楽しかった『ラ・フィユ・マル・ガルデ』と『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』、NBAバレエ団
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
NBAバレエ団
『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』クラーク・ティペット:振付、『ラ・フィユ・マル・ガルテ』ブルース・マークス:演出・再振付、ジャン・ドーベルヴァル、ブロニスラヴァ・ニジンスカ:原振付
NBAバレエ団がニジンスカの『ラ・フィユ・マル・ガルデ』を11年振りにとりあげ、今回が6回目の上演となる得意のレパートリー『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』とともに上演した。
『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』を振付けたクラーク・ティペットは、1970年代にアメリカン・バレエ・シアター(ABT)で踊り、トワイラ・サープの『プッシュ・カム・トウ・ショブ』の初演も踊っている。一時、ABTを離れたが復帰してこの曲を振付けた。しかし、その後、38歳の若さで亡くなっている。
『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』はアレグロ・モデラート、アダージョ、アレグロ・エネルジコの3楽章で構成されており、レッド、アクア、ブルー、ピンクの4組のペアと16人のコール・ド・バレエが踊る。
天井にシャンデリアをひとつ輝かせる、というバランシン作品を想起させる設定だが、4組の色鮮やかなペアと薄い黄色やベージュの衣装を纏ったコール・ドとが織りなす色彩のページェント、とも言える舞台。振付家のバランスの良い優れた色彩感覚とともに、弦楽の荘厳な響きと力強い躍動感がいきいきと踊られた。また、美術のコンポジションのようなフォーメーションを作って無造作に崩すといった「変化する装置」、あるいは不規則なピルエットを多発させ幻惑的なシーンを顕現させるなど、なかなか個性的な振付だった。4組のカラーのペアも色彩をいたずらに際立たせるのではなく、全体に調和的に表されて効果を上げていた。
『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』ブルー
竹内碧、宮内浩之 撮影:千葉秀河
『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』アクア、ブルー、ピンク、レッド
(左から)猪嶋沙織、伊藤龍平、竹内碧、宮内浩之、山田茉子、孝多佑月、浅井杏里、刑部星矢
撮影:千葉秀河
『ラ・フィユ・マル・ガルデ』は、1789年にフランスのボルドー大劇場で初演された古いバレエだが、フレデリック・アシュトンのヴァージョンがよく知られ、今日でも世界中の多くのバレエ団で上演されている。
今回、NBAバレエ団が上演したのは、ブロニスラヴァ・ニジンスカが1940年にバレエ・シアター(のちにABTとなる)で上演したヴァージョン。元ABTのプリンシパルでデンマーク・ロイヤル・バレエなどでも踊り、ボストン・バレエの芸術監督も務めたブールス・マークスの再振付によって、NBAバレエ団としては11年ぶりの再演となった。周知のようにニジンスカは、バレエ・リュスにもしばしば作品を提供している。ストラヴィンスキーの『結婚』を始め、舞踊史上に名を残す作品を振付けており、この作品にも来歴は種々ある。
しかし、そうしたことを知らなくてもニジンスカの『ラ・フィユ・マル・ガルデ』の舞台は、実に楽しい。
『ラ・フィユ・マル・ガルデ』コーラス、リーズ、シモーヌ
二山治雄、勅使河原綾乃、古道貴大 撮影:千葉秀河
『ラ・フィユ・マル・ガルデ』シモーヌ、トーマス
古道貴大、三船元維 撮影:千葉秀河
リーズ(勅使河原綾乃)とコーラス(二山治雄)のカップルのステップが躍動し、抜群の楽しさをみせて踊られ、潮のような踊りの流れが絶え間なく続き、芝居の部分はほとんど無いと言ってもいい。世界中のどこの街にも存在するであろう「ゴシップガールズ」(岩田雅女、鈴木恵里菜)が、やはり、この時もいたのか、そう思うだけも楽しいし、このコメディ・バレエの良い彩りとなっている。
コメディ・バレエだが、頑なにと言いたいくらい、踊りの流れの表現によりコミカルな物語を展開している。それがおそらくニジンスカ流なのだろう。アシュトン版の洗練された無駄のない表現が醸す笑いももちろんいいが、舞台から客席に干草の匂いが漂ってくるかのような、ニジンスカのヴァージョンを、特に今回は十分堪能することができた。
二山の踊りは脚が美しく伸び、ピルエットを回る時は軸足は舞台に吸い付いている。勅使河原はほんとに可愛らしかった。スネたり妄想を逞しくする表現も良かったが、やはり何よりステップが息づいているように活き活きとして、二山とともに明るく楽しく踊った。
ヨーロッパのバレエのおもしろさと、アメリカのバレエの楽しさを合体させたように感じられた舞台だった。
(2022年7月9日昼 新国立劇場 中劇場)
『ラ・フィユ・マル・ガルデ』コーラス、リーズ
勅使河原綾乃、二山治雄 撮影:千葉秀河
『ラ・フィユ・マル・ガルデ』コーラス、リーズ
勅使河原綾乃、二山治雄 撮影:千葉秀河
『ラ・フィユ・マル・ガルデ』アラン 孝多佑月 撮影:千葉秀河
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