督ほかが登壇し、新制作『ジゼル』の記者会見を行った

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

2022-23の新シーズンは、新国立劇場開場の25周年を迎える。その新シーズンの最初の公演として『ジゼル』が新制作される。改訂振付はアラスター・マリオット。吉田都舞踊芸術監督が初めて演出を手掛ける。
10月3日、新国立劇場で吉田監督、マリオット、主演ダンサー4人が登壇して記者会見が行われた。
今回は、英国ロイヤル・バレエ団でプリンシパル・キャラクター・アーティストとして踊り、『アンノウン・ソルジャー』などの振付作品があるアラスター・マリオットが改訂振付を、オペラや演劇の美術も手掛け、新国立劇場バレエ団では『火の鳥』の装置デザインを担当したディック・バードが美術・衣裳を担当、吉田都が初めて演出を行い、『ジゼル』を新制作する。

238news01.jpg

吉田都舞踊芸術監督

238news02.jpg

アラスター・マリオット

吉田監督は「私はサー・ピーターの『ジゼル』で成長した。一から教えていただいた」と冒頭に語って会見を始めた。英国ロイヤル・バレエのライト版『ジゼル』は今日も踊られており、アラスターもライト版『ジゼル』で育っていると語って、師のサー・ピーター・ライトへの敬意を表した。
そして、クラシック・バレエにこだわり、そこをきっちりと守って、演技から表現がしっかりと伝わる舞台を作るとし、コール・ド・バレエも非常に重要なので最も良い状態を探っている、と言う。
改訂振付を行うアラスター・マリオットは、明確なイングリッシュ・スタイルを継承して振付を行う。ステージに立っているすべてのダンサーが状況を把握して動く、しっかりと揺るぎない舞台を作りたい。
また、ジゼルの母親ベルタは重要。当時のその土地の信仰とキリスト教が混じり合っていて、呪術的なものもあった。美術のディック・バードはリトアニアの十字架の丘からインスピレーションを受けており、ウクライナ侵攻などの報道でも見られたが、十字架がどんどん増えていく凄絶な美しさと恐怖を感じたそうだ。
さらにディックは、16世紀の絵画からヒントを得て、バチルドの衣裳を考案し、裕福な階級と村人たちの大きな階級差を意識している、などと今回の新制作『ジゼル』のポイントも語った。
また、ダンサーは木村優里、福岡雄大、池田理沙子、速水涉悟が姿を見せた。
まず、研修所出身で初めてプリンシパルに昇級した木村優里は、「一人一人の人物像が明確になり、キャラクターや掛け合いがよりナチュラルになった」「ジゼルが心臓の弱いことをどのように受け止めているのかも究明したい」。
福岡は「視線の配り方など細かいことを学んでいる。この演目で木村と組むのは2回目となるが、よりドラマティックなバレエになると思う」
池田は「今回は、主役とペザントのパ・ド・ドゥの両方を踊るので、並行してリハーサルに取り組んでいるが、物語がより盛り上がるようにしたい」
速水は「自分なりのアルブレヒトを演じたい。見つめ合うだけの細かいシーンでも何を考えて見つめ合うか、しっかりと考えて演じたい」
などなど、それぞれ意欲あふれるコメントを語った。

238news03.jpg

木村優里、福岡雄大

238news04.jpg

池田理沙子、速水涉悟

新国立劇場バレエ団の新制作『ジゼル』は、10月21日に幕を開け、全9公演を行う。
吉田監督も触れているが、ピーター・ライト版の『ジゼル』は英国ロイヤル・バレエで上演され続けている。日本でもスターダンサーズ・バレエ団がレパートリーとしてしばしば上演している。ライト版は、多くのヴァージョンがペザントのパ・ド・ドゥとしている村祭りのシーンの踊りを、パ・ド・シスに変え、村人たちの間で響き合う精神的な共有感を踊りのシンフォニーのよう表している。この悲劇を、村娘ジゼル個人のものとしてではなく、村全体の悲劇として捉え、クラシック・バレエの改訂版としては高度な完成度を達成しており、その評価も定着していると思う。近年はアクラム・カーンのようなコンテンポラリー作品としては発表されているが、クラシック・バレエとしての『ジゼル』の新しいヴァージョンがほとんど現れていない。これはやはりライト版を凌駕することが難しいからなのではないだろうか、と私は推測している。しかし、ピーター・ライトに薫陶を受けた二人の意欲あふれるチャレンジが、どのような『ジゼル』を作るのか、大いに楽しみなところである。

238news05.jpg

●公演期間:2022年10月21日(金)〜10月30日(日)
●新国立劇場 オペラパレス
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle/

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る