「堀内元バレエ・フューチャー」で『タランテラ』を踊る、スターダンサーズ・バレエ団の塩谷綾菜にインタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一

――スターダンサーズ・バレエ団のピーター・ライト版『コッペリア』では、塩谷さんがスワニルダを踊られていましたが、とても良い舞台でしたね。特にラストシーンには驚かされました。素晴らしいアイデアだと思いました。

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ピーター・ライト版「コッペリア」第3幕 スワニルダ

塩谷 ありがとうございます。英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団でも、もうこのラストシーンは上演していないそうですから、現在では、スターダンサーズ・バレエ団だけで見られるヴァージョンになっています。

――私は人形が命を授かった時には、思わず「あっ」と声を上げてしまいました。スワニルダ役は、ライト版に限らず初役ですか。

塩谷 スタジオなどで少し踊ったことはありますが、全幕でスワニルダを踊ったのは今回が初めてです。

――林田翔平さんとのパートナーシップも良かったですね。若々しいカップルの感じがいきいきと感じられました。とても素直にスワニルダを演じられていました。

塩谷 全幕を踊り通すことは大変でしたけれど、とても楽しかったです。達成感もありました。スワニルダという役は、自分のキャラクターに合っているように感じました。
パートナーの翔平さんには踊りの部分や演技面でいろいろと助けてもらいました。彼はフランツの役がとても似合っていたので、そのおかげで私自身もスワニルダに入りやすかったです。

――2幕になるとコッペリウスと二人だけで掛け合いになりますから、大変でしたね。芝居してたら、急に踊りになったりします。

塩谷 はい、でもコッペリウスの鴻巣明史さんともたくさん話し合って、やりとりしながらできたので良い経験になりました。

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ピーター・ライト版「ジゼル」パ・ド・シス

――ピーター・ライト版の『ジゼル』も良かったです。塩谷さんはパ・ド・シスを踊られましたね。私はあのパ・ド・シスを振付に組み入れたところがライト版のいいところだと思います。パ・ド・シスを踊ったのも初めてですか。

塩谷 はい、私はスターダンサーズ・バレエ団に入団して初めて踊ったのが『ジゼル』でした。その時は村娘の中の一人でした。今回はパ・ド・シスとウィリを踊らせていただきました。

――スターダンサーズ・バレエ団に入られて、ピーター・ライトの振付を2作品踊られて、感想はいかがですか。

塩谷 その設定といいますか、登場人物の感情の現れ方が明確にわかりやすく作られていて、日常の中にある感情が観念的ではなく、具体的に描かれていますので、役にはまってしまうと、踊りやすかったです。

――次はジェローム・ロビンスの『牧神の午後』と『コンサート』、そしてバランシンの『スコッチ・シンフォニー』ですね。ロビンス作品は踊ったことありますか。

塩谷 ないです。全く初めてです。リハーサルが始まったところで、まだ配役は決まっていませんが、踊るのが今から楽しみです。

――ロシアのワガノワ・バレエ・アカデミーに留学されていましたね。

塩谷 はい、高校2年生の9月から1年間、当時は16歳でした。

――今は大変なことになっていますが、当時のロシアは安定していましたか。ワガノワの教えはいかがでしたか。

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塩谷 ワガノワ・バレエ・アカデミーの教えは、留学直後は脚の使い方などが違い大変でした。特に上体の使い方が大きくダイナミックで、<ザ・ロシア・バレエ>という印象でした。私は6年生(当時は9年制)のクラスに入ったので、特に基礎、基礎、基礎、と教えられました。

――日本人もいましたか。

塩谷 はい、日本人もいましたが、私のクラスは私一人でした。少し心細かったですが、それが良かったと思います。最初は怖いイメージでしたが、クラスメイトはみんな優しかったので助けられました。
クラスの担任の先生にも、すごくよくしていただきました。私は留学して1ヶ月くらいしてから、今思えば多分、インフルエンザに罹って2週間くらいお休みしてしまいました。その時には、フルーツをたくさん持ってお見舞いにきてくださいました。そして帰国する時には空港まで見送りにきてくださいました。すごく優しくしていただいて、大好きでした。

――1年間、ロシアで学んだことは大きかったですか。

塩谷 はい、とても大きかったです。本当はその後もロシアに残りたかったのですが、日本の高校を卒業するということが両親との約束でしたから、日本に戻って卒業しました。バレエ学校の敷地内にあった寮の生活もとても懐かしいです。またいつか行けたらいいなと思います。

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――舞台にも出ましたか。

塩谷 外国人向けの公演がたくさんありまして、エルミタージュ劇場にあるステージで踊りました。

――ああ、あの素敵な劇場ですね。美術館の中にあんな劇場があるなんて驚きですね。そうですか、日本に戻られて卒業されて大阪で活動されていて、2017年にスターダンサーズ・バレエ団に入団されたわけですね。

塩谷 そうです。まだ大阪で活動をしているさなか、「吉田都×堀内元 Ballet for the Future」に初回の2015年から出演させていただき、そして、2017年には『タランテラ』を踊らせていただきました。その直後に、スターダンサーズ・バレエ団に入団をさせていただきました。
以前から東京で踊りたい気持ちはあったのですが、そろそろ年齢的にも最後のチャンスかなと思い、チャレンジをしようと思いました。そして、ご縁があってスターダンサーズ・バレエ団のオーディションを受けさせていただくことができ、合格することができました。
堀内元さんの公演では、ほかにも元さんが振付けた『Romantique』や『Passage』なども踊らせていただきました。元さんの振付は、音楽にジャズをとり入れたものなどが使われていて、音の取り方などが難しいのですが、新しい感じで、踊るのがとても楽しいです。元さんの公演でしかこうした作品を踊ることはできないので、今回もとても楽しみにしています。

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「タランテラ」© Hidemi Seto

――『タランテラ』は、元さんに直接教えていただいたのですね。いかがでしたか。

塩谷 はい、『タランテラ』はもちろん、バランシン作品を踊るのも初めてでした。『タランテラ』自体がすごく難しくて苦戦しましたが、元さんご自身が何回も踊られていて得意にされていた演目でしたし、バランシンさんから直接教えも受けられていらっしゃるので、一つひとつのアドバイスの全部が的確で、厳しいですけれどすごく愛のあるご指導をしていただきました。とても勉強になりました。

――いい経験になりましたね。

塩谷 はい! すごく。この公演でなければ踊れない貴重な経験をさせていただきました。そして、7月26日の「堀内元 BALLET FUTURE 2022」で、再び踊らせていただけるのです!
2017年の『タランテラ』初役の時、リハーサルが始まって最初にびっくりしたのは、とにかく、"こんなにしんどい踊りがあるんだ" ということです。今でもよく覚えていますが、最初、振りをもらって元さんに見ていただく時、通しではなく、パートごとでのリハーサルだったのですけれど、最初にパートナーとの二人の踊りがあり、その後、自分の2つ目のパートが終わったくらいで手が痺れてしまって・・・意識は朦朧としていました。衝撃を受けました! 映像で見ると楽しそうに踊っていますが・・・。それほどまでに体力的に大変な作品です。

――『タランテラ』は全部で7分くらいで、女性も男性もはけることがありますよね。

塩谷 はい、はけても、その時間では、全然回復できません! でもそれだけに、本当に踊り甲斐があります。とてもいい経験になりました。
あれをさらさら踊られていた元さんは本当にすごいと思います。
バランシンの作品はどの作品も体力を消耗する、という印象があります。

――今回『タランテラ』を一緒に踊るスターダンサーズ・バレエ団の池田武志さんとはよく踊られていますか。

塩谷 全幕では、昨年の『くるみ割り人形』で初めて一緒に踊りました。彼は私が何をやっても、どうなっても全部助けてくれますから安心です。とても頼もしい存在です。

――池田さんは元さんの公演に出演するのは初めてですね。楽しみです。

塩谷 元さんの公演に出演するのも初めてですし、『タランテラ』を踊るのも今回が初めてで、とても楽しみにしています。

――では、塩谷さんがリードしなければですね。

塩谷 いえ、彼のパッションが素晴らしいので、既にリードされています。

――塩谷さんは、そのほかにはバランシン作品は何を踊られましたか。

塩谷 『ウエスタン・シンフォニー』と『セレナーデ』。次に『スコッチ・シンフォニー』を踊れるかもしれません。

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鈴木稔版「くるみ割り人形」第1幕
クララ(王子:池田武志)

――鈴木稔さんの作品は踊っていますね。振付はいかがですか。

塩谷 『くるみ割り人形』『シンデレラ』バレエ『ドラゴンクエスト』みんな踊っています。稔先生独自の振りというか音の取り方などがあります。とても魅力的な構成・演出で、こだわりがたくさん詰まっていますので、最初、慣れるまでは苦戦して時間がかかりました。
ですが、稔先生の作品はピーター・ライト作品と同じようにハートフルな演出も多く、登場人物に入り込んで踊れて楽しいです。ずっと踊りっぱなしだったり、結構ハードなシーンもありますが、踊り甲斐があります。

――スターダンサーズ・バレエ団には、アントニー・チューダーもレパートリーにありますね。

塩谷 はい、去年『火の柱』を踊りましたが、とても難しかったです。チューダー作品としての決まり事といいますか、その感情を出すためになぜこういう動きをするのか、ということを身につけなければならなかったので、それがとても難しかったです。踊りなんですけれども、踊りにしてはいけない、という感じですか、、、。重たい話でしたし、いろいろと考えさせられました。

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――ディヴィッド・ビントレーの『Flowers of the Forest』も踊りましたか。

塩谷 はい、吉田都さんの引退公演とNHKバレエの饗宴でも踊りました。とても好きな作品です。男性3人、女性3人のうちの一人を踊りました。この作品はスターダンサーズ・バレエ団に入る前に、新国立劇場オペラパレスでスターダンサーズ・バレエ団が上演するのを観に行きました。すごくいい作品だなと思っていたので、入団してからキャストに入れていただいて、嬉しかったです。衣裳も気に入っていますし、また、ぜひ踊りたいです。

それから次の公演で、私はまだ踊れるかどうかわからないですけれど、ロビンスの『コンサート』はとても面白いと思います。6人の女子が踊って、みんながそれぞれに間違え合う有名なシーンなど、とても楽しいです。国内バレエ団としての初演になります。外国の方はそういう表現が得意な印象がありますが、それをすべて日本人で演じた時どうなるかという楽しみもあります。チャレンジですけれど、スターダンサーズ・バレエ団は個性的なダンサーも多いので、バレエ団のカラーにも合っている作品だと思います。とても楽しみです。

スターダンサーズ・バレエ団「The Concert」公演の詳細は
https://www.sdballet.com/performances/2209_theconcert/

堀内元 BALLET FUTURE 2022 https://www.balletfuture.com

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