SNSでも大いに注目を集める本田千晃(スロバキア国立バレエ)にインタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=坂口香野

7月26日の「堀内元バレエ・フューチャー2022」に出演する本田千晃は、スロバキア国立バレエのドゥミ・ソリストとして活躍中。YouTube「ちあこちゃんねる」では、プロのダンサーとしての日常からダンス動画、ダイエットに役立つレシピまで、様々な角度からバレエの魅力を発信している。
https://www.youtube.com/channel/UC3ksN_4AjdLqefrgnSfB8NA
これまでのキャリアからYouTuberとしての活動、今後の展開まで、オンラインでたっぷり語っていただいた。

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――はじめまして。「ちあこちゃんねる」、以前からときどき拝見していたので、じかにお話しできて嬉しいです。特に動画のオープニングで、大阪の道頓堀をバックに、美しいジャンプを披露している映像が目に焼き付いています。

本田 たまたま海外の写真家の方に、バレエのポージング写真を撮影したいと頼まれたので、朝6時くらいに道頓堀に行ったんです。その頃ちょうどYouTubeを始めたばかりだったので、ついでに動画も撮影して、あんな映像になりました。

――3歳からバレエを始めたとのことですが、きっかけはどんなことでしたか。

本田 母が昔からジャズダンスをやっていて、踊ることが大好きだったので、姉と私にバレエを習わせようとしたようです。私は最初「絶対やらへん」って言ってたらしいんですが、母の送り迎えについていって姉の踊る姿を見ているうちに「私もやる!」って言い出したみたいですね。

――バレエは本気になればなるほど厳しい面があると思いますが、レッスンを休みたいと思ったことはありますか。

本田 全然ないんです。とにかくバレエが大好きで。最近、小学校1、2年生時代の発表会の映像を見てみたんですが、本当に楽しんで踊っているなと自分でも思いました。初めてトゥシューズで踊ったお人形さんの踊りなんですけど、頭に大きなリボンをつけて、チュチュを着て。そのとき、自分が舞台に立った時の状況まで、はっきりと覚えています。

――2009年から2年間、スイスのバーゼルバレエ学校で学ばれています。海外でバレエダンサーとして生活していこうと考え始めたのはいつ頃からですか。

本田 小学校高学年くらいから、漠然と海外に行きたいとは考えていました。ソウダバレエスクールに通い始めたら、たくさんの先輩が海外留学や就職をされていたので、その夢がより現実的になりましたね。周囲から、バレエダンサーとして生活していくには、海外でないと難しいと聞いていたせいもあります。
毎年、ソウダバレエスクールにワークショップをしに来てくださっていたラファエル・アブニクヤニ先生が当時、バーゼル・バレエ学校で教えていたので、高校1年生の夏、写真とビデオを送って入学許可をいただきました。

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――これまで様々な先生の指導を受けてこられたと思いますが、特に印象に残っている言葉があれば教えてください。

本田 バーゼルバレエ学校でもずっと教わっていたラファエル先生には、厳しい言葉をたくさんいただいています。「女性は舞台で基本的にトゥシューズで踊るんだから、バレエシューズでセンターレッスンやってても意味がない!」という言葉にはぐさっときましたね。もちろん「意味がない」ことはありませんが、先生がおっしゃったのはトゥシューズがまるで体の一部であるかのように履きこなせなければ、プロにはなれないという意味だったと思います。今は公演数が多いので、調整のためにバレエシューズでレッスンを受けることもありますが、心の中で「先生、すみません」とつぶやいています。ラファエル先生の言葉は、自分を高めるためのお守りのようになっていますね。

――バレエ学校時代、特に心に遺っている舞台はなんでしょうか。

本田 卒業公演で踊ったバランシンの『タランテラ』です。バランシンの振付を継承している先生がわざわざ来て指導してくださいましたが、ものすごいスパルタでした。

――『タランテラ』、今回の公演では塩谷綾菜さんが踊られますね。弾むような踊りで見ていると楽しいけれど、体力的にすごくハードそうです。

本田 そうなんです!最初から最後までずっとアレグロでノンストップなので、気持ちをしっかりもっていないと踊れません。リハーサルで「もう一回」「ここからもう一回」と繰り返しいわれて、最後のほうは脚に力が入らなくなってもうろうとしてきたり、もう限界でリハーサルの前に大泣きしたこともありました。でも、最終的には驚くほど体力がついて、本番では思い切りはじけ、楽しく踊ることができました。あの経験があったからこそ、何がきても大丈夫、という自信がついた気がします。

――2014年にチェコのノース・ボヘミアン・シアター・オブ・オペラアンドバレエに入団され、2016年にスロバキア国立バレエに移籍されました。

本田 はい。チェコのノース・ボヘミアン・シアターは私営の小さな劇場でしたが『ジゼル』『くるみ割り人形』『真夏の夜の夢』など、数々の作品で主演させていただきました。そこである程度経験もできたので、もう一度新しい環境に入って一から頑張りたいなと思い、今のバレエ団のオーディションを受けました。

――スロバキア国立バレエでのご活躍は、YouTubeで詳しく見ることができます。舞台数はかなり多くてお忙しそうですね。クラシック作品のほか、『カラマーゾフの兄弟』や子どものためのバレエ『カブトムシ誕生』など、オリジナル作品のリハーサルの様子もとても興味深かったです。

本田 コロナ禍で公演が減ってしまっていたのですが、今は月7本と、以前のペースに近づいてきました。9月から始まる来シーズンは全60公演の予定です。新作も1シーズンに2作品のペースで発表しているので、つねに次の作品のリハーサルをしている状態ですね。

――YouTube配信を始めたきっかけを教えてください。

本田 私自身、オフの日や仕事の後に、よくYouTubeを見ていたんです。自分でYouTubeに動画をアップして、多くの方に、少しでもバレエに興味をもっていただくきっかけになれたら素敵やなあと思いました。

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――「ちあこちゃんねる」開始は2019年、まだコロナ前ですね。コロナ禍で公演が減り、時間ができたので動画を撮り始めたダンサーの方は多いですが、忙しい中でも毎週きっちりアップされています。

本田 ペースを崩してしまうと、視聴者の方に届きづらくなってしまうと思いますから。私も自分でやるべきことを決めていかないと動けないほうですので、決めた曜日に粛々とアップしています。シンプルだけれど、それを続けることが大事かなと思っています。

――動画からは、クラスレッスンやバックステージの様子をかいま見ることができ、ヨーロッパで働くダンサーの生活がとてもリアルに伝わってきます。かと思えば、昨年流行したAdoの「うっせぇわ」や、「六甲おろし」に乗ってものすごい回転やジャンプを見せていたり、バレエのあらすじ解説ありレシピあり、バラエティに富んでいますが、動画のアイデアはどこから仕入れているのですか。

本田 バレエの映像だけではバレエをやっている方にしか見ていただけないと思うので、いろいろと織り交ぜています。スロバキアという国自体が日本では知られていないので、首都ブラチスラバの街を紹介してみたり......。新しい視聴者の方も検索から入ってくださるように、トレンドも無理のない範囲で取り入れています。ただし、バレエという軸はぶれないように。私にとってバレエはすべてで、そこから外れてしまったら何も残らないと思いますから。
視聴者の方から「バレエに興味がわいて、初めて観に行きました」とか「バレエを習い始めました」というコメントをいただくと嬉しいですね。本当に微力だけれど、バレエを知っていただくきっかけになれているのかなあと実感できます。

――予想外に反応がよかったのはどんな動画ですか。

本田 私自身、ダイエットで苦労した時期があって、栄養学を少しかじっているんですけど、意外と皆さん、食事のことには関心があるんだなと。低カロリーでおいしい鶏肉レシピとか、時短作り置き料理とか、レシピ動画はよく見ていただけているみたいです。
それとヴァリエーションを「踊ってみた」動画は、自分の踊りを「どや!」と自慢したいわけではなく、こんな踊りもありますよと紹介するつもりで迷いつつ載せたのですが、意外に良い反響をいただけて......。これからもたまに載せようと思っています。

――実は、個人的に最初に拝見した動画が「もしもジゼルがYouTuberだったら」なんです。その後、ヴァリエーションのほうを拝見して、こんな美しいバレエダンサーが、こんなネタをやってくれるんだとびっくりしました。ご実家で突然ジゼルになりきっているちあこさんに、自然に対応しているご家族が魅力的でした(笑)。

本田 あのシリーズもアップしてよいものかかなり悩んだ動画です(笑)。家でもよく撮影をしていますので、家族もすっかり慣れっこで、台本も仕込みも一切ないんですよ。

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「シェヘラザード」より

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「ダッタン人の踊り」より

――オンラインバレエ教室も始めていらっしゃいますね。各国で活躍しているプロダンサーの方が講師で、初心者から中級者向け、個人レッスンまであって魅力的です。

本田 個人でオンラインレッスンはやっていたのですけれど、コロナ禍をきっかけに、ヨーロッパ各地でプロとして働いている友人に声をかけて始めました。将来的には日本でバレエ教室を開きたいと思っていますが、どこからでも参加できるのがオンラインの良さなので、今後も続けていくつもりです。

――YouTubeなどのSNSを活用してバレエを広めていく上で大変なことや、課題だと感じていることはなんでしょうか。

本田 動画編集は時間がかかるので、毎回大変ですね。それと、YouTubeをやっていると、コメント等で「本業のバレエに集中しろ」と言われることがあります。私はあくまでバレエダンサーであり、今まで仕事に気を抜いたことは一度もないのですが。SNSには様々なご意見が集まるので、仕方のないことではありますね。日本ではバレエダンサーがYouTuberをやること自体に賛否両論があるように思います。

――「バレエはこれ以上間口を広げる必要はない」という意見もあり、SNS上で議論になったことがありますね。「広げ方」について様々な意見があるのは当然ですが、芸術を愛する者同士が脚を引っ張り合うような事態になってしまうのは非常に残念です。

本田 SNS上の発言を読んでいて、やり取りにもっと寛容さや冷静さがほしいなと思うことはありますね。
バレエを観ることは、日本では一般的になっていないし、もっと広める必要があると私は考えています。バレエダンサーが職業として成り立ちにくいという現実がありますし。バレエを広めるために、もっとSNSを活用しても良いのではないかと思うのです。
ダンサーがSNS等を通じて、視聴者の方々にまず「人」として興味をもってもらう。その人を入り口に、バレエに興味を持っていただけたらと考えています。ちあこちゃんねるは少しずつ視聴者の方が増え、今は5万人以上の方がチャンネル登録をしてくださっているので、海外や日本で活躍されているダンサーの方々をちゃんねるにお招きして、ファンを増やすお手伝いができれば......。たとえばチャンネル登録者5万人のうち、1割の方が公演に興味をもってくださったら、それは大きなことではないでしょうか。これはお金だけの問題ではなく、ダンサー一人ひとりが影響力をもつことが、バレエの良さを広く知っていただくことにつながるんじゃないかと思います。

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――SNSを使った広報活動が、日本でももっと成熟していくとよいですね。
今後やってみたいことについても教えてください。

本田 たくさんありますが、近々、日本でワークショップを開いて、直接指導させていただく機会をつくりたいと思っています。それと、2年前に企画していたひとり公演がコロナで中止になってしまったので、それは是非実現したいです。トークや映像もはさみつつ、踊って、ちょっとしゃべって、また踊って......というような。トークショーとバレエ公演のミックスみたいな感じで、お客様と一緒に楽しめる舞台を考えています。

――今後の展開、楽しみです。まずは、堀内元さんの公演がまもなくですね。

本田 今回はジャズとバレエのコラボでどんな一体感が生まれるのか、すごく楽しみです。日本でなかなか見られないバランシン・スタイルの作品『バランチヴァーゼ』や、様々な感情をドラマティックに表現した『サンティモン』など、一つの公演で様々な色を楽しめる公演になるのではないかと思います。

――劇場でお会いできるのを楽しみにしています。今日はありがとうございました。

堀内元バレエ・フューチャー2022
https://www.balletfuture.com/

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