第16回〈世界バレエフェスティバル〉の有料配信が決定

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

2021年8月、コロナ禍の危機を乗り越えて開催された3年に一度のバレエの祭典、第16回〈世界バレエフェスティバル〉。海外からの参加に厳しい制約が課される中、パリ・オペラ座バレエ団をはじめ世界有数のバレエ団から選び抜かれた23人のトップダンサーが集まり、珠玉のステージを繰り広げた。いつもより規模が縮小されたとはいえ、コロナ禍の下とあって、深く記憶に刻まれる公演になったのではないだろうか。
その貴重な舞台が、45年の〈世界バレエフェスティバル〉の歴史上、初めて有料配信されるという。これは画期的なことだ。舞台映像には著作権の問題や出演者の承諾など、クリアしなければならない問題が多く、これまで実現できずにきたからだ。今回は緊急事態宣言発令中での開催となり、入場者数が制限されたこともあり、鑑賞できなかったバレエ・ファンの声にも応える形で配信にこぎつけたのだろう。配信されるのはA、Bそれぞれのプログラムから8作品ずつで、古典から現代の作品まで幅広く網羅しているが、特に注目されるのは、モーリス・ベジャールの『椅子』という滅多に上演されない作品が含まれていることだろう。また、舞台映像だけでなく、公演に臨むダンサーたちの生の声を収めたインタビューや、普段は見られないバックステージの映像も入っているというから、鑑賞する楽しみも増しそうだ。配信期間は、2021年12月20日から22年1月10日までで、何度でも繰り返し視聴できるというのも嬉しい。

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photo Kiyonori Hasegawa

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アレッサンドラ・フェリ、ジル・ロマン photo Kiyonori Hasegawa

配信される演目や踊り手について、もう少し触れたい。既に述べたように、演目の中で最も注目されるのは『椅子』。ベジャールがイヨネスコの不条理劇を基にワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を用いて創作した長大な作品で、〈バレエフェス〉では、1994年の第7回にマリシア・ハイデとジョン・ノイマイヤーにより上演されただけである。今回は27年振りの上演とあって話題を集めていたが、期待にたがわず、アレッサンドラ・フェリとジル・ロマンという円熟期のダンサーが90代の老夫婦を演じて深い感銘を残した。作品が難解なこともあり、この貴重な舞台を繰り返し視聴できるのはありがたい。
ダンサーでは、パリ・オペラ座バレエ団の活躍が目立つ。アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオは現代作品で、オニール八菜とマチアス・エイマンは古典作品で、それぞれ端正な演技を披露している。〈バレエフェス〉初登場のロシアのカップルは2組。エカテリーナ・クリサノワと人気急上昇のキム・キミンは『海賊』と『ドン・キホーテ』で華麗な技を全開し、オリガ・スミルノワとウラジーミル・シクリャローフは『ロミオとジュリエット』(ラヴロフスキー振付)で瑞々しい演技をみせた。ボリショイのバレリーナたちとマリインスキーのダンサーがバレエ団の枠を越えて共演するのは、〈バレエフェス〉だからこそ可能になったのではないだろうか。
ハンブルク・バレエ団の菅井円加とアレクサンドル・トルーシュも初登場組で、同団芸術監督ジョン・ノイマイヤーによる趣きの異なる2作品を踊って存在感を示した。菅井はダニール・シムキンと組んで『グラン・パ・クラシック』も踊った。フリーデマン・フォーゲルが、ドロテ・ジルベールとは『オネーギン』より第1幕のパ・ド・ドゥを、エリサ・バデネスとは第3幕のパ・ド・ドゥと、相手を変えて踊っているのも興味深い。ソロ作品で配信されるのは2作品。スヴェトラーナ・ザハロワによる『瀕死の白鳥』は格調高く洗練の極み。マルセロ・ゴメスは『スティル・オブ・キング』(ヨルマ・エロ振付)で強靭な身体性を発揮している。なお、【Aプロ】【Bプロ】のどちらも視聴時間は120分をこえるというから、見応えは十分だろう。

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photo Kiyonori Hasegawa

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第16回〈世界バレエフェスティバル〉有料配信

・配信期間:2021年12月20日(月)18:00〜2022年1月10日(月・祝)23:59

・配信演目
【Aプログラム】
『ゼンツァーノの花祭り』:オニール八菜、マチアス・エイマン
『ロミオとジュリエット』より第1幕のパ・ド・ドゥ:オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・シクリャローフ
『パーシスタント・パースウェイジョン』:菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ
『オネーギン』より第1幕のパ・ド・ドゥ:ドロテ・ジルベール、フリーデマン・フォーゲル
『海賊』:エカテリーナ・クリサノワ、キム・キミン
『オネーギン』より第3幕のパ・ド・ドゥ:エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
『「瀕死の白鳥」:スヴェトラーナ・ザハロワ
『ライモンダ』より:マリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ラントラートフ

【Bプログラム】
『グラン・パ・クラシック』:菅井円加、ダニール・シムキン
『スティル・オブ・キング』:マルセロ・ゴメス
『白鳥の湖』より黒鳥のパ・ド・ドゥ:エリサ・バデネス、ワディム・ムンタギロフ
『3つのプレリュード』:アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ
『海賊』:オニール八菜、マチアス・エイマン
『椅子』:アレッサンドラ・フェリ、ジル・ロマン
『シャル・ウィー・ダンス?』より"アイ・ガット・リズム":菅井円加、アルクサンドル・トルーシュ
『ドン・キホーテ』:エカテリーナ・クリサノワ、キム・キミン

■販売期間:2021年12月6日(月)21:00〜2022年1月10日(月・祝)21:00
世界バレエフェスティバル【Aプロ】+バックステージ特別映像&ダンサーインタビュー
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・第16回〈世界バレエフェスティバル〉有料配信公式サイト
【日本語】https://www.nbs.or.jp/stages/2021/wbf/streaming.html
【English】https://www.nbs.or.jp/english/stages/2021/wbf-on-demand/top.html
(問い合わせ:NBSチケットセンター 03-3791-8888)

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