小林十市、モーリス・ベジャール・バレエ団のバレエ・マスターに就任

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

小林十市さん

小林十市

現代バレエの革命児として名高いモーリス・ベジャールの没後15年にあたり、東京バレエ団による〈ベジャール・ガラ〉がスタートした7月22日、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)の元ダンサーで、ベジャール作品の振付指導のため来日中の小林十市が、2022/23のシーズンからBBLのバレエ・マスターに就任するというニュースが発表された。BBLの芸術監督、ジル・ロマンはかつて小林の同僚であり、小林がベジャールの創作の現場に立ち会い、在団中の14年間に様々な作品を踊ってきたことや、退団後もベジャール作品の指導を東京バレエ団やパリ・オペラ座バレエ団で行ってきた実績を高く評価しての起用という。バレエ・マスターの職務は、レパートリーの指導やクラスレッスンを行うだけでなく、芸術監督が不在時の代行も務めるというから、その責任は重そうだ。

以下に、日本舞台芸術振興会のリリースに掲載された小林のコメントを紹介させて頂く。
「僕がBBLを離れてから19年がたっているので、オファーを受けたときは正直不安な気持ちがありました。しかしジルからは『まったく心配していない』と。これまでどこかのバレエ団で指導を行うときは、必ずローザンヌに戻ってニュアンスの確認や情報のアップデートを行ってきましたし、そうやって信頼関係を築いてきたことを評価してくれたのだと思います。ベジャールさんのいないBBLで自分が何を感じ、何ができるのか分かりませんが、次のBBLの日本公演で一緒に来日することができたらとても嬉しく思います」

小林十市は1969年東京生まれ。祖父は人間国宝になった落語家の五代目柳家小さん、弟は落語家の柳家花緑ということから、小林がバレエにゆかりのある家の生まれではないことがうかがえる。それが10歳で小林紀子のもとでバレエを始め、17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに入学。身体の可能性に挑もうと、国外で活動することを考えていた時、BBLの日本公演を観て魅了され、1989年にローザンヌに移り、BBLに入団した。以来、『春の祭典』『火の鳥』『中国の不思議な役人』『シェヘラザード』など、主要な作品に出演。『エレジー』『Mr. C...チャップリン』『くるみ割り人形』では猫の役を踊ったが、ベジャールは小林の"猫ぶり"をとても気に入っていたようだ。1993年、ベジャールが三島由紀夫を題材に東京バレエ団のために創作した『M』では、三島の分身「Ⅳ-シ(死)」を踊っただけでなく、振付補佐も務めた。

2003年、腰の故障のため退団したが、日本では俳優としての活躍も始め、また2016〜21年は、パートナーのクリスティーヌ・ブランとフランスのオランジュでオランジュ・バレエ・スクールを主宰し、後進の育成に努めた。一方、ベジャール作品の上演にあたって指導を依頼されることも多く、世界各地のカンパニーに赴いて指導してきた。BBLに限らず、生前のベジャールを直に知るダンサーが少なくなっている現在、ベジャールの創作の過程を知り、師の薫陶のもとでダンサーとして経験を積んできた小林のような存在は、ベジャール作品の継承に欠かせず、その重要性は一層増すだろう。最後に、2021年は3年に一度のバレエの祭典〈Dance Dance Dance @ YOKOHAMA〉のディレクターを務め、自身もダンサーとして2つの作品で舞台に立ったことを記しておきたい。50代のダンサーに焦点を当てた〈エリア50代〉の企画では、フランスの振付家アブー・ラグラによる新作ソロ『One to One』を踊り、〈Noism Company Niigata×小林十市〉では、かつてベジャールに師事した金森穣の演出・振付による新作『A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ』で主演を務め、しなやかな身体性、表現者としての深みを増したパフォーマンスで健在ぶりを示した。

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