アシュトン、マクミラン、ウィールドンなどの作品をメインに、華麗な舞台が繰り広げられた英国ロイヤル・バレエ・ガラ

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

英国ロイヤル・バレエ団公認〈ロイヤル・バレエ・ガラ〉

『マノン』より第1幕のパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン:振付)ほか

予定されていた英国ロイヤル・バレエ団の来日公演はコロナ禍のため見送られたが、代わりにバレエ団の精鋭ダンサーによる〈ロイヤル・バレエ・ガラ〉が開催された。参加したのは、サラ・ラム、セザール・コラレス、高田茜、平野亮一ら人気のプリンシパル9人と、2022/23シーズンにプリンシパル昇進が決まっている新鋭、ウィリアム・ブレイスウェルとリース・クラークのほか、来日を取り止めたローレン・カスバートソンに代わり、急遽、参加が決まった元プリンシパルのエドワード・ワトソンらを加えた総勢13人。プログラムはA、Bの二種で、フレデリック・アシュトンやケネス・マクミラン、クリストファー・ウィールドンやウェイン・マクレガーといったロイヤルゆかりの新旧の振付家の傑作に、『海賊』などの古典を交えた多彩な作品が上演された。なお、スペシャル企画として、芸術監督のケヴィン・オヘアによるプレ・トークが17日夜のBプロ公演の前に行われることになり、運よくこれに立ち会うことができた。

プレ・トークにはエドワード・ワトソンも同席した。ワトソンは2019/20シーズンでプリンシパルを引退したが、2020年からレペティトゥールを務めている。彼は、引退しても舞台に立ちたいという気持ちは持ち続けているので、今回のオファーはまさに「ナイス・サプライズ」で、アーサー・ピタの新作を踊ることができるのも嬉しいと語った。
ケヴィン・オヘアは、バレエ団の芸術監督に就任して10年になるが、その10年間に新しい振付作品を手掛け、素晴らしいダンサーを輩出してきたと振り返った。パンデミックのあおりで劇場が閉鎖された時は、ダンサーたちに自分たちの国に戻っても良いと帰したものの、予想以上に長期化したため、毎週土曜にズームで自分から全員にメッセージを送るなどして、バレエ団としてのまとまりを失わないように努めたという。一方、ロイヤルのファンを繋ぎとめるためには、過去10年間に撮りためた作品があるので、毎週金曜日にストリーミング配信を行ったという。今回は、PCR検査や隔離期間のことを考えて、カンパニーとしてのツアーは難しいと判断して取り止めたが、来年はフル・カンパニーで来日し、素晴らしいキャスティングによる『ロミオとジュリエット』とガラ公演の二つのプログラムを上演したいと語り、来年の日本公演を期待させてプレ・トークを終えた。

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Photo/Kiyonori Hasegawa

【Bプログラム】第1部は、サラ・ラムと平野亮一による『ジュエルズ』より "ダイヤモンド"(振付:ジョージ・バランシン)で幕を開けた。白のコスチュームのラムの、音楽に即応するようなしなやかな身のこなしが清純な印象を与えた。平野は、この作品では美しくサポートすることに徹していた。『不思議の国のアリス』より第3幕のパ・ド・ドゥ(PDD)(振付:クリストファー・ウィールドン)では、ハートのジャックのアレクサンダー・キャンベルが小気味よいジャンプや回転をみせ、アリスの高田茜も弾むような動きにコケティッシュな味を添え、二人の仲をうたい上げるようにして終わった。『アフター・ザ・レイン』(振付:ウィールドン)では、ピアノとバイオリンが奏でるアルヴォ・ペルトの音楽にのせて、リース・クラークがマリアネラ・ヌニェスをゆるやかに抱え、床に寝そべり、互いにもつれあい、身体を絡ませ、しっとりと一体感を紡いでいった。
『精霊の踊り』は、グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』の中のフルートの曲に、フレデリック・アシュトンが当時バレエ団のプリンシパルだったアンソニー・ダウエルのために独立したソロ作品として振付けたもの。階段の上に立つ白いタイツ姿のウィリアム・ブレイスウェルが彫像のよう美しい。床に下りると、たおやかな身のこなしや軽やかなジャンプで繊細な魂のゆらぎを伝え、余韻を残した。その後、ラムとマルセリーノ・サンベによる『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』(振付:ウィールドン)と、フランチェスカ・ヘイワードとアレクサンダー・キャンベルによる『ラプソディ』(振付:アシュトン)が続き、第1部の最後に古典の『ドン・キホーテ』より第3幕のPDD(振付:マリウス・プティパ)がヤスミン・ナグディとセザール・コラレスにより上演された。二人とも白いコステュームで登場し、ナクディは巧みにバランスを保ち、コラレスは彼女を片手で高くリフトし、互いに呼応するようにスケールの大きなジャンプやダイナミックな回転技を繰り広げていき、会場を沸かせた。

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Photo/Kiyonori Hasegawa

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第2部は、ラムと平野が再びペアを組んだ『タイスの瞑想曲』(振付:アシュトン)で始まった。甘く抒情的なマスネの音楽にのせて、平野は高くラムをリフトし、ラムは身を委ねるように平野の背にのり、心を通わせていく様が一篇の詩のようにロマンティックに綴られた。次は、エドワード・ワトソンによる、この公演のためにアーサー・ピタが振付けた小品『インポッシブル・ヒューマン』の世界初演。カジュアルな服装で横たわっていたワトソンは、ゆるやかに脚を伸ばし、立ち上がり、柔軟な身体を大きくしなわせたり、立ち止まって前を見据えたりしたが、内から湧き上がってくるものを表出したのだろうか。最後の「インポッシブル・ヒューマン、インポッシブル・ヒューマン」とこだまするような歌声が耳に残った。『マノン』より第1幕(寝室)のPDD(振付:マクミラン)を踊ったのはナグディとクラーク。マノンのナグディが愛くるしくデ・グリューのクラークに甘えると、クラークは彼女へのいとおしさが抑えきれなくなり、キスを交わし、彼女を抱えたまま回転しと、愛を燃えあがらせていった。見慣れたPDDだが、若さが輝くような瑞々しい二人の演技に魅せられた。

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Photo/Kiyonori Hasegawa

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Photo/Kiyonori Hasegawa

『クローマ』(振付:ウェイン・マクレガー)を踊ったのは高田とサンベ。高田のしなやかで美しい脚とサンベの筋肉質で強靭な脚が対照的だったが、二人はアグレッシブな音楽に拮抗するように、身体の極限に挑むように熾烈な動きを繰り広げていき、途切れることのない緊張感で圧倒した。コンテンポラリー作品を見事に踊りこなした高田が新鮮に映った。次は『ロミオとジュリエット』より第1幕のPDD(振付:マクミラン)。ジュリエットのヘイワードは恥じらいを見せながら、次第に打ち解けてロミオに身体を委ねていき、ロミオのコラレスは彼女への想いを力強いジャンプでストレートに表現し、彼女を肩に乗せ、逆さにリフトするなど、互いに心を高揚させていった。ここでもコラレスの弧を描くようなジャンプが冴えていた。Bプロの締めは『グラン・パ・クラシック』(振付:ヴィクトル・グソフスキー)で、踊ったのはヌニェスとブレイスウェル。難度の高いクラシックの技法が詰め込まれた、ガラ公演の定番の演目の一つである。ヌニェスは足さばきも鮮やかに、フェッテなどの回転技を端正にこなし、ブレイスウェルもスケールの大きなジャンプや見事なアントルシャを際立たせ、二人で格調高く踊り納めた。約2時間半におよんだBプロのガラ公演。アシュトンやマクミラン、ウィールドンらの作品をメインに据えたプログラム構成は英国ロイヤルの特色を明確に打ち出したもので、そこにロイヤルの誇りが感じられた。魅力的なダンサーも育っているのが分かり、来年に予定されるフル・カンパニーでの公演が楽しみになった。
(2022年7月17日夜 オーチャードホール)

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Photo/Kiyonori Hasegawa

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