Noism×鼓童『鬼』記者発表ーー鬼伝説の里、新潟から世界へ向けて発信する

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

金森穣率いるりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館の専属舞踊団 Noism Company Niigata と佐渡を拠点として活動する太鼓芸能集団 鼓童が、作曲家・原田敬子による新曲で共演を果たす。この公演は7月1日から新潟を皮切りに埼玉、京都、愛知、山形と巡回する。4月22日にりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館にて行われた記者発表で、金森穣と原田敬子、そして鼓童メンバーの石塚充が登壇した。彼らが新潟から世界へ向けて発信するテーマや意気込みについて語った。

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金森 穣

金森は制作のきっかけについて、「新潟で活動しているからには、いつかこの土地をテーマにした作品に取り組みたいと思っていたが、これまでなかなか実現できませんでした。二年前から<新潟>についての作品を創作したいと考えてきました。Noismの活動継続問題で揺れている頃、もし今後、この場所での活動が終わるとするなら、新潟を扱ったこの作品がこの場所での最後の作品になるだろうという覚悟のもと、今までやってこなかったことをやりたいという思いであえて「新潟」というテーマに挑むことになりました」と語った。
佐渡の伝統芸能では鼓童の存在は大きく、コンサートやCDでその楽曲に触れ、舞踊作品を制作したり、佐渡の鼓童村でワークショップを開催したこともある金森は、2016年から鼓童の新代表となった船橋裕一郎とオンラインで対談し、いつか共演したいという思いを実現したくなったという。一方、鼓童メンバーの石塚は「Noismが結成された当初から注目しており、1ファンとして舞台を見に何度も足を運びました。憧れの存在として、いつか舞台で共演したいという夢を募らせていました。今回、同じ新潟に住む者同士が力を合わせて世界に向けて発信していく機会を得て、身の引き締まる思いです」と抱負を述べた。

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『鬼』

金森は、2019年に利賀村のシアターオリンピックス『still/speed/silence』でコラボレーションした原田敬子に再び新曲を委嘱した。「2年前、原田さんの楽曲『still/speed/silence』に取り組んだとき、打楽器が強烈な響き方をして体の内部がヒリヒリするくらいでした」と、当時の衝撃の感想を述べる。
新曲を依頼された原田は、「2018年頃からシアター・オリンピックスのために新潟を訪れ、Noismを見ていました。今回、政治・音楽・教育・地形など新潟について研究されている5名の方にお話を伺い、町のお店の方々にも<新潟とは何か>と尋ねて歩き回りました。新潟の民謡には鬼が多く登場します。また、鼓童の前身は50年前「鬼太鼓座(オンデコザ)」という名称でした。「鬼」という字は「田」の上に角(つの)があり、その下に「心」と「邪気」を表す「ム」とが組み合わさっているが、人間の心が邪気に襲われ頭が暴走して戦争などの愚かなことを引き起こしてしまう、という人間の危うさを表しているのではないか。奇しくも現在の国際情勢を想起させます。皆さんと力を合わせて心の鬼を吹き飛ばしたい」と今回の主題について説明した。
金森は「新潟についてリサーチを進めるうちに、この地域の広大な«平野»が生み出す地平線から日本海の水平線へ、そして大陸から佐渡に繋がる海溝が深く潜った分だけ隆起する金山という壮大な地形のイメージが浮かんだ。地域に伝えられる鬼伝説や金工師、修験道、役行者などの存在は必ずしもネガティブなものではなく、«鬼は内»と言って家の中に鬼を取り込む風習もあります。鬼は人間の中にあり、それを肯定する精神の強さ、光にもなりうるのです」とも語った。
石塚は「鬼は人の願いを天に届ける存在で、僕らもある種«鬼»といえます。日本の片隅から世界に向けて熱い思いを届けたい」と述べた。

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原田 敬子

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石塚 充

リハーサルが始まって、わずか4日しかすぎていない時点での記者発表だったが、金森は「鼓童のメンバーは腹が据わっていて、音に真摯に向き合っている。鼓童村という拠点で過ごしている強みを感じる。Noismメンバーもこれから変貌していくと思います」と舞台稽古の感想を述べた。石塚は「Noismの皆さんが隅々まで鍛え抜かれた肉体で、手を抜くことなく何時間も踊る姿に度肝を抜かれます。これまで仲間と太鼓を無心に叩いてきましたが、今回は目の前で踊る演者に向けて音を届けるという違いがあります。原田さんが魂を込めて創作した曲を我々が魂を込めて太鼓を叩き、その響きにNoismチームの魂をさらに注ぎ込んで踊ります。若いメンバーの音にも変化が生まれて、面白い化学反応が起きています。原田さんの楽曲は、鼓童の曲の中でも最高難度といっても過言ではなく、メンバー全員で必死に取り組んでいます。メンバーの体がおかしくなるくらいです。産みの苦しみを味わっているところですが、とても充実した時間を過ごしています」とリハーサルの様子について報告した。

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『鬼』リハーサル風景/撮影:遠藤 龍

今回の楽曲について、原田は「旋律がなく、人が誰しも持っている心臓の鼓動のリズム、すなわち«歪んだ3拍子»が通底に流れています。«鼓動»は«鼓童»の由来でもあります」と解説した。石塚は「今までやったことのない奏法にチャレンジします。クッキングペーパーでこすったり、一音ごとに手に持つものが変わったりします。規則正しい拍子を感じさせないように、呼吸しているように有機感を出すことを心がけています。Noismの皆さんが動くのを見ながら演奏するのが今は難しいですが、最終的には気持ちよく感じるようになると思います」と実際の演奏について語った。金森は「7人の太鼓メンバーが14本の腕で太鼓を叩き、14種類の音が生まれる。それに合わせて14人のダンサーの手足それぞれ28本ずつを使った踊りがいかに難しいか、想像できますか? 原田さんこそ«鬼»だと思います!」と苦笑混じりに話した。
金森・原田・石塚の三人とも、音が劇場全体にどう響き、その空間に身を投じることによって演者や観客の肉体や意識がどのように変容していくのかを劇場で確かめてほしいと願っている。石塚は「ストリーミング配信で何でも見られる時代だが、生身の身体がひとつの空間に集まり作り上げたものを同じ場で鑑賞することで、ものすごい体験ができると思います。ぜひ劇場に足を運んでください」と訴えた。

今回、同時上演されるのが、ストラヴィンスキーの『結婚』。バレエ・リュスで活躍したストラヴィンスキーの作品『火の鳥』『春の祭典』を手掛けた金森は「今年はディアギレフ生誕 150 周年で、ストラヴィンスキーの音楽を片っ端から聴き込んでいったところ、『結婚』の楽曲に強いインスピレーションを感じました。原本のロシア語の歌詞を日本語に翻訳してから、自分なりに台本を再構築したという点で、この作品はバレエ・リュス原版の新演出版ということになります。楽曲の一音一音にダンサーが反応しています。オリジナルのニジンスカ版や我が師のキリアンの同名の作品も参考程度に見てはいます。ピエール・ローティの小説『お菊さん』で外国人が日本をどう見たかが描かれていますが、日本の側からも異国人を鬼ととらえる考え方もあり、今公演のテーマと通ずるものがあります」と解説した。

◆Noism×鼓童『鬼』特設サイト
https://noism.jp/noismxkodo/

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左より、原田 敬子、金森 穣、石塚 充

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