ダンサーたちの個性が浮かび上がる K-BALLET Opto「プティ・コレクション」リハーサル・レポート

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

クラシック・バレエの枠を超え、ダンス表現の新たな光(オプト=Opto)を求めて、K-BALLETがBunkamuraとの協働で始動させたK-BALLET Opto の第一回公演「プティ・コレクション」が9月30日、10月1日KAAT神奈川芸術劇場にて開催される。上演される3作品にはすべて「小さい/あどけない」を意味するフランス語「Petit(プティ)」という形容詞がついている。8月23日、東京・小石川のK-BALLETカンパニーのスタジオにてメディ・ワレルスキー振付『Petite Ceremonie(プティ・セレモニー)』とK-BALLET カンパニーおよびK-BALLET Opto 舞踊監督の渡辺レイ振付『Petit Barroco(プティ・バロッコ)』の公開リハーサルを見学した。

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『プティ・セレモニー』小林美奈、山本雅也 ©K-BALLET COMPANY

まず『プティ・セレモニー』の通し稽古からスタート。舞台に見立てたスタジオの上手と下手には白い立方体の箱が複数置かれており、堀内將平、山本雅也、小林美奈、成田紗弥など総勢15名のダンサーたちが待機している。無音の中、ダンサーが一人、また一人と中央に進み出て、横一列に並び、足踏みを始める。彼らは一糸乱れぬ同じリズムを刻んでいる様が壮観である。
その後は男女のペアあるいは男同士のペアで組んで踊ったり、男性だけ、女性だけになったり、全員で踊ったり、あらゆる隊形が次々と現れては消えていく。時折、日本語での短いセリフもダンサーから発せられ、英語でセリフをいいながらジャグリングする姿も。舞台のあちこちで同時多発的にダンサーたちが様々な動きをするので、自分が視点を置かなかった箇所で見るべきものを見逃したかもしれない。
古典バレエ作品なら主役にスポットライトが当たり、群舞も主役を引き立てるように配置されるが、まさにその正反対の演出である。この作品では全員が同じ動きをするときに、それぞれのダンサーから立ち現れる個性があって、その違いが面白い。これもクラシック・バレエの群舞で角度やタイミングを細かく合わせるのとは対照的だ。ダンサーたちが儀式のときのような真剣な面持ちと、普段に近いようなリラックスした表情とがシーンによって切り替わり、彼らの新たな一面を見られて興味深い。後半ではダンサーたちが箱を走りながら動かし、その上に腰掛けて踊ったりその周りで寝転んだりと忙しい。本番ではブラック・フォーマルの装いで照明が当たり、劇的効果が格段に上がる中で、観客が受け取る印象がどのようなものになるか楽しみだ。

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『プティ・セレモニー』 ©K-BALLET COMPANY

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『プティ・セレモニー』 ©K-BALLET COMPANY

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『プティ・セレモニー』山本雅也、堀内將平 ©K-BALLET COMPANY

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『プティ・セレモニー』 ©K-BALLET COMPANY

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『プティ・バロッコ』飯島望未 ©K-BALLET COMPANY

続いて『プティ・バロッコ』のリハーサルが始まった。飯島望未をはじめとする女性ダンサーたちはハイヒールを履いて登場。ポワントを履いたときとは異なる、彼女たちの強靭な脚が強調される。しっかりと地面を踏みしめながら歩く様にも自信が感じられ、彼女たちの射るような視線にも圧倒される。特にメンバーの核となる飯島のポーズは、腕や脚の角度などにこだわりぬいたものに感じられ、強い存在感を醸し出していた。各々男性ダンサーが「女性的」と形容されるようなスタイルを交えて踊るシーンもあり、男性は雄々しくあるべきといった従来の固定概念から解放された、現在のジェンダーレス志向を象徴しているようにも思える。
後半は女性ダンサーたちもハイヒールを脱ぎ捨て、強さと激しさを増しながら踊り続ける。飯島はソロで踊ったり、女性ダンサーや男性ダンサーと組んだり、群舞に飲み込まれたり、隊形もスピーディーに変化していく。タイトルの「バロッコ」とはポルトガル語でいびつな真珠という意味。女性ダンサーたちの個性も、バロック・パールのように各々異なった輝きを放っていた。

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『プティ・バロッコ』右、飯島望未 ©K-BALLET COMPANY

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『プティ・バロッコ』 ©K-BALLET COMPANY

リハーサルを終えて、渡辺レイが質疑応答に応えた。ダンサーたちについて、「クラシックの作品と異なり、自分自身を出していかなければならないような作品に取り組むダンサーたちを見ていると、〈この子はこういう面を持っていたのか〉と、彼らの新しい魅力に気づかされます。 体の使い方などクラシックと異なる点をダンサーたち自身も発見し、私も作品を作っていく過程で、ここはこうだよねとか、重心をこういう風に移動したら動きがやりやすくなるよ、と彼らと発見している最中です。K-BALLETのダンサーたちには、この経験を活かして成長していってもらいたいと思います。」と話した。

今回の作品選定について、渡辺は次のように語った。「様々な振付家のリスト、またその作品群をいろいろ見ていきました。メディ(・ワレルスキー)さんの作品はかなり難しいのですが、『プティ・セレモニー』はクラシック・バレエのカンパニーのために振付けられた作品なので、K-BALLETのダンサーに一番ふさわしいということで選びました。彼は私がネザーランド・ダンス・シアター1(NDT1)在籍中にNDT2にいました。彼が NDT1に上がってから一緒の舞台で踊ったことがあります。」
キャスティングについては「『プティ・セレモニー』は既存のものなので、どんなダンサーを希望しているかをメディさんにお伺いした上で、私の『プディ・バロッコ』と森さんの『プティ・メゾン』の作風に合うダンサーをピックアップしながら、各作品の配役のバランスを考えて選びました。」とその過程を明らかにした。

各作品について渡辺は次のように解説する。「『プティ・セレモニー』は15人のダンサーが同じ服装をして、〈セレモニー〉というタイトルが示すとおり、儀式とかフォーマルな雰囲気の中、ダンサーたちが無音の状態で一体どのようにして動きを揃えているのか、などシンプルにダンスの一体感を見ていただけたら面白いのではないかと思います。2作目の『プティ・バロッコ』では、肉体の限界まで挑戦しているダンサーから放出される究極のエネルギーを感じていただければ幸いです。明確なストーリーはなく、空間で表現された男女の関係性を感じ取っていただけると思います。」

森優貴の新作『プティ・メゾン』について渡辺は「創作が始まったばかりで、まだ少ししか拝見していないのですが、森さんはドイツのレーゲンスブルグ歌劇場で芸術監督在任中もストーリー性のある作品を多く発表されているので、今回もその路線で素敵な作品を創作されるのではないかと思います。『プティ・セレモニー』や『プティ・バロッコ』とは趣が違うものになるのではないでしょうか。こちらも楽しみにしていてください。」とアピールした。

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『プティ・バロッコ』 ©K-BALLET COMPANY

Bunkamura K-BALLET Opto「プティ・コレクション」

2022年9月30日(金)12:30開演/17:30開演
   10月1日(土)12:30開演/17:30開演

神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール

プティ・コレクション特設サイト
https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/22_opto_petit/

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