モーリス・ベジャールの異なる魅力を持つ4作品が上演された「ベジャール・ガラ」、東京バレエ団

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

東京バレエ団〈ベジャール・ガラ〉

『ギリシャの踊り』『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥ『バクチⅢ』『火の鳥』モーリス・ベジャール:振付

現代バレエに革命をもたらした振付家、モーリス・ベジャールの没後15年を記念して、その名作の数々をレパートリーに持つ東京バレエ団が、〈ベジャール・ガラ〉と題した公演を行った。プログラムは、上演順に『ギリシャの踊り』、『ロミオとジュリエット』よりパ・ド・ドゥ(PDD)、『バクチⅢ』、そして9年振りの上演となる『火の鳥』だった。3回行われた公演を初日のキャストで観た。なお、今年はバレエ団がベジャール作品をレパートリーに採り入れてちょうど40年になるという。その最初の演目は、20世紀バレエ団のカリスマ的スター、ジョルジュ・ドンを「メロディ」に迎えて共演した『ボレロ』だった。東京バレエ団にはベジャールに委嘱した『ザ・カブキ』や『M』もあり、また日本でベジャール作品を上演できるのは東京バレエ団だけなので、ベジャールの遺産を継承するためにも、その作品を定期的に取り上げて欲しいと思う。

幕開けは『ギリシャの踊り』。青い空をバックに明るい舞台に潮騒が響き渡ると、白いパンツの男性たちと黒いレオタードの女性たちによる波の動きを思わせる群舞が始まった。ミキス・テオドラキスの郷愁を誘うような音楽が聞こえてくると、バックは黒い幕で閉じられてしまうが、そこで趣きの異なる踊りが展開されていった。岡崎隼也と井福俊太郎による瑞々しいPDDや、裸足の足立真里亜と山下湧吾による明るく楽し気なPDDと、ハサピコでのトゥシューズの伝田陽美とブラウリオ・アルバレスによる緊張感のある堂々としたPDD、樋口祐輝の伸びやかで逞しさもあるソロが続いた。全員がそろうフィナーレの群舞になると、懐かしいバックの青い空が戻ってきた。音楽の効果も手伝って、地中海の空や海、潮の香り、吹き渡る風が感じられる舞台だった。

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Photo/Kiyonori Hasegawa

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Photo/Kiyonori Hasegawa

ベジャールの『ロミオとジュリエット』は、ベルリオーズの同名の劇的交響曲を用いて、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の物語を劇中劇の形で提示して、愛と反戦を訴えた傑作といわれる。ここでは、若い恋人たちのPDDが踊られた。ロミオの大塚卓のしなやかなジャンプや、ジュリエットの秋山瑛の喜びに満ちた初々しい仕草、さらに流動感あふれるリフトも加わり、二人の恋が燃えあがる様が伝わってきた。突然、敵対する若者たちが入り込み、争いを始め、殺し合う。恋人たちはおののくが、なすすべを知らない。しまいにロミオとジュリエットは重なり合うように床に倒れ、若者たちも倒れ果てる。すると、倒れたままのロミオとジュリエットをスポットライトが照らし出し、続けて周囲の倒れた若者たちを次々と照らしていった。争うことの愚かさを訴える強烈な幕切れだった。
『バクチⅢ』では、インドの伝統音楽にのせて、ヒンドゥー教で破壊と再生と、舞踊も司るシヴァ神とその妻シャクティによる踊りが繰り広げられた。真っ赤なタイツの柄本弾と上野水香が、ヒンドゥーの神々の絵画や彫像に見られる独特のポーズを織りまぜながら、互いの身体を複雑に絡ませ、抱き合い、リフトし、それぞれのソロも含めて、官能を刺激するような密度の高い踊りを展開していった。シャクティを踊りこんでいる上野の鋭い眼差しや、足の甲やつま先まで神経を行き届かせた演技が印象的だった。

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Photo/Kiyonori Hasegawa

最後に上演されたのは『火の鳥』。ストラヴィンスキーの音楽に振付けたフォーキンの原作はロシアの民話に基づくファンタジックな物語だが、ベジャールはこれを圧制に立ち向かうパルチザンの闘争に置き換えた。青い作業服のような衣裳のパルチザンたちが勢いよく踊る冒頭のシーンでは、伝田陽美と宮川新大の姿が目についた。真っ赤な服を着た火の鳥の池本祥真がリーダーとして登場し、仲間を鼓舞するように、全身にパワーを漲らせて力強く踊った。皆で輪になって座り、火の鳥が自分の掌に口づけして隣の人とその手を合わせると、その行為が隣の人、そのまた隣の人へと伝播されていったが、結束を固める密やかな儀式のようにみえた。闘いが続くなか、火の鳥が力尽きて倒れると、フェニックスの柄本弾が現れ、倒れた火の鳥を蘇らせ、再び闘争へと向かわせる。池本を背に乗せて、生のエネルギーを注ぎ込んでいるような柄本の姿は威厳に満ち、神々しく映った。高揚するストラヴィンスキーの音楽と相まって、闘争への不屈の精神を力強くうたいあげて終わった。
異なる魅力を持つ4作品を通じて、ベジャールの偉大さを改めて知る思いがした。カーテンコールでは、今回、作品の振付指導を行った元モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)のダンサー、小林十市も姿を見せた。彼は2022/23シーズンから、BBLのバレエ・マスターに就任することが決まっているという。ベジャール作品を継承する上で、彼の果たす役割がますます期待される。
(2022年7月22日 東京文化会館)

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Photo/Kiyonori Hasegawa

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Photo/Kiyonori Hasegawa

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