開場25周年を迎えた、新国立劇場バレエ団の2022/23シーズン バレエ ラインアップが発表された

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

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吉田都 舞踊芸術監督

3月1日、新国立劇場の2022/23シーズンラインアップ発表の記者会見が行われ、演劇・舞踊・オペラの3部門の芸術監督が揃って登壇した。舞踊については、吉田都舞踊芸術監督からそれぞれの演目についての紹介があった。
冒頭、日本からは離れているとはいえ、ロシアがウクライナに攻め込みミサイルが飛翔すると言う、ありうべからざる事態が起こっており、この事態に関連する質問があった。新国立劇場でもたびたび指揮をとっているアレクセイ・バクランは、ウクライナ国立歌劇場の指揮者でもある。バクランについては大変に気掛かりだが、現在は連絡は取れているとのことだった。また、吉田都監督はかつて湾岸戦争が勃発したその日に『白鳥の湖』を踊っていた、と自らの体験を語った。オペラ芸術監督の大野和士は、昨日、東京文化会館でスターリン時代ソ連上層部の毀誉褒貶で翻弄されたとも言われる、ショスタコーヴィチの交響曲を振ってきたと言う。アーティストは、戦火を背にして踊らなければならないこともあるし、絶対的権力と直接対峙して作品を発表することもある、と言うことを今更ながら実感させられた。さらに現在、新型コロナ禍という舞台芸術にとって未曾有の状況に直面し、そこになんとか細い道が見えかかってきたかもしれない時なのだが、一難去ってまた一難。否、未だ一難も去っていない。

22/23シーズンの新国立劇場バレエ団では、開場25周年記念公演となる『ジゼル』(アダン/吉田都、マリオット)を始め、『A Million Kisses to my Skin』(ドウソン/J.S.バッハ)『夏の夜の夢』(アシュトン/メンデルスゾーン)『マクベス』(タケット/ミュシャ)の4作品が新制作される。
『ジゼル』は、カンパニーの代表的舞台と見られることもあるロマンティック・バレエの伝統的作品なので、吉田監督自らがステージングするのであろう。確かに新国立劇場バレエ団の『ジゼル』を、「あっ、あれか」とその舞台をすぐに思い浮かべることはできない気がする。そして今年1月に予定されながら果たせなかった、アシュトンの傑作『夏の夜の夢』。私は英国ロイヤル・バレエのレパートリーの中でも最もチャーミングな作品の一つだと思う。新国立劇場バレエ団としてのニュアンスを加えることができれば、大成功だったと胸を張れるだろう。また、英国で修行を積んだデヴィッド・ドウソン、ウィル・タケットの舞台にも期待しよう。

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© 2017 ROH. Photograph by Tristram Kenton

ラインアップの基本となる古典全幕作品は『ジゼル』10月、『くるみ割り人形』(イーグリング/チャイコフスキー)12月、『コッペリア』(プティ/ドリーブ)23年2月、『白鳥の湖』(ライト/チャイコフスキー)23年6月、となっている。その間に「ニューイヤー・バレエ」(『A Million Kisses to my Skin』、『インフォニー・イン・C』バランシン/ビゼー、作品未定)と「シェイクスピア・ダブルビル」(『夏の夜の夢』『マクベス』)が挿入される、と言う全体の構成となっている。
そのほかには、今年1月にも上演された『ペンギン・カフェ』(ビントレー/ジェフス)を<こどものためのバレエ劇場 2022>として、絶滅危惧種の動物などに関するプレトークを付けて上演すると言う試みが予定されている。ただ、このバレエは命の命運に関わる深刻なテーマを扱っており、私にはシュールとも感じられた表現もあった。楽しい着ぐるみバレエとは異なるところもあり、多少の配慮は必要かもしれない。
ダンスのラインアップは、『春の祭典』(平山素子、柳本雅寛/ストラヴィンスキー)『半獣神の午後』(平山素子/ドビュッシー)「DANCE to the Future」。4回目となる「ダンス・アーカイヴ in JAPAN 2023」は、3人の女性舞踊家、芙二三枝子、折田克子、アキコ・カンダの作品をアーカイヴ上演する。

吉田都舞踊芸術監督にとっては、着任早々から新型コロナ禍に付き纏われ、入念にリハーサルを行なっても感染拡大を受けて公演中止となったり、無観客で上演せざる得なかったりした舞台が多くあった。それらの上演に関する権利関係なども整理し、可能な限り特色を出して再構成したラインアップであろう。未だ、存分に腕を振るう、と言う条件が整っていないのは甚だ残念なことである。

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(左から)小川絵梨子 演劇芸術監督、大野和士 オペラ芸術監督、吉田都 舞踊芸術監督

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