森崎ウィンとCRYSTAL KAY主演ブロードウェイ・ ミュージカル『 ピピン』ゲネプロ・レポート

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

ブロードウェイ・ミュージカル『ピピン』が東急シアターオーブで8月30日に初日の幕を開け、話題を集めている。開幕前日に行われ、大いに盛り上がったゲネプロをレポートする。
ブロードウェイのオリジナル・プロダクション『ピピン』は1972年にボブ・フォッシーが演出・振付を手がけ、1977年までロングラン上映された。トニー賞ではベン・ヴェリーンがミュージカル主演男優賞、ボブ・フォッシーがミュージカル演出賞、振付賞、そのほか装置デザインと照明デザイン賞の合計5部門を受賞した。
ミュージカル『ピピン』は、神聖ローマ帝国チャールズ大帝の王子ピピンが人生の目的を探す冒険旅に出る物語が、サーカスの旅芸人一座のアクロバットとダンスにより劇中劇として展開されていく。

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『ピピン』ゲネプロより。撮影:ヒダキトモコ

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『ピピン』ゲネプロより。撮影:ヒダキトモコ

本番同様のゲネプロの幕が開き、客席のブロードウェイの演出チームは盛んに協議を行い、幕の向こうでも英語で士気を高める会話が飛び交う。ミュージカルの本場ブロードウェイの雰囲気が会場全体に漂った。
オープニング・ナンバー「Magic to Do(魔法のひととき)」が流れ、演者たちが観客に向かって「Join Us!」と繰り返し呼びかける。舞台ではCRYSTAL KAY扮するリーディングプレイヤーが中心となるサーカス一座のメンバーがアクロバティックな芸を披露している。様々に組み合わされた逆立ちや、高く吊るした布を使ったエアリアル・アクト、ジャグリング、バランス芸などたくさんのサーカス・パフォーマンスが常に舞台上で繰り広げられ、たちまち非日常の幻惑の世界に引き込まれる。サーカス・クリエイションを担当したジプシー・シュナイダーやバレエ・ダンサーでもあるロシア出身のローマン・ハイルディンはシルク・ド・ソレイユに参加した経歴をもつ。2013年のブロードウェイ・リバイバル版にも出演したアクロバット/サーカス界のスター・パフォーマー、オライオン・グリフィスら一流のアクロバット・アクターたちによる、手に汗握る至芸には圧倒されるばかり。

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『ピピン』ゲネプロより「マンソン・トリオ」左より加賀谷真聡、CRYSTAL KAY、神谷直樹。撮影:ヒダキトモコ

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『ピピン』ゲネプロより。撮影:ヒダキトモコ

CRYSTAL KAYは燕尾服をアレンジした全身黒の衣装がとても似合う。頭にちょこんと乗せたシルクハットがエンターテイメント界の道先案内人という感じ、切れのいい踊りと低音が心地いい歌声とともに、圧倒的な存在感で舞台を支配する。 KAYは空中ブランコも軽やかに乗りこなし、フラフープ高速回しも成功させた。物語はKAYが旅芸人一座の劇中劇を観客に披露しながら進む。
一座が上演する劇の主人公の若き王子ピピン(森崎ウィン)が登場。大学を卒業したばかりで未来に思いを馳せる。森崎は「Corner of the Sky(僕の居場所)」を歌い、伸びやかな歌声を披露。世に出る希望を胸に秘めた青年ピピンにふさわしい。
ピピンは父王チャールズに会いに故郷に戻る。王は、継母ファストラーダとその息子ルイスや宮殿の取り巻きに囲まれ、ピピンにまともに取り合ってくれない。父に認めてもらおうと戦争に従軍。しかしルイスに比べて戦争では役に立たず・・・。ここでリーディングプレイヤーと男性ダンサー2人の3名でハットとスティックを手にして踊る「マンソントリオ」。これはオリジナル版でボブ・フォッシーが振付けたものがほとんどそのまま。ダンス・ファンには注目していただきたい。そのほかのダンス・シーンはボブ・フォッシーの愛弟子でミュージカル『フォッシー』を創案・振付したチェット・ウォーカーが構成しており、黒猫のようにしなやかで官能的なフォッシー・スタイルのダンスを堪能できる。

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『ピピン』ゲネプロより、前田美波里。
撮影:ヒダキトモコ

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『ピピン』ゲネプロより、CRYSTAL KAY、森崎ウィン。撮影:ヒダキトモコ

戦に疲れ果てたピピンは祖母バーサ(前田美波里、中尾ミエとWキャスト)を訪ねる。彼女は彼を優しく労り(「No Time At All(あっという間に)」)、悩んでばかりいないで、今ある人生を楽しむように諭す。前田美波里自身の人生からも裏打ちされる、若者たちへの包容力溢れる感動的歌唱だ。しかし、その温かい余韻を切り捨てるかのように、バーサはドレスを脱ぎ捨てて脚もあらわなコルセット姿になり、男性アクロバット俳優にサポートされながら、空中ブランコにぶら下がり、華麗なポーズを決めてみせた。バーサを演じる前田が74歳にして、難度の高いサーカス技をこなすとは! 彼女の身を挺してのパフォーマンスには、後輩たちを鼓舞するパワーに満ち溢れていた。
その後、ピピンは恋愛に耽り、さらに父王の座を狙って迷走していく。2幕ではピピンに大きな影響を与える未亡人キャサリンとの出会いが描かれる。リーディングプレイヤーに操られながら、自身に降りかかる様々な出来事を体験し、悩み、傷つきながら歩んできたピピンは最終的にどのような道を選択するのかが後半の見どころ。森崎ウィン(ピピン)が自立に向けてもがきながら前に進んでいく様をリアルに演じる。

2013年に演出家のダイアン・パウルスがリバイバル版の制作にサーカスの要素を持ち込み、リーディングプレイヤー役を女性に変えた。2013年のトニー賞では、このプロダクションは再演ミュージカル作品賞、ミュージカル主演女優賞(パティナ・ミラー=リーディングプレイヤー役)、ミュージカル助演女優賞(アンドレア・マーティン=ピピンの祖母バーサ)、ミュージカル演出賞(パウルス)の4部門を受賞した。
このリバイバル版のブロードウェイのスタッフが結集して2019年日本上演版が上演され、城田優とCRYSTAL KAYが主演を務めた。それから3年。ピピン役の森崎ウィンと、未亡人キャサリン役の愛加あゆが新加入して今回の再演となった。

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CRYSTAL KAY、森崎ウィン 撮影:ヒダキトモコ

ゲネプロを前に森崎ウィンとCRYSTAL KAY(クリスタル・ケイ)が報道陣の取材に応じた。
森崎は「ピピンは自分探しの旅に出て、僕自身もリアルで生きてる中で迷いを感じるなど、そういうところが演じる役と重なってきて、ウィンなのかピピンなのか、という瞬間が生まれています。未来に向けてどう自分が動いていきたいのか、自分自身を見つめ直す機会にもなりました。」と今回の単独主演いついて語った。
二度目の出演のCRYSTAL KAYは森崎の印象について「パピー(子犬)みたいじゃないですか? 今でも私が食べてしまいそうなくらい(笑)。ウィン君はピュアな青年で、 ピピンの年齢も大学から戻ってきて19歳ぐらい。少年が青年になっていく過程で、何も分からないままこのお芝居の世界に迷い込んでしまう。私が彼を誘い込み、彼は私にされるがままです。すごく自然にピピンになっています。」
また、KAYは「オープニングから音楽も素晴らしく、ダンスもすごいので、舞台の世界に引きずりこまれると思います。ストーリー展開もすごくスムーズで、 もちろんアクロバットやイリュージョン、ダンスなど全てがここに詰まっています。 クライマックスもすごいです。このショーの素晴らしいところは、老若男女見てる人皆が、自分の人生とどこかで必ず照らし合わせられる瞬間がいっぱいあるところです。それがやっぱりマジカルなところだなと思います。笑いあり、涙あり、勇気ももらえて、ちょっとダークだったり人間くさい部分も出てきます。コロナ禍もあって 暗くなってる世の中にマジックを振りまいて、この時間だけでも皆さんを夢の世界へお連れすることが できると思うのですごく楽しみにしてます。いろんな意味で最高のエンタテインメントなので、皆様、楽しんでストレスを発散してください。お待ちしています。」とアピールした。

人は誰しも自身の人生の意味を繰り返し自らに問いながら生きていく。観客はこのミュージカルを観て、人生を懸命に駆け抜けるピピンに自らを重ねるだろう。ダンスとアクロバットが一体となって音楽とドラマが融合し、夢幻の感覚とスケール感を飛躍的に増した斬新な舞台をぜひとも体験してほしい。

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『ピピン』ゲネプロより、今井清隆、森崎ウィン。撮影:ヒダキトモコ

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『ピピン』ゲネプロより、森崎ウィン、愛加あゆ。撮影:ヒダキトモコ

ブロードウェイミュージカル『ピピン』

東京公演:2022年8月30日(火)〜9月19日(月・祝)東急シアターオーブ
大阪公演:2022年9月23日(金・祝)〜 9月27日(火)オリックス劇場

◆ミュージカル『ピピン』オフィシャルHP
https://www.pippin2022.jp/

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