小野絢子の動きと気持ちと音楽が一体となった素晴らしいシンデレラ

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『シンデレラ』フレデリック・アシュトン:振付

<シンデレラ・ストーリー>という言葉を生んだシャルル・ペローの童話『シンデレラ』は、バレエの題材に適しており、しばしばバレエとして上演されてきた。近年では1944年にセルゲイ・プロコフィエフのバレエ音楽が作曲され、45年にボリショイ劇場でロスチスラフ・ザハーロフ振付、ガリーナ・ウラーノワ主演で、翌年にはキーロフ劇場でコンスタンチン・セルゲイエフ振付、ナタリア・ドゥジンスカヤ主演で上演された。さらにアシュトン版が1948年にモイラ・シアラーの主演で、イギリス最初の全幕バレエとしてサドラーズウェルズ・バレエ団により上演された。以降このアシュトン版が世界中で親しまれ、数多く上演されてきている。
新国立劇場バレエ団もこのアシュトン版『シンデレラ』を1999年以来、年末や年始を中心にほとんど毎年のように上演してきており、とても人気のある演し物となっている。今回公演では、ゴールデンウィークに向けて、小野絢子/福岡雄大、米沢唯/井澤駿、木村優里/渡邊峻郁、池田理沙子/奥村康祐という4組のキャストが組まれ、全6公演が開催された。

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小野絢子 撮影 /瀬戸秀美

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小野絢子、福岡雄大 撮影 /瀬戸秀美

私はこの役を踊ると、一段と光り輝く小野絢子のシンデレラと福岡雄大の王子で観ることができた。このシリーズのヴィジュアルに採用されている池田理沙子のシンデレラも観たかったのだが、スケジュールを調整することが叶わなかった。2010年以来シンデレラを踊ってきた小野絢子は、気持ちに余裕があり、脱力した踊りで見事な舞台を見せた。小野絢子の日本舞踊の素養は、シンデレラを描く表現に良い効果を与えている。些細な手の動かし方も繊細で優美。巧まずして動きと気持ちと音楽が一体となってファンタジーを創っている。
シンデレラは、義姉たち(奥村康祐、小野寺雄)に苛められ蔑まれ、華やかに着飾って宮殿の舞踏会に連れて行ってもらえなくても、決していじけない。母への想いを拠り所に、素直で豊かな空想力を伸びやかに羽ばたかせ、箒をパートナーにして踊る。小野シンデレラと踊る箒はとても幸せそうだった。やがて仙女の導きで煌びやかな馬車に乗って宮殿の舞踏会へ。
シンメトリーが永遠に続く魔法の宮殿では、廷臣たちの踊り、義姉たちとナポレオン、ウェリントンの踊り、王子の登場と友人たちの踊り、パスピエやマズルカ、ワルツ、シンデレラの登場と踊り、シンデレラと王子のパ・ド・ドゥ、オレンジの踊りなどを道化(木下嘉人)の踊りが紡いでいく。その間、真夜中の大時計が時を打つまで、シンデレラと王子の恋がスリリングに展開する。しかし、いつしかシンデレラは消え、ガラスの片方の靴だけが残されていた・・・。
プロコフィエフの美しい旋律が、魔法の宮殿の空間に交響して、夢と現実の行き交いがリアルに感じられ、まさに息もつかせぬ素晴らしい展開だった。
少女の純粋な心が描く宮殿や衣裳は極めて豪華に、しかし少し危うく出現させる巧妙な演出。ナラティヴなパートはあっさりとコミカルにすませ、際立った旋律の音楽とダンスを効果的に響き合わせる。そして心温まるドラマを表した、プロコフィエフとアシュトンの心憎い傑作だが、それを舞台に出現させたのは新国立劇場バレエ団である。
(2022年4月30日 新国立劇場 オペラパレス)

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小野寺雄、貝川鐡夫、奥村康祐 撮影 /瀬戸秀美

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撮影 /瀬戸秀美

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木下嘉人、奥村康祐 撮影 /瀬戸秀美

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小野絢子、福岡雄大 撮影 /瀬戸秀美

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撮影 /瀬戸秀美

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