英国ロイヤル・バレエのシネマシーズンの再開はピーター・ライト版『くるみ割り人形』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新型コロナウィルス感染拡大のため休止していた、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2021/22が再開される。今シーズンはバレエが『くるみ割り人形』(ピーター・ライト振付)『ロミオとジュリエット』(ケネス・マクミラン振付)『白鳥の湖』(マリウス・プティパ、レフ・イワノフ振付、リアム・スカーレット演出)、オペラは『トスカ』『リゴレット』『椿姫』というラインアップである。

【ROH(1)】:くるみ割り人形 (c) 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton.jpg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Christopher Saunders as Herr Drosselmeyer in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.jpg.jpeg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

まずはピーター・ライト版『くるみ割り人形』が2月18日より全国公開される。
英国ロイヤル・バレエの『くるみ割り人形』はピーター・ライトの振付により、クララの夢の世界をスケール大きく描く豊穣感の溢れる名作となっている。
『くるみ割り人形』の多くのヴァージョンは、ドロッセルマイヤーをクリスマス・パーティにやって来た謎めいた手品師あるは人形使いとしている。しかしライト版では優れた人形使いであるドロッセルマイヤーが、シュタルバウム家のパーティで何を試みようとしているか、をプロローグで示唆して物語を進めていく。ドロッセルマイヤーは、ネズミの女王の復讐によりくるみ割り人形に姿を変えられてしまった甥のハンス・ピーターの若くハンサムな本当の姿を取り戻そうとして、パーティにやって来る。本当の姿にするためには、外見をくるみ割り人形に変えられているハンス・ピーターを純粋な心で愛してくれる少女が現れなければならない・・・。
シュタルバウム家のクリスマスパーティでドロッセルマイヤーは、人形や魔法を総動員して、この難問に取り組む。まず、純真な心を持つ少女クララに、くるみ割り人形をプレゼントする。クララはくるみ割り人形を大変に気に入り、弟のフィリップに悪戯や妨害されながらも、ドロッセルマイヤーの力も借りて必死に守る。同時に、ジェントルな態度をとってくれる友人だっていることを経験する。
やがて賑やかだったクリスマス・パーティもお開きとなり、クララは自分の部屋で寝るが、居間に残してきたくるみ割り人形のことが気になり夜着のまま戻り、その姿を見て安心してうたた寝をしてしまう・・・。
するとクララの夢の中では、くるみ割り人形とおもちゃの兵隊がネズミの軍隊と激しい戦いを繰り広げる。クララの愛するくるみ割り人形は奮闘するが、大きなネズミの王と対決で危機に陥る。見兼ねた夢の中のクララは、シューズでネズミの王の頭を引っ叩く、二度、三度。そのおかげでくるみ割り人形はネズミ軍に無事勝利し、呪いが解けて素敵な若者ハンス・ピーターの姿を取り戻したのだった。

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Artists of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.jpeg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Luca Acri as Hans Peter and Isabella Gasparini as Clara in The Nutcracker, The Royal Ballet ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou .jpeg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

クララとハンス・ピーターはドロッセルマイヤーの魔法が現した結晶が煌めく雪の国へ。さらにすべてがおいしそうなお菓子で作られている国へも旅する。お菓子の国では、この国の王子と金平糖の精にネズミの王との激しい戦いとその結果を報告。そして二人のために珍しいダンスが次々と踊られる素晴らしい饗宴が開かれた。スペイン、アラビア、中国、ロシア、蘆笛が踊られ、二人もその踊りの輪に加わっていっぱい楽しむ。ローズフェアリーを中心に花のワルツが踊られて、金平糖の精と王子によるグラン・パ・ド・ドゥが華やかに踊られて、宴はクライマックスを迎える、、、。
ふと気がつくと、クララはクリスマスパーティが開かれたホールで微睡んでいたのだった。思わず「寒い、、、」、そこを通りかかった青年が優しく上衣を肩に掛けてくれた。「えっ、ハンス・ピーター、、、?」その場を駆け抜けて行った青年はドロッセルマイヤーの部屋に着く。「おお、ハンス! 良かった。良かった、本当に良かった!」
ピーター・ライト版の『くるみ割り人形』は、二度も感動を届けてくれる。ピーター・ライトは、すべての観客を幸せな気持ちにさせてくれる豊かな心を持ったバレエの作者なのである。

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Isabella Gasparini as Clara and Luca Acri as Hans Peter in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2020 ROH. Photograph by Emma Kauldhar.jpeg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Luca Acri as Hans Peter in The Nutcracker, The Royal Ballet ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou (1).jpeg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

全編を通してほとんど出ずっぱりのクララ役のイザベラ・ガスパリーニとハンス・ピーターとくるみ割り人形を演じたアクリ瑠嘉、そしてドロッセルマイヤー役のクリストファー・サウンダーズが素晴らしい。3人のバランスが実によくとれていて、絶妙だったので、物語が流れるように展開していて、息つく暇もなかった。特にアクリ瑠嘉はしっかりと身についた表現力が素晴らしかった。役者が多いロイヤル・バレエの中でも屈指の表現力の持ち主と言えるだろう。今後に大きな期待を抱かせてくれた。
金平糖の精のヤスミン・ナグディと王子のセザール・コラレスが踊ったグラン・パ・ド・ドゥは、さすがにじっくりと見せ、豪華さが感じられた。また、時折、姿を見せたバレエ・スクールの生徒たちの天使が可愛らしくて、クリスマスならではの奇跡を思わせ、『くるみ割り人形』らしい特別の一夜の現出に一役買っていた。

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Isabella Gasparini as Clara and artists of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou.jpeg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

【ROH(1)】:くるみ割り人形 Cesar Corrales as the Prince and Yasmine Naghdi as the Sugar Plum Fairy in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou (1).jpg

© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

2022年2月18日(金)より TOHO シネマズ 日本橋 ほか全国公開!
■公式サイト http://tohotowa.co.jp/roh/
■配給:東宝東和

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