〈シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち〉が披露する三つの素晴らしいプログラム
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ワールドレポート/東京
佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki
新型コロナ禍にあって、シュツットガルト・バレエ団はドイツの国家機関の要請により3月に予定していた日本公演を断念したが、これに代わるものとして、バレエ団の精鋭たちによるガラ公演が、3月19〜21日、東京文化会館で開催されることになった。題して〈シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち〉。
「ボレロ」 © Stuttgart Ballet
来日するのは、日本でも人気の高いエリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルら6人のプリンシパルと、2019年のローザンヌ国際バレエコンクールで優勝したマッケンジー・ブラウンと2位入賞のガブリエル・フィゲレドを含む若手6人の計12人。3日間の公演だが、A、B、Cの3種のプログラムが日替わりで用意され、シュツットガルト・バレエ団の創設者で物語バレエの巨匠ジョン・クランコやケネス・マクミランによる代表作のパ・ド・ドゥ(PDD)をはじめ、バレエ団が輩出したジョン・ノイマイヤーやウィリアム・フォーサイス、ウヴェ・ショルツらの名作や気鋭の振付家による作品など、実に多彩で盛りだくさんな内容になっている。最大の話題は、フォーゲルがベジャールの傑作『ボレロ』の"メロディ"を毎回、東京バレエ団と踊ることだろう。フォーゲルはこの作品を一昨年と昨年にシュツットガルト・バレエ団と地元で踊って高い評価を得ているが、シュツットガルトでの上演しか許可されていないという。それが今回に限り特別に上演が認められたというから、見逃せない舞台になりそうだ。
3日とも上演される作品はほかに2つある。一つは、バデネスとフォーゲルによるマクミランの『うたかたの恋』より第2幕のPDD。20世紀初頭のオーストリアを舞台に、皇太子ルドルフと愛人マリーの悲劇を描いたドラマティックバレエの傑作で、今回は2人の初めての逢瀬が演じられる。日本では全幕で上演されることが少ないだけに、貴重な機会になりそうだ。もう一つは、クランコの『オネーギン』より第1幕のPDD。タチヤーナが夢の中で憧れのオネーギンと踊るシーンで、Aプロではロシオ・アレマンとマルティ・フェルナンデス・パイシャのカップルが、B、Cプロではバデネスとフォーゲルが踊る。
「うたかたの恋」 © Stuttgart Ballet
クランコの作品ではほかに『ロミオとジュリエット』より第1幕の躍動感あふれるPDD(B、Cプロ)と、グリーグの『ホルベアの時代より』による音楽に寄り添ったPDD(Bプロ)が取り上げられており、クランコの異なる才能がうかがえるものになっている。ノイマイヤーの作品からは、シュツットガルト・バレエ団が初演した『椿姫』より、第2幕のマルグリットとアルマンの幸せに満ちたPDDがバデネスとデヴィッド・ムーアにより踊られる(Bプロ)。フォーサイス作品からは、ロンドンのシンガーソングライター、ジェイムズ・ブレイクの音楽による『ブレイク・ワークス1』よりパ・ド・トロワが選ばれた(A、Bプロ)。シュツットガルト・バレエ団の常任振付家を務めたショルツはシンフォニック・バレエで異彩を放ったが、今回上演されるのはハイドンの壮大なオラトリオに振付けた『天地創造』から第24曲「威厳と気高さを身につけ」の祝祭的なソロで、これをローザンヌで入賞した新鋭フィゲレドが披露するのも注目される(B、Cプロ)。さらに、クランコのミューズとして活躍し、彼の死後に芸術監督を務めたマリシア・ハイデが手掛けた『眠れる森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥを、ローザンヌに入賞した期待のペア、ブラウンとフィゲレドが踊るのも話題だろう(A、Cプロ)。
「眠れる森の美女」 © Stuttgart Ballet
ほかにも、2005年から18年まで常任振付家を務めたマルコ・ゲッケがジャズ・シンガー、ニーナ・シモンの曲に振付けた『スペル・オン・ユー』(Cプロ)や、ルーマニア出身のエドワード・クルグがショパンのノクターンを用いて創作した『Ssss...』よりソロ(B、Cプロ)、バレエ団の現役ダンサー、ロマン・ノヴィツキーが3人の男性が張り合う様をユーモラスに活写した『アー・ユー・アズ・ビッグ・アズ・ミー?』(Bプロ)など、個性的な作品が並び、とても全部は紹介しきれない。それでも最後に触れたいのは、フォーゲルの自作自演による『ノット・イン・マイ・ハンズ』(Aプロ)。自作といっても、元団員のトーマス・レンペルツと共に創作したもので、コロナ禍の下でのアーティストの葛藤を描いたというから、色々な意味で反響を呼びそうだ。各プログラムとも上演時間は約2時間半の予定。見応えは十分だろう。
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