10回目を迎えた堀内充 バレエコクレクションは、新作3作品とストラヴィンスキーの『カード遊び』が上演された

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

「堀内充 バレエコクレクション 2022」

『金と銀』『胡蝶』『EPISODE/エピソード』堀内充:振付、『カード遊び』堀内完:振付

今回で10回目となる「堀内充 バレエコレクション2022」が開催された。2013年に「堀内元・堀内充 バレエコレクション」として始まり、コロナ禍などの厳しい状況もあったのだが、10年間にわたって毎年継続してきた公演である。会場はすべてめぐろパーシモンホールだった。

カード遊び

「カード遊び」撮影/木本忍

今回公演は、ストラヴィンスキーの台本・音楽による『カード遊び』を復元上演したことが注目を集めた。
『カード遊び』は1937年にストラヴィンスキーの曲にバランシンが振付け、メトロポリタン歌劇場で初演された。ジョーカー役はウィリアム・ダラーが踊った。そのほかには1945年に、シャンゼリゼ・バレエでジャニーヌ・シャラの振付をナタリー・フリッパールが踊ったヴァージョン、1965年にシュツットガルト・バレエにジョン・クランコが振付けたものなどが知られている。
堀内充の父、完は、『春の祭典』『ペトルーシュカ』『火の鳥』などストラヴィンスキーの音楽によるバレエを積極的に上演していたが、1982年には『カード遊び』を振付け、堀内充がジョーカー役を踊った。
『カード遊び』はトランプの3番勝負(ポーカー)を3章で描く。トランプのハート・ダイヤ・スペード・クローバーそれぞれのKing、Queen、Jack、A、2〜10、Jokerなどのカードがいくつか、音楽に乗せて踊りながら「役」を作るが、ジョーカーが登場してあちこちに絡み、さまざまに競い合う。堀内完のヴァージョンでは、最後の章でジョーカーに対して、強力なハートエースが登場して勝つことになる。音楽は、ストラヴィンスキーが一時的にバレエから遠ざかり、再び復帰した頃のもので、既存の曲をコラージュしたところもあり、独特の響きがあって興味深かった。今回の上演ではゲーム性までは表さなかったが、シンフォニックなおもしろさは十分に楽しめた。
初演の装置・衣装は朝倉摂が担当、手の模様をアレンジした舞台幕など当時の前衛的な気分も感じられた。衣装は再現できなかったのだが、装置は奇跡的に初演時のものが残っていて使うことができた、という。堀内完や朝倉摂の新しい表現に積極的にチャレンジしていた"熱"に、目を醒まされた想いである。

カード遊び

「カード遊び」撮影/木本忍

新作3作品も上演された。幕開けはオペレッタ『メリー・ウィドウ』の作曲家、フランツ・レハールの音楽による『金と銀』。5組のカップルが豪華な舞踏会で流麗にワルツを踊った。10回目のバレエ・コレクションを祝福する意を込めたという。
『胡蝶』は、昨年、逝去した恩師・牧阿佐美の『胡蝶』よりパ・ド・ドゥを観て、心を動かされて振付けたもの。晩春に生まれるために、早春に花開く梅花に会うことのない蝶の精と僧侶による能の『胡蝶』から触発されたバレエである。品の良いファンタジーで、純粋に美しさを求めた恩師への哀悼を込めた舞台。
『EPISODE/エピソード』は、前回に続くピアニスト、小佐野圭とのコラボレーション。バッハ『G線上のアリア』ラフマニノフ『Op32.12 前奏曲』プーランク『愛の小径』ショパン『英雄』などの演奏とともに踊られる舞台。女性ダンサー中心のダンス、充と女性ダンサー、男性ダンサー中心のダンス、そして最後はそれぞれがペアとなって、愛を確かめ合って生きていく、といった展開で、時折、ダンサーたちが彫刻の像のように静止し、人間のオブジェとなって印象を残した。
多くの振付作品を残してきた堀内充らしいさまざまな題材を駆使した、ヴァラエティに富んだ創作作品が上演され、大いに楽しめた公演だった。次の10年もまた、さらなる創作の豊穣な展開を見せて欲しい。
(2022年5月27日 めぐろパーシモンホール)

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「金と銀」撮影/木本忍

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「EPISODE/エピソード」撮影/木本忍

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「胡蝶」撮影/木本忍

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「胡蝶」撮影/木本忍

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